歪み者でも英雄になれますか?

@alt_makina

1.Hello so far 「Canbest」!

 ━━━━━━終わっちゃったなぁ…

 シュッとした学ランに3年間も見事に雨風から耐えたくたびれた学生鞄。胸に下げた銀のアイリスのネックレス。

 ここまではいつもと変わらないけど変化点を挙げるとすれば胸に着けたコサージュと卒業証書の入った筒を持っているところ。


 今日、俺は架橋中学校かけはしちゅうがっこうを卒業する。春風が吹き桜の花弁が舞う様の校舎はどこか懐かしさに輝いて見えた。


 (この後は正門前で集合写真撮るんだっk…)


 ガッ!と肩に手を回され体を乱雑に引っ張られる━━━


「なぁに物思いにふけてるんだよ正一しょういち。」


「……こういう時は感傷に浸るもんだぜ、蒼太そうた。」


 飛岸蒼太とびきしそうた、俺が物心着く前からずっと一緒に遊んでた友達を超えた親友…親御さんとも母と仲が良く、亡くなったあとも実の息子のように一人暮らしの俺をよく心配してくれた。


「はぁ?正ちゃんじじくさーい、卒業したてでそれはないわ。」


 日廻朱音ひまわりあかね、蒼太と同じく小さい頃からつるんでた、明るくハツラツで男勝りな性格。いつもこの3人で遊んだり勉強したり(主に朱音の勉強を見てやってる)して過ごしている。


「この前まで試験や面接でギリギリまで精神をすり減らしてクラスで赤いマントに狙いをつけた闘牛みたいな扱いをされてた朱音さまからしたらそりゃあ離れられて嬉しいだろうよ。」


 俺の言葉にうんうんと頷きながら蒼太も続ける

「あー、あの時は周りもみんな受験戦争でヒリついててヤバかったけど朱音は別格でジュ○シックパークのティラノ並に荒れてたなぁ…」


「……/////!!!うっさいわねぇ!だいたいアンタ達は卑怯なのよっ!」


 組んだ肩の間を割るように突進してきたも闘牛を正一はヒラリと避け、蒼太はヒョイと飛ぶように避ける。


「正一は高校推薦!蒼太はスポーツ推薦で受験パスして面接だけで架高かけこう(架橋高校かけはしこうこう)受かったんでしょ!?ホンット信じらんない!?正一はともかく蒼太は未だに賄賂疑ってんだからね!?」


 昇降口しょうこうぐちからサッとふたりで飛び出し追従する猛牛から逃げる。中学生活の最後の最後まで追いかけられるのもなんだか感慨深い。


「…なぁ蒼太、本当に良かったのか?」


「ん?何が?」


「架高じゃなくてもバスケの強豪校からより良い条件で沢山ラブコールあったって聞いたけど?お前ほどの実力ならプロまでのし上がってエリート街道まっしぐらだーって大会でもお偉いさんに言われてたろ?」


「あー?んな事かよ…」


 はぁー、と肩を落として親友は言葉を続けたり

「お前と同じだよ…俺もこの町で育ってここよりいい町なんて存在しねぇって思ってる。…なんだ?どっかの『寂しがり屋』に気ぃ使って同じ高校受けてやった、なんて思ってねぇよな?」

 意地悪いニヤッとした顔をこちらに向ける。蒼太は本心を隠したい時、だいたい人を試すようにこのような態度をとる。


「あら、そうかよ。てっきり朱音と離れるのが嫌でわざわざ志望校聞き出してから推薦出願したのかと思ったわ。」


「うっせーよ」


 挑発した態度から一気に歯切れの悪そうな顔に変貌する様を経て、2人は顔を合わせてハハッと笑う

「アタシが何よ!何2人でコソコソ話してんのよっ!」


 沸騰したやかんのようにキーキー喚く朱音を引きつけながら卒業した同級生や親御さん達、そして舞い散る桜の間を縫うように正門へと目指す━━━━━━


「ヨッシ俺1着〜、だらしねぇぞ?スポーツ推薦くん。」


「誰が競争だって言ったんだよ、優等生さん?さっきの感傷ボーイはどこに…」


ガシッ


「クッソ〜!追いつけなかった〜!」


 二人の間に全体重をかけぶら下がるように朱音が突っ込んできた。


「「うおっ!!!」」


倒れないように重心を前にかける。


「ナイスクッション!さすが未来の架高ツートップは頼もしいねぇ」


「お前も架高女子になるんだからもっと大人しさっつーかお淑やかさを身につけろよ…」


「そうゆうのは高校に入ってかr…」


「朱音。」


 静かだが突き刺すような声が聞こえ朱音が固まった。


 ギギギギギ…と声がした方向に朱音の顔が向く。


「あ…アハハハハ(汗)、お母さん…」


 フォーマルなネイビーのワンピースに身を包み、手を前に組み"笑顔"で佇む朱音の母の姿がそこにあった…


 ニコニコしている蒼太の両親と額を押さえ、片手にカメラを持つ朱音の父。

 そりゃあいるよ。式が終わったあと「他クラスの友達にお別れの挨拶してくるからー!」と校門前集合って言ったのは当の朱音自身なのだ。


「…めでたい日に口煩くちうるさく言うのはしてあげます。」


パァッと朱音顔をほころばせる。


「ただ明日から高校に入るまで年相応の淑女の佇まいを躾て差し上げます。」


 途端に真っ白に燃えつきる朱音。ハハハと笑う俺達とクスクスと蒼太の両親が割って入る。


「まあまあ、朱音さんが元気なおかげでうちの子も正一くんも笑って仲良く過ごせてるんですから。」


「そうそう、ささ、日が傾く前に写真撮りましょう。最初は主役の3人で撮るかい?」━━━━━━━━━━━━


 カーン   カーン   カーン

    カーン   カーン

 日が傾き、3人は中学生活を振り返ったり高校に入ってからのこと、たわいのない事を駄べりながら踏切前で電車が通り過ぎるのを待つ。


「卒業の日までも引っかかるのかよ…この地獄の踏切!」


「朝ここに引っかかると最悪HRホームルーム間に合わなくて遅刻付けられる上に体育が1時間目だと一生走らされるオマケ付きだっけなぁ」


「あぁ…毎年1年が引っかかるトラップよねぇ…」


 架橋町と他の町を繋ぐ唯一の路線…近くに駅もないのに何故か踏切の開閉が長い上、線路も変に曲がっていて電車がどの辺を通っているのか分かりずらいオマケ付きの架橋町が誇る開かずの踏切…ここを通学路とする学生から出勤する社会人から畏怖の念を込めて『地獄の踏切』と呼ばれている━━━━━━━━━━━━━

「まぁ、ある意味これも名物だからなぁ…」


「そうそう、朱音なんかよく………


ぐらぁ…


ん?地震か…


ドォォーーーーーーン!!!!!!


突如大地が沈んだと思ったら弾むような衝撃が伝わり3人はバランスを保てるはずもなくその場に倒れた。


ゴゴゴゴリゴリッガゴゴゴゴ!!!!


「なんなんだよいきなり!?」


「キャア!」


「…てか…早く離れるぞ!ここかなりマズi…


ファーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!


 揺れが収まったかと思うと突如列車が現れた…線路をはずれ、まっすぐ自分たちの方に…


「くっ…………!!」


 咄嗟に2人の襟首を引っ張り後ろに投げる。せめてこの2人だけは……


 正面に向き直ると目と鼻の先に真っ直ぐにこちらに突っ込まんとする鉄の塊がそこにあった━━━━━━━━━━━


 ━━━━━━身体が…熱い…?というかなんだか温かい?アドレナリンってやつなのか………?なんだ…この、浮遊感…?分からない…。どうなったんだ…2人は無事なのか……


「………なさ…、あな………と…に…………」


………?誰、の声?どこかで…?いや…………


「せめ…………た…の……だ…………………けど………」


 何を言っているんだ?というか、この声……


「なんとかあっちの世界に送ることが出来たわ…どうかあなたたち・・・・・の新しい世界が希望で満ち溢れているように…!」


 やっぱりだ……!か………


 目を開きその姿を確認しようとしたがその瞬間、眩い光に包まれてまたしても意識が遠のく━━━━━━━━━━━


 

 ━━━━━━━━「ハッ!?」


 澄んだ空気を大きく吸い込み今置かれた状況を脳が必死に理解しようとフル回転させる…いや、フル回転させたところでこの状況が全く理解ができない光景が暗闇になれた目から徐々に広がっていく。


「は?なんでここ…森、の中?」


 鬱蒼とした木々の茂る夜の森の中、50m先も定かでなく。頼りになりそうなのは空に浮かぶ三日月の心もとない光だけであった。


「…いや、朱音と蒼太は無事だったのか…!?」


 バッと辺りを見渡しても誰一人居なく、遠くから聞いたこともない動物の鳴き声が聞こえてくるだけだった。


「クソ…!俺だけかよ無事なのは!?いや、この状況って無事って言えるのか?周りも暗いし…携帯とか何も持って……」


「きゃあああああ!」


「グヴァ!ガググルルル!」


 不意に女の悲鳴と獣?の咆哮が夜の静寂を裂き、森に響く…


「朱音か!?それとこの鳴き声は…!?」


 目を覚ました時はここには自分一人だけしか居ないのか…自分はもう死んでいてここは地獄なんじゃないか…とネガティブな感情が渦巻いていたが、自分以外に人がいる。


 ということを確認出来たことがただただ救いだった。そしてその唯一の希望に縋るためにもその叫び声とと謎の鳴き声の元へ駆け出す━━━━━━━━━━━━━━━



 ━━━━━━━━━ボゴォッ!と大木に打ち付けられる…ボロボロの軍服に頭からは血が出てクラクラする……。


 少女の身体はなんとか動きはするが………


「…なんでよっ!なんでこんな時になってもっ……!発現しないのよっ………!!!」


 彼女は白い棒状の持ち手の着いた小さな短剣を両手で強く握りしめる。


 そして━━━━━━━━━━━━


響心レゾナンス!」


 短剣は突如として光り出すが、その光は淡く、すぐ様収まってしまう。


「なんで…どうし………」


 カカカカカガルルルルルルルゥ゛!!!!


 骨を軋ませたような低く、心の底から恐怖心を煽るような鳴き声を発しながら、黒い体躯に真っ白な巨大な獣の骸を纏ったような生物が月明かりに照らされゆっくりと迫ってくる。


 「っ………!下域の唱レベルト・タグ石動イスルギ!」


 近くにあった人の背丈程もある大岩が淡く光り出すとフッと中に浮き空気をを裂く音を立てながら獣に襲いかかる。


 ━━━ブオォン!!!ズガァン!!!


 獣の頭骨に命中し大きな土埃が舞った。


「これで少しは……っ………!?」


 土埃が収まり始め、獣の姿がが段々と鮮明になり始める。


 確かに攻撃は獣の頭骨には大きくヒビが入り黒紫色の血がドクドクと滴っていた…それだけだった。


 グガガガウゥ゛!ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛!!!


 明らかに怒り狂った獣が自分に危害を加えたであろう少女に鋭い牙で食いちぎらんと突っ込んでいく。


「そんなっ…!?もう匠力しょうりきも底をついたのに……!」


 獣の白い牙が少女の首筋を捉え━━━━━━━


 ズガァン!!!ボキッ!バキバキバキッ!ズドォン!


 少女の背後にあった大木が獣の突っ込んできた衝撃に耐えられずメキメキと倒れた━━━━━━━━━


「…………………えっ?何が………」


「大丈夫!?てかあいつなんなんだ!?」


 間一髪、正一が決死のダイブで少女を突き飛ばし獣の攻撃から逃れることが出来たのだ。


「…ア、アンタ!民間人?が何故ここにいるの!?」


 学ランを物珍しげにジロジロと見ながら紫の髪の少女はガバッと起き上がり問いだした。


(朱音じゃなかったか…でも全身ボロボロだ…この骨を被ったでけぇトラみたいなやつと戦ってたのか?)


「君こそなんでこんな森の中であんな怪物と戦ってんのだよ、さっさと逃げるぞ!」


「はぁっ?ちょっとぉ…!」


 そう言って少女の手を取り、怪物の視界に入らないように一目散に走り出す。


「怪物ってアンタ…骸鬼獣ガルダーを知らないで今まで生きてきたの!?」


「がるだー?も何も、この森も君みたいな格好してる人も初めてだよ!」


「ビフレストの軍服も知らないなんて…アンタここの人間じゃないの?あ、あと、私はバイオレット。さっきは、その…助かったわ……てかいつまで手繋いでるのよ!1人で走れるわよ!」


 そう言って『バイオレット』と名乗る少女は手を払い、シュタタタッと正一の前に出ると


「着いてきなさい、さっさとこの森をぬけてヴァニエ村に戻るわよ!あそこなら骸鬼獣もはいれないから!」


 と先導し始める。


「お、おう…あと、俺は不可三 正一。ここがどこだかわかんねぇけど…とにかくよろしくな!」


(ビフレスト?ばにえ村?さっきからなんなんだここ…架橋町じゃない…のは分かるけど、あの髪色も見たことないし…って俺の髪色も白みがかったグレーだし人のことは言えないか…てかあの傷でよくあんな走れるな……)



 謎の森、謎の怪物、謎の女、疑問符で頭がパンクしそうになる状況だが、今はただひたすらに走り続けて骸鬼獣と呼ばれる怪物から逃げることだけを考えるしかない。が、突如月の光を遮る黒い影が頭上を通過する…


「はぁ!?」「ック………!!!」


 ザン!と響くような音を立て怪物が進行方向に立ち塞がった


「そんな…!?もうコレしか………お願い!!!」


 そう言ってバイオレットはポケットから真っ白な短剣を取り出し両手で握りしめる。そして…


響心レゾナンス!」


 キィーンと小さな光が広がってゆく…


(あれ、さっき見た光…?あのナイフみたいなやつからでてたのか……)


 しかし、光はすぐ様小さくなりフツっと輝きを失う。


「なんで…どうして私はダメなの!?なんでっ…………!!」


グルガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!


 顔を上げると電柱ほどあろう腕を高く上げ、バイオレットにその爪で振り下ろしてくる。


 正一は何とかバイオレットを後ろに引っ張るが…


 ダァン!


 何とか直撃を免れたがその衝撃波で二人は大きく後方へ吹っ飛ばされる。


「なぁ?さっきからそのナイフでなんかしようとしてそうだけどそんなショボいナイフでどうやってその、骸鬼獣?て奴と戦うつもりなんだよ。」


 正一はフラフラと立ち上がりバイオレットを立たせようとするが……


 ガクッ━━━━━━━━━━━とバイオレットが膝を地面に着き呆然とする。


「お、オイ!?大丈夫か?まさか、今のやつが当たったのか!?オイ!」


「大…丈夫……いや、大丈夫じゃなくなるわ…もう、私たち………なんで解振心器レゾン・ギアは私に応えてくれないの……どうして……お母様………」


 バイオレットはまるで抜け殻のように座り込み、ポロポロと大粒の涙を流す…


「オイ!オイ!?その変なナイフで対抗できるんなら俺が変わりに━━━━━━━━━━


 グルガガガガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!


 骸鬼獣が2人目掛けて大きく口を開き突っ込んでくる。


(ヤバイッ!死………)


 バァン!と骸鬼獣がパントマイムのように透明な壁にぶつかったような仕草をし始める…


(!?な、何が起きて…………!!!)


 すると先程まで座り込んでいたバイオレットが大粒の涙を零しながら歯を食いしばり、両腕を前に掲げていた…左の目を青紫色に輝かせながら………


「諦めないわよ…せめてっ……!民間人だけはッ!」


 ダァン!と骸鬼獣が壁を叩くような衝撃音を出す度にその身体からは血が飛び散り、衝撃が身体を伝う。


「なっ、おま…」


「逃げな…さい……民間人…私……なら、足止め…程度にはなる……から………」


 そういうととてつもない衝撃に真っ向から立ち向かわんと足に力を込め、両手と左目を輝かせ骸鬼獣を睨みつける。


「そういう訳にも行かねえだろ!お前一人置いて俺だけ逃げるなんてそんなの………」


「私は軍人だッ!たとえ解振心器レゾン・ギアに認められなくても…!たとえ自分の血に忌々しいものが混ざっていようとも………!民間人を守り…ビフレスト共和王国を守る盾として……最後まで使命を全うする!」


 凄まじい気迫…いや、ヤケクソ気味な彼女の行動に一瞬気圧けおされたが…足元に転がる白い短刀が目に映る…


(そういえばこれで…)


「なぁ、このナイフを使えれば俺でもアイツを倒せるのか…?」


「………は?」


「これが使えれば俺もお前も助かるのかって聞いてんだ!」


「いやっ…だから、あんたも見たでしょ!?私が使おうとしてもなんにも起きなかったじゃない!それは使い手の手に渡らないと響心レゾナンスが出来ないの!あたしに適性があってあたしの元に配られたからあなたには使いこなせないの!」


 ガグア゛ア゛ア゛ア゛!バリッ!


 ガラスの割れるような音が響き、空に亀裂が走る…


「俺は引かない!俺たちが助かる手段が0.1%でもあるなら、俺は全力でその手段を執る!だから教えてくれ!こいつをどう使えばいい!?」


「は?…なん…………解振心器レゾン・ギアに全神経を集中させて『響心レゾナンス』と唱えて!」


「ありがとう!」


 正一は骸鬼獣の正面に向き目を閉じる…全ての感覚を研ぎ澄まし両手で握る…。


 心の奥底がくすぐられるような感覚…胸の内を乱雑に掻き回されるような感覚………ガシッ!!!


 なにかが体の中で掴まれる感覚が伝わる………!!!


(今だッ!)


響心レゾナンスッ!!!」


今までとは比べ物にならないほどの光が辺り一帯を包み込む━━━━━━━━━━━


「何が起きたの?まさかの…魂統チューニングが完了したの!?そんなっ…だってその解振心器は………え?」


 突如、眩く光る短刀から人型の光が現れる………


 その人型は右手を鋭利な形状に変質させ切っ先を正一の喉元へと狙いを定める………


「………!?」


「………え?」


 刹那、その光の刃は真っ直ぐ、喉元を一突きに抉らんと刃を伸ばした。


「そんな……適正者以外が魂統チューニングをするとそうなるなんてっ………!!」


ゴルルルルッ!ガガガガア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛!!ピシッ!!!


 もう障壁を張った空間はピシピシとヒビ割れ、骸鬼獣の侵入を抑えられるのはほんの数刻だと知らせるかのように亀裂が広がってゆく………


 その時━━━━━━━━━━━━


 首に提げたアヤメのネックレスが刃を飲み込むように黒い影のようなものを放出し切っ先を受け止める。


 一瞬、光の人型が怯んだと思うとつかの間、その影は光を飲み込み、あたりは再び月明かりだけの闇へと戻される………━━━━━━━━━━━━━━━



「そんな………なんで…………どうしてっ!!!アタシのせいでッ!!!守るべき民間人もッ!!!使命もっ!!!!何一つ果たせなかった!!!!!アタシが助かりたいって思ったせいでっ!!!!全部ッ!!!!!」


 少女の慟哭が闇夜の森に木霊こだまする。


 そして、激しい衝撃が遂に障壁を突き破り、骸鬼獣がバイオレットの頭を噛みちぎろうと、その大きな口を開け牙を突き立てる…


(…ごめんなさい……結局私は役立たずだった……解振心器にも認められず…周りの期待も裏切り……逃がせたはずの民間人も殺してしまった………)


「…………ごめんなさい」


 そう言い残すと彼女は己の運命を受け入れんとその場で崩れ落ちるように膝を落とす


 牙が、彼女の頭を捉えようとした瞬間━━━━━━


 パシッ!





「助かったぜ、バイオレット。ボロボロになってまで時間を稼いでくれてありがとう。」


「………え?」


 左手で軽々と骸鬼獣の頭を押さえ、漆黒の柄から純白の刀身へとグラデーションしてゆく刀剣を右手で担ぎ、正一はバイオレットの方に首を向ける。


「そんで…」


 グッと骸鬼獣の頭を押し少し空間を開け…


「さっきまではよくもやってくれたなァ!!!」


 左拳を固く握り締め振りかぶる。


「このっ…!!!ほねトラ野郎ォォッ!!!!!」


 力任せに頭骨をぶん殴り、メキメキと骨を砕きながら骸鬼獣をぶっ飛ばす


 グガガラァ゛!!!      ズシャア!


 200m以上後方にあった折れた大木の元にその巨体を飛ばし返す………




「………え、ア、アンタ………平気、なの………?」


「ん?おう!全然平気。お前のおかげでこの通りだ……それに、この剣のおかげなのか身体が変な感じっつうか…」


 左手をグッパ、グッパ、と開きその場でトーントーンと飛んでみせた。


「なんつうか、力がみなぎってる感じ!」


「そ、そうなのね………?」


 何が起こってる状況なのか分からないままバイオレットはフラつきながら立ち上がろうとする…


「おい、無理すんな、今は座っとけって。」


「いいわ、大丈夫。ちょっと木のそばに腰掛けたいだけよ…。」


「そっか…んじゃ肩貸すぜ。」


 そう言ってバイオレットの肩に手を回そうとしたその時


 ガヴラ゛ア゛!グルガガア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛!!!


 骸鬼獣が雄叫びを上げ、勢いよく立ち上がる。


「まだ生きてんの…アイツ……」


「…あぁ、少し手を抜いた・・・・・・・からな。」


「…なっ…!?」


(手を抜いてあの威力だったの!?もし彼の言ってることが本当だったとして…彼……の中に、一体どれほどの力が眠っていたというの…!?)


「なぁ、バイオレット…あの骸鬼獣ってやつ…倒さないとダメなのか………」


 …正一は剣を骸鬼獣に向けてはいるが、その目は少し、悲しそうな目線を向けていた……


「…骸鬼獣は他の生き物と違う…生まれ方も、ある日突然発生したかと思うと生きるもの全てを鏖殺おうさつし、その魂を喰らい強く、大きくなっていくの………あの個体、あの強さ…少なくとも100人以上の魂を喰ってきている………これ以上の被害を出さないためにも…討伐するしかない…!」


 ギリッと骸鬼獣を強く睨みつけるバイオレット…


「…………そっか……ん、分かった……。」


 恐らくここに来るまでにも仲間がやられてきたであろう、その恨みのこもった視線を遮り骸鬼獣とバイオレットの間に立ち、右手の刃を突っ込んでくる骸鬼獣に向ける…


「いくぜ………」


 ダンッ!と強く踏み込み正一も骸鬼獣に突っ込んでいく。


 ………風を斬る音を出し、両者の距離があっという間に縮まる。


 骸鬼獣の大きく鋭い爪が獲物をを捉えようとした刹那、視界から消える……


 ヒュっ………     ズバッ!


 ガルダーの見る世界が上下で左右にズレる…そしてその視界が黒紫色に辺り一帯を染め上げる……


 ズザザザザザザザザザ!!!!と地面を抉るように骸鬼獣が倒れ、そのままピクピクと痙攣し、やがて動かなくなると…ボロボロと黒い身体が霧散していき、身に纏っていた白い骨だけを残して再び森が静寂さを取り戻す━━━━━━━━━━━━━━━



(あ…ありえない…!速すぎて太刀筋が全く見えなかった……!!これが解振心器の力だって言うの?あの光だって…見たことがない……一体、彼は何者なの?)


「…ふぅーーー。待たせて悪い、さっさとその…治療できるところ行こうぜ。」


「え、えぇ…早くヴァニエ村に戻って報告もしないと…」


(……!そういえば彼のペンダントは何処に…)


「なぁ、そのヴァニエ村ってどっちの方向なんだ?」


「ふぇ?あ、星の位置的に……あっち…」


 そう言って左手で村の方向を指し示す。


「よし、じゃあ」


 と言うとバイオレットをお姫様抱っこをするように持ち上げる…


「ふぁあ!?ちょ、なに……!?」


「歩くのもやっとだろ?俺が担いでくよ。なるべく動かさないようにはするけどしっかり捕まっとけよ」


「…へ?捕まっとけって……いっ………!!!!」


 両足に低くし思いっきり飛ぶ…


「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ………」


 夜の森に少女の悲鳴と月明かりに照らされた2人のシルエットが伸びてゆく………━━━━━━━━━━━━━━━




━━━━━━━━━━━━━━━漆黒の森の中……ボロボロの黒い鎧を全身を身に包んだ人物が2人の後ろ姿を見ていた………腰に漆黒の剣を携えて…


 コルルルル…グガァ…!

 カカカカカココカァ…!


 馬の骨のようなものを纏う怪物と大きな猛禽類の骨を纏う怪物…


 先刻の虎型骸鬼獣よりも一回り大きな骸鬼獣が2匹同時にその黒い鎧を獲物に定めたようだ…


「…………………」


 コルルガア゛ア゛ア゛ァ゛!

 コロルルルルキィャーーー!!


 先にフクロウの様な骸鬼獣が鋭い爪で襲いかかった………


 シィ…   ズバババッ!!!


 大きな翼を広げた骸鬼獣が一瞬にして縦に4等分にされる………


 ガロロロググ!?


 突如としてやられた同族の様を見て馬型骸鬼獣はズザザッとその場で踵を返し逃げようとするが…


 スゥ━━━━━━━━


 既に黒い鎧は骸鬼獣の背後に立ち、そのまま背を向けて去って行く………


 ツゥ━━━━━━━━ザパアッ!!!!!


 何も理解できず何も触れることすら出来ず、縦に真っ二つに切り裂かれ…2体の骸鬼獣はあっという間に沈黙する………



 黒鎧の人物はちらっと背後の物体を確認したあと、再び夜の闇へと姿を消していくのだった━━━━━━━━━━━━━━━

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