@Miyamiyaokaoka

第1話

私はしがないサラリーマンだ。もうすぐ30になるというのに会社でもプライベートでも何もなし得ずにいる。こんなはずではなかった、どこで間違えたのか、そんなことを考えてばかりの日々に疲れバーに来ていた。

ふと目に入ったのは自分と同年代くらいの男性だ。疲れきった顔をしている。こういう時は普段なら絶対に声をかけたりしないが、今は誰でもいいから話を聞いて欲しい気分だった。なので思い切って彼に声をかけた。

すると彼は少し驚いた顔をしていた。なんでも彼も実は私に話しかけるタイミングを伺ってたんだとか。そんな訳で話してみることにした。

「お仕事は何をされているんですか?」

「小さな町工場で働いていますよ、毎日毎日ボロ雑巾のように働かされ、彼女は他の男を作って出ていってしまいましたよ。こんなはずじゃなかったんですけどね。昔は夢もあったし。」

「夢、ですか。いったい何を目指していたんですか?」

「宇宙飛行士ですよ。まあ筆記試験の段階で落ちてしまいましたけどね。それでもあの頃は活気が溢れていましたよ。歳をとるってのは辛いですね。」

彼の言葉は私の心もえぐった。なので私は自分を慰める気持ちでも、彼に言った。

「まだまだお互い現役ですよ、腐らずに頑張りましょうよ。」

すると彼は、

「そうですよね、諦めちゃダメですよね、ありがとうございます。」

と、少し顔を明るくしていた。彼も内心はこの言葉を聞き出したかったのだろう。すると次は彼の方から聞いてきた。

「あなたは何か夢などなかったのですか?」

夢、それは私が最も嫌いな言葉だ。今までの辛いことのほとんどがその夢のせいだ。

「あるにはありましたが、皆に馬鹿にされるような夢ですよ。石を投げられたことだってあります。なのであまり言いたくありませんね。」

「石を投げるだなんてそんな、僕は人の夢を馬鹿にするような事はしませんよ。私の話も聞いてくれたんだ、今度は私があなた話を聞く番ですよ。」

なんて優しい人だ。こんな気持ちは久しぶりだ。私はなんだかとても嬉しく、彼になら話していい、そう思った。

「確かに、あなたになら私の夢を話して良さそうですね。」

「ええ、お願いします。」

「私の夢は、ひもです。」

そう言うと彼は少し間を置いてから一言言った。

「マスター、石を1つ。」

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