第13話 Chapter13 「最終話 港の見える丘公園 覚醒」

Chapter13 「最終話 港の見える丘公園 覚醒」


米子は多摩川に近い人気の無い倉庫の前に立っていた。服装は桜山学園の制服だ。紺色のブレザーに白いシャツにブルーのスクールリボンにブルータータンチェックのミニスカート。靴は黒いタッセルローファー。黒い靴下。倉庫の前にはエルグランドが1台停まっていた。倉庫中を覗くと、浜崎里香、野沢瑠香、大屋美里、岸本きらりが4人組の前に正座していた。4人組の中に木村加奈がいた。

「お前ら舐めてるだろ。ムカつくからエロ動画撮らしてもらうぜ。エロサイトにアップしてやんよ」

「お願いです、止めて下さい! 許して下さい!!」

浜崎里香が叫ぶ。

「浜崎さん、場所、ここで合ってる? なんか揉めてるね?」

米子が倉庫の入り口から中に入りながら言った。

「何だお前?」

リーダー格の男が米子を見ながら言った。リーダー格の男は背が高く、長めの金髪の髪で、くたびれたジーンズに皮のジャケットを身に着け、売れないロックバンドのボーカルの様だった。右手に刃の出たバタフライナイフを持っている。他の二人の男はスキンヘッドと紫色の髪のツーブロックだった。

「沢村さん・・・・・・」

浜崎里香が驚いた顔をして米子を見た。その目は涙ぐんでいた。

「お前達の仲間か? すげえカワイイ顔してるじゃねえか!」

ボーカル男が言った。

「この子、沢村米子っていうんだよ。里香達と同じクラスで、男子に人気あるんだよね」

木村加奈が言った。

「米子? 古くせえ名前だな。でも顔とスタイルは最高だぜ。いいじゃねえか、連れて帰って薬漬けにしようぜ。俺達のものにしよう」

ボーカル男がニヤけながら言った。

「いいっすね、エロサイトにアップするの勿体ないですよ」

スキンヘッドの男が言った。

「バカ、俺達で楽しんだら動画撮って会員制有料エロサイトに売るんだよ。このレベルなら田上さんが高く買ってくれるぜ」

「貴方達、何勝手に盛り上がってるの?」

米子が呆れるように言った。

「いいから大人しくしろよ。可愛がって

『ジャキーン』 『バコッ!』

米子は右手でブレザーの内側から特殊警棒を抜き出すと前にジャンプしながら大きく振って延ばし、着地と同時にボーカル男の頭を斜め上から強打した。ボーカル男は膝から崩れ落ちた。バタフライナイフが床に転がる。スキンヘッドと紫髪が驚いた顔をしている。特殊警棒はホワイトウルフ製で通常の警棒に使われるスチールの3倍の強度を持つ『4140カスタムスチール』で作られた物である。

『バコッ』 『グシャ』

米子はスキンヘッドをボーカル男と同じように、紫髪は左横から頬を打った。2人ともその場に崩れ落ちた。

「ううっ、ううっ」

『ガッ』

立ち上がろうした紫髪の後頭部に特殊警棒を叩き込んだ。紫髪は再びその場に崩れ落ちた。

浜崎里香のグループも木村加奈も米子を見つめて凍り付いたように動かない。

米子はボーカル男のポケットを弄り、車の電子キーを取り出した。米子はエルグランドのバックドアを開けて倒れている男達を載せようした。

「沢村さん、どうするの? ヤバイんじゃない?」

浜崎里香が怯えた声を出した。

「浜崎さん、揉めたら浜崎さんが何とかしてくれるんじゃなかったの? 格闘技やってるんだよね?」

米子が言った。

「私は関係ないから。許してよ、私は呼ばれただけだよ」

木村加奈は泣き出しそうだ。

「貴方達も手伝って。木村さん、あなたも」

米子は事務的に言った。

全員で男達を積み込むと米子は運転席に座った。

「浜崎さん、助手席に乗ってよ」

米子が言うと浜崎里香はしぶしぶ助手席に乗った。

「沢村さん、運転できるの?」

「当たり前でしょ」


 米子の運転するエルグランドは多摩川の土手を下ると河川敷に進入した。米子は年齢的に運転免許は持っていないが、訓練所の訓練でハードな運転技術をマスターしていた。車を止めるとバックドアを開けて男達3人を引きずり出した。米子はポケットからコールドスチールの折り畳みナイフを取り出すとボーカル男の胸に刃を当てた。

「沢村さん、何やってるの?」

浜崎里香が訊いた。

「トドメを刺してるんだよ」

「ウソっ! やめた方がいいよ!」

「禍根を残すとやっかいだからね。浜崎さん達もこいつらがいなくなった方がいいよね?」

米子は一気に刃を深く突き刺した。

「ちょ、ウソ、ねえ、ウソでしょ? おかしいよ! ヒイ―――――」

米子は1分とかからず3人の心臓を止めた。

「私闘だから掃除屋さんは呼べないな。浜崎さん、手伝って」

米子と浜崎里香は3つの死体を車に載せた。浜崎里香は恐怖のあまりヒイヒイと泣きながら涙と鼻水を流している。米子は車の給油口を開け、ポケットから単四電池サイズの時限式雷管を取り出すとスイッチを押して燃料タンクの中に落した。雷管の起爆時間はデフォルト設定で10秒である。

「浜崎さん、離れた方がいいよ」

米子は言いながら小走りでミニスカートを揺らしながら車から15m離れた。浜崎里香も走って米子の横に並んだ。

『ボンッ』 『ボーーン!』

車の後部が爆発を起こし、炎が噴き出した。炎が米子と浜崎里香の顔を闇の中に浮き上がるように照らした。米子の顔は無表情で美しかったが、浜崎里香の顔はグシャグシャだった。

「浜崎さん、この事は誰にも言わないでね」

「言えるわけないじゃない!!  ううっ ねえ、沢村さんは何なの? ううっ 何なの!! ううっ」

浜崎里香が泣きじゃくりながら言った。

「知りたい? 教えてあげようか?」

「イヤッ! 聞きたくない! 怖い! ううっ、ううっ」

「また困ったらいつでも言ってよ。出席日数の件よろしくね。社会だけじゃなくて他の科目もヤバいんだよね」

「沢村さん、もう私達に関わらないで! お願い!」

「浜崎さん、それはこっちのセリフだよ」

消防車のサイレンが風に乗って聞こえて来た。


 米子と青山翔太は横浜の山下公園にいた。

「翔太君、いい天気だね、海が青いね~」

「はい、いい所ですね」

「来た事ないの? 横浜はいい所だよ。よし、氷川丸に乗った後は外人墓地に行こう。景色のいい公園もあるよ。その後は中華街で美味しい中華料理食べようか。マリンタワーもいいねえ。翔太君、弟みたいだよ」

「沢村さん、いつも制服ですね。デートだから違う服着て来るかと思ってました」

「ごめんね、次のデートは私服にするね」


「ここからの景色いいよね。港が一望できるんだよ。昔家族で来たんだよ。やっぱディズニーランドの方が良かった?」

「いえ、でも突然場所が変更になったから驚きました」

「翔太君、キスしようよ。ファーストキスだよ。最初は私がいいんでしょ?」

「えっ、いいんですか?」

米子は青木翔太の唇に自分の唇を重ねて舌を入れた。

『カリッ』

「ウッ、クッ!」

『青酸シロアニン』の効果はすぐに現れた。米子は事前に『中和剤』と『解毒剤』を服用していた。

青木翔太の体から力が抜けてその場に座り込むようにして仰向けに倒れた。青木翔太の右手から『刃の出た両刃の飛び出しナイフ』が離れて地面に転がった。米子は口の中の潰れたカプセルを吐き出した。

「ごめんね翔太君。君もアサシンなんだよね。少し苦しいけど、すぐ楽になるよ」

「沢村さん・・・僕・・・ごめんなさい」

「いいよ。そっちも仕事だもん」

「僕、沢村さんの事、本当に好きだったかも・・・」

「ありがとう。嬉しいよ。このナイフ、記念に貰うね。イヤな世の中だね。次の世界で会ったら仲良くしようね」

山田翔太の目が閉じ、呼吸が止まった。

ポケットのスマートホンが振動した。

『米子、ディズニーランドにいた『夜桜』のやつらは殺ったよ。3人だった。米子の描いたシナリオ通りになったよ。米子に変装して『劇団(工作の支援の部署で作戦に応じて武器以外の必要な道具やエキストラのような人材を提供してくれる)』に借りた男の子を使ったよ。大成功だよ。あいつらのこのこ出てきて、尾行してきたよ。ジャングルクルーズのボート降りる時にまとめ撃ってやったよ。あいつら大した事ないよ』

『そう、ありがとう』

『米子、そっちは殺ったの? なんか元気ないね』

『うん、大丈夫だよ』

『じゃあケーキバイキング奢ってよ、会社の近くのホテルにいい所があるみたいなんだよ』

『ミントちゃん、元気でね』


米子は『港の見える丘公園』から谷戸坂を元町に向かって下った。頬に涙が流れていた。


 『先ほどからお伝えしていますように今朝10時頃、新宿駅西口で元金融財政担当大臣で『パセナグループ』会長の竹長健蔵さんが演説中に銃撃されました。竹長氏は『聖ポコティン国際大学病院』に救急搬送されましたが心肺停止状態との事です。竹長氏は新宿区西口で応援演説を行っていたところ、聴衆の中から銃撃されました。その時の映像があります』

選挙カーの屋根に乗って竹長健蔵が演説している。『ドン! ドン! ドンッ!』。大きな銃声が響き、竹長健蔵の頭が破裂するように吹き飛び後ろに倒れた。別の角度の映像になった。聴衆を映している。聴衆の中で何かが光り、白い発砲煙が弾けるように広がる。銀色の銃身が跳ね上がるのが遠目にもわかる。

「木崎さん、止めて」

木崎はリモコンの一時停止スイッチを押した。ミントと木崎は応接室で3時間前に放映されたワイドショー番組の録画を観ていた。

「米子だね。お面を付けてるけど、この素早い連射は米子だよ。大口径拳銃だよね。だけど軸がブレてない。肘を使ってうまく反動を逃がしてるよ。頭、左胸、右胸の順番に二等辺三角形を描くように撃ってるのも訓練所で受けた訓練通りだよ」

画面には小さく聴衆の中の銃撃犯の上半身が映っている。セーラー服姿でアニメの『アンポンマン』のキャラクターの『デキンちゃん』のお面を付けていた。

「さっき入った鑑識の情報では弾丸はS&W500マグナム弾だ。銃はおそらくS&W M500だ。S&W500マグナム弾は44マグナム弾の3倍の威力がある。ライフル弾並みのパワーだ」

「M500は訓練で撃った事あるけど凄い反動だったよ。1発で手が痛くなったよ。あんなの当たらないよ」

「だが今回は1発を頭部にヒットさせて、2発は胸に当たっていた」

「普通の人間じゃあの銃を3連射するなんて無理だよ。全部当てるなんてあり得ないよ。まあ、米子だからね」

「どこで手に入れたんだろうな。P‐229は貸したままだ。1週間前に木船を殺ったのはP‐229だが、今回は敢えてM500を使ったようだ」

「米子ならP‐229でもいけたはずだよ。むしろM500よりは当てやすいよ。それに米子は普段リボルバーは使わないんだよ」

「木船を殺った時はSIGを10発撃ち込んでる。接近して連射したんだろう。今回は周りに人も多くて距離もあったから少ない弾数で確実に殺りたかったんだろうな。500マグナム弾で頭を撃たれたら即死は免れない。しかしなんでお面が『デキンちゃん』なんだ? この前はキン肉マンのマスクだった」

「米子の弟がデキンちゃんとキン肉マンが好きだったらしいよ。米子の中ではまだ弟は生きてるんだよ」

「そうか。しかし俺達は完全に『夜桜』を敵に回したな。『桜系』全部を敵に回したかもしれない」

「米子のせいじゃないよ。夜桜がオットーと組んで仕掛けてきたんだよ。夜桜のやつらは私がディズニーランドで3人殺ったよ。大した事なかったよ」

「あれは3軍以下だ。夜桜が委託したセミプロだ。やつらの本隊はあんなヘマはしない。恐ろしく強い。最新の機材も使ってくる」

「じゃあ、うちの組織は夜桜と戦うの? うちの組織も本隊は強いよね? 『菊系』なんでしょ? 」

ミントが不安そうに言った。

「それは分からない。上同士で話し合いをしてるはずだ。下手をすると『桜』と『菊』の戦争になる」


 木崎が再び映像を再生した。

『発砲する犯人が映っていますが、この後逃走しました。逃走時に催涙ガスを撒いたようです。元警視庁警備部のテロ対策部長だった銃器犯罪評論家の菊池さんに話を伺います。犯人はどんな人物なのでしょうか?』

『今回はかなり大口径の銃を使ってるようです。そして見事に、いや失礼、確実にヒットさせています。おそらくプロでしょう。セーラー服姿にアニメキャラクターのお面を着けていますが、これは捜査を攪乱する為だと思います。どっちしろ、射撃が得意なプロの仕業です。元警官や自衛隊員の可能性もあります」

『竹長氏に恨みを持つ人物でしょうか、頭部を銃撃してますよね?』

『頭部を狙っているのは確実に殺すためです。しかし頭部は狙うのが難しいです。頻繁に動きますし、面積も小さい。普通は胸を狙います。しかも反動の大きい大口径の拳銃です。素人が撃てるような物ではありません』

『過去の銃撃事件と比較して違うところはどこでしょうか?』

『過去の事件と比較しても、このような素晴らしい銃撃は、いや、失礼、失礼。このような正確な銃撃は例がありません。相当に訓練していることが想像できます』

『先週、広域暴力団の三輝会組長の舟木康夫組長が銃撃されて死亡しましたが、あの事件との関連性はどうですか?』

『うーん、どうでしょうね。三輝会の木船組長も竹長氏も超大物です。ただ住む世界が違います。同じ犯人の可能性は低いですね。使われた銃も違います。木船組長はオートマチック拳銃で10発撃たれています。空薬莢が現場に残されていました。少し特殊な弾丸で357SIG弾といってレアなものすが、今回は大口径のリボルバーの銃を使ってます。明らかにプロです。素晴らしい腕前です。いや、失礼、見事な腕前です。いやいや失礼、惚れ惚れするような、いやいやいや、とにかく凄い腕前です。警視庁のSATの隊員にもいないレベルです。何にしても銃を使った犯罪が続けて起きています。警察には銃の取り締まりを強化して欲しいですね』

木崎がリモコンで映像を消した。


「ミント、米子が行きそうな場所に心当たりはないか? 3週間マンションには帰っていないようだ」

「ないよ。電話も出ないし、メールも返信ないし。米子、どこにいるのかな? 戻ってきて欲しいよ」


米子は港区海岸の『日の出埠頭』に立って夕暮れの海を見つめていた。宝石のように船や対岸の明かりがまばゆく輝き、岸壁のコンクリートに当たる波の音が静かに響いていた。


米子は覚醒した。そして一生戦う事を決意した。この命が誰かに奪われるまで。

  

                                         第一部終了


               ご愛読ありがとうございました。


ご愛読ありがとうございました。『JKアサシン米子』は本Chapterをもって終了となります。

お楽しみいただけたでしょうか? ダークヒロイン米子はまだまだ進化します。第二部の執筆も考えています。ご感想・ご意見をいただけると励みになります。よろしくお願いいたします。


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JKアサシン 米子 南田 惟(なんだ これ) @nannan777

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