第一章
第1話 ギルドと城下町の演奏会
魔王を倒すという共通の目的で集まった私達にとって、望んだクラスになれなかったことはとても大きな問題でした。これからどうするか悩んでいると一人のエルフ族らしき男性が近づいてきました。
「勝手ながら先程のやり取り見させていただきました。とても災難でしたね。もし良かったら私のお話聞いていきませんか?」
「貴方は一体?」
私が彼に素性を尋ねると、彼は自分をここギルドマスター『マクネ』だと名乗り、クラスの手違いが発生してしまった冒険者たちへの今後の対応を説明してくれると言ってくれたので、私達は彼に着いていき別室で説明を受けることになりました。
「まずは皆さんにギルドマスターとして謝らせてください。この度は手違いが起きてしまい誠に申し訳ございませんでした」
「なぜこんなことになったのか僕に説明してくれ! 僕は長い間ずっと魔法の研究をしてきたんだ! その僕が斥候になってしまうなんて……納得できる理由がなければ僕は君やこのギルドを絶対に許さないからな!」
怒りを露わにし鼻息荒く捲し立てるオーウェルが、今回の手違いについて最も怒っているように思えます。彼は出会ったときから人一倍魔法というものに強い思いを持っているようでしたから、今のこの状況が許せないのでしょう。
「理由としては『冒険者の儀式』自体まだわからないことだらけで、不完全だということ。我々にもなぜたまにこのクラスの入れ替え、手違いが起きてしまうのかわからないのです」
最初に聞いた理由には私も納得できず、マクネさんに話を詳しく聞いてみることにしました。どうやらこの儀式自体は大昔、かつての魔王が世界を支配しようとした時には既に存在していたもので、その手順や魔法などは女神様が作ったと伝えられているらしいのです。ただなぜ手違いが起きてしまうのか資料が残っておらず、明確な理由は判明していないとのことでした。
かといって我々は冒険者となりクラスに就かなければ力を発揮できず、魔王はおろか魔物にも歯が立たないため、この魔王が勢力を拡大している今、注意事項を読んでもらいつつ儀式を受けてもらっているとのことでした。
「そんな話簡単には信じられないねぇ。それにあたい、クラスは『クラスチェンジ』によって変えることができるって聞いたことがあるよ。あの窓口のやつが言っていたことは嘘で、本当はあたいたちをクラスチェンジする方法があるんじゃないのかい?」
「ゴブリン族の方がそれをご存知だったとは……確かにクラスチェンジというものはありますが、これは『ベースクラス』同士変えられるものではなくてですね、貴方の僧侶クラスから元々希望していた斥候クラスには変えることが出来ないのです」
「じゃあクラスチェンジってのは何を変えるんだよ!?」
「それはベースクラスより上のクラスである『ミドルクラス』になることですね。僧侶であれば僧侶系の複数のミドルクラスの中から自分にあったものを選ぶことになります。更にミドルクラスから一番上の『スペシャルクラス』になることも同様にクラスチェンジと呼びます。クラスチェンジなら王都だけでなく、どこにあるギルドでも手続き可能ですよ。」
マクネさんがクラスについて簡単に説明してくれた後、ショウジが腕に付けた祝福の腕輪に関しても説明してくれました。私達が貰ったものも同じものらしく、これを付けていることが証となり、簡単で高い報酬がもらえるクエストを受けられるようになったり、金銭面や生活の面でも様々な優遇を受けられるようになるとのことでした。
「このギルドに来てくださった方々は皆、この世界に混沌をもたらす魔王を打ち倒すべく立ち上がってくださった方々です。その崇高な目標への道を奪ってしまったのは我々です。できる限りの、せめて生活に不自由がないようにサポートして差し上げたいのです」
「とても立派な考えだと思います。でも祝福の腕輪を持つ人が増えれば増えるほどギルドの経営が厳しくなっていきませんか?」
「それは……まさにおっしゃるとおりなのですが、これは初代ギルドマスターが残した教えなので、なんとかやりくりしてサポートをしております。我々の儲けは少なくなりますけど、儲けよりも皆さんが安心して暮らせる場を提供することが我々ギルドの役目だと思っております。」
静かな口調でありながら、強く言い切るマクネさんの眼差しからは、とても強い意志が感じられました。
「……理由はわかったし、思いも伝わったよ。せっかくだから僕もこの腕輪を……」
腕輪を付けようとしたオーウェルの手が止まりました。彼だけではなく私含めた全員が付けるのをためらっていました。先程のショウジやその新たな仲間たちと同じ立場になるのは、あまり良い気がしなかったからです。
「……ショウジさんたちのような異世界から来て、冒険者を目指す人は最近多いんですよね。その祝福の腕輪は逃げませんから、付けるのは気持ちの整理が着いてからでかまいませんよ。」
「すいません」
「気分転換に王都の中を見てきてはどうですか? 見たところ皆さん王都は初めてのようですから、今まで見たことが無い面白いものに出会えるかもしれませんよ?」
私達の考えはマクネさんには筒抜けのようでした。ギルドの外に出て改めて周りを見渡すと、故郷の村では見たことがないたくさんのお店や人で溢れかえっていて、まるでお祭りのようでした。
「ビッグショウノォオオオ! ビックリショウが始まるよぉおおお!」
賑やかな城下町の中でひときわ大きく、響く声が聞こえてきたので、気になった私は皆を連れて声の聞こえる方へ行くことにしました。その場所は大きな広場のようでしたが人の数はまばらで、真ん中に一人ド派手で怪しげな格好をした男性が立っていました。その周りにはフライパンや鍋といった料理に使う道具や、皿やコップが無造作に置かれており、一体何が始まるのか期待より不安が大きくなる場所でした。
「レディースアンドジェントルメーン! 皆様ようこそビックショウのビックリショウにお越しくださいました! さぁお客さん、そこの椅子に座ってください。おお! 今日は珍しく見たこと無いお客さんが来ておりますねぇ! 気分が乗って参りました! 早速始めるといたしましょう!」
ビッグショウと名乗る男性がワンツースリーとリズムを取り始めると、どこからか取り出したお玉や箸を手に、周りの道具や皿を叩き始めました。彼が手を振り回しながら踊るたびに、トントンという小さめの音からバーンという大きな音まで、大小様々な音の波が押し寄せてきました。それはバラバラにならず一定のリズムにまとまっており、合間に入る彼の小気味よい掛け声も心地よく、料理道具を使った賑やかで陽気な演奏会が始まりました。
「これは大道芸というやつなのか? 俺は初めて見たんだが、なんだか楽しい気分になるな!」
「ええ本当に! こんな楽しい演奏は聞いたことがありません!」
普段は冷静なガルドンさんもなんだか楽しげで、他の皆もリズムに乗っているようでした。特にスケルトンさんはこの演奏が気に入ったらしく、カタカタと賑やかに踊っていました。
楽しい時間はあっという間で、いつの間にか演奏は終わってしまいました。私達が帰ろうとすると、先程まで演奏していたビッグショウさんが呼び止めてきました。
「そこのお嬢さんたち! さっきはショウを見てくれてありがとうねぇ! ここいらでは見かけない顔だが、もしかして冒険者かい? それにその手に持っている腕輪……。あんたらギルドのやつに希望と違うクラスにされたね?」
「ええ、そうですけど……。」
私がそう答えるとビッグショウさんは頭を大げさに抱え始めました。
「こりゃまたひどい話だねぇ! こんな前途ある若者の未来を奪って何がギルドだってんだ! 皆もそう思うよな!?」
私達以外の観客全員がビッグショウさんの呼びかけに応え、次々ギルドへの悪口を口にし始めました。
「!? 私達はそんなこと思っていません! 止めてください!」
「なんだって? この俺があんたらの気持ち代弁してあげてるってのに! あんたもすっかり銭ゲバ野郎の仲間って訳だ!」
さっきまでの楽しい雰囲気は一気に消え失せ、騒々しく険悪なムードが辺りに漂い始めました。急にギルドの事を悪く言い始めた彼に動揺していると、大剣を担いだ一人の女性が現れました。
「お兄ちゃん! もういい加減にして!」
突如として現れた彼女の一声に、場は一気に静まり返りました。
冒険者ギルドの手違いで、私は戦士になりました。 若葉さくと @wakaba_sakuto
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