冒険者ギルドの手違いで、私は戦士になりました。
若葉さくと
プロローグ
冒険者ギルドの手違いで、私は戦士になりました
ここは『王都ガルサニア』にある冒険者ギルドの受付。大勢の人達で賑わっている。冒険者になるには必ず何かのクラスに就かなくてはならず、最初のクラスになる手続きは王都のギルドでしか出来ないため、冒険者を目指す者たちもはこのギルドに集まってくる。
「異世界より召喚されし者ショウジよ! 貴方は今冒険者としての第一歩を踏み出しました! この世界を魔王から救った勇者として、貴方の名前が刻まれる日を我らがギルド職員一同心よりお待ちしております!」
異世界に来てからこの冒険者ギルドに辿り着くまで、本当に長かった。女神様に幸運のチート能力を貰ったのは良いものの、この世界の辺境の村から始まったせいで、無駄に歩かされたし魔法の力でワープもできないし、車や電車がないのは不便だ。俺がこのチートで魔王を倒した暁には、この世界の文化レベルを上げてやろうと思っている。
「貴方のクラスや能力の情報は、この『姿見の書』に書かれておりますので、それを読んでおいてください。冒険には必要不可欠なものですので、大事にしてください」
「これって見た目ただの本ですけど、魔法の力で簡単に読めたりしないですかね? 私あまり文字を読みたくないんですけど……」
「ええ、本はそのまま読むしかないですけど……。でも貴方見たところ『ファームマン』ですよね? だったら本を読むのなんてむしろ得意じゃないですか!」
この世界では俺達のことを人間とかヒューマンみたいに呼ばず、なぜかファームマンと呼んでいるらしい。俺が世界を救った際には呼び方も直してやるかな。それにもう紙の本を読むなんて古い、情報はスマホでささっと読むか、動画で見るのが一般的だろ。なんか文字ばかりで面倒そうだから、最初の村で出会ってここまで来たシスターに読んでもらうか。
「ク……ディアさん、またこの本読んでもらうことって出来ますかね?」
「……ええ、いいですよ。……ショウジさんって確か運の高さを活かせる『芸人』クラスを希望していましたよね? こちらの本には『戦士』と書いてあるのですが……」
そんな馬鹿なと思い確認してみると、確かに俺のクラスの欄には戦士の文字が書かれていた。俺が女神から貰った幸運のチート能力を活かせる芸人のクラスになることで、世界を救えると女神から聞いていたのに、こんな想定外のことが起きるなんて。
「……なんで私のクラスが戦士なんですか?」
「申し訳ございません。それは我々ギルド側の手違いとなります。この『祝福の腕輪』を差し上げますのでこれであちらの窓口に行ってこれからの説明を聞いてください。まれに起こることだと入口でお渡しした紙に注意書きを書いておいたのですが……」
先程入口で渡された紙を改めてみてみると、『冒険者の儀式』ではたまに手違いが発生し、一緒に儀式を受けた者の中で希望していたクラスの入れ違いが起きると記載があった。こうゆう書類は面倒くさくてちゃんと読む気がなかったから見逃してしまっていた。
「この儀式やり直しは出来ないんですかね?」
「はい、こちらの儀式は1回限りでしてやり直しは出来ません」
「冒険者ギルドの手違いで、私は戦士になってしまった。ということですか?」
「ええ、そうなりますね」
せっかく異世界に来てチート能力まで貰ったのに、ギルドの手違いでその能力を活かせないなんて、そんな馬鹿げた話あってたまるか! ここまでなんとか事を荒立てないように異世界人にはいつもの営業スタイルで接してきたが、もう気を使う必要はないだろう。
「……おいお前、責任者はどこだ? 謝って済む問題じゃないが、土下座してもらわないと気がすまないんだよ!」
「あの! ショウジ落ち着いてください! ちゃんと説明を読まなかった私達が悪いんですから。私だってほら『僧侶』を希望していたのにショウジと同じ戦士に……」
「はぁ? お前みたいな雑魚な村人シスターが僧侶になっていたところで大したことないだろ!? そもそもお前らが全員クラスに芸人を希望していたらこんなことにはならなかっただろう! ……この際だから言っておくが、俺はお前らにも腹が立っているんだ!」
異世界転移してからここまで何もかもが予想と違っていた。可愛いヒロインやエルフやドワーフといったまさにファンタジーな種族が仲間になることも、凄い魔法に出会うこともなくただひたすらここまで歩いてきて、挙句の果に手違いでこのチートを活かせないクラスになるなんて……もう我慢の限界だった。
「このパーティのメンツ見てみろよ! ティア、お前は地味で可愛げのないシスターだけどお前はまだ人間だからいいよ。他の奴らは何だ!? リザードマン、ゴブリン、オーク、それにスケルトンだろ!? こんなのどうみたって魔王側のパーティじゃないか!」
「皆さん私達と同じこの世界に生きる人類ですよ? 何が問題なんですか?」
「どう見ても見た目が魔物だろ! 俺の世界ではこいつらは皆魔物扱いなんだよ! もっとエルフとかドワーフみたいな仲間が欲しかった!」
何が悲しくて異世界まで来て魔物とパーティを組まなくてはならないのか、俺はもっと普通の……。
「その気持ちよくわかるぜ」
俺が話をしているとギルドの2階に続く階段の方から男の声が聞こえてきた。
「俺はあんたと同じでこの世界に転移してきて、手違いで合わないクラスにさせられた者さ。そして今あんたをパーティに勧誘しようとしてるんだ」
「勧誘って……能力とクラスが合わないもの同士、手を組んだってなんの解決にもならないだろ」
「まだ説明を聞いていないようだから俺の方から教えてやるよ。その金色の『祝福の腕輪』は俺もつけているんだが、それがあるとこのギルドで優遇してもらえるんだよ、手違いを起こしてしまった詫びとしてな。簡単なクエストを達成するだけでかなりの報酬がもらえるし、ギルドに頼めば色んな手伝いをしてくれる。快適な馬車に乗ってこの異世界を冒険することだってできるぞ」
この世界で俺と同じような転移者に会えたことが嬉しいのと同時に、まだこの世界を楽しめるチャンスがあることにとてもワクワクした。絶望していたところにこの出会いはまさに幸運チートのおかげだと思った。
「それに俺のパーティメンバーにはあんたのとこみたいに魔物みたいな連中はいないぜ? エルフやドワーフ、まさに俺達が思い描いていたファンタジーの世界の種族が仲間にいるんだよ。俺としては同じ転移者が居ると嬉しいし、よかったら俺の仲間にならないか?」
「……チート能力が、初めて役に立った気がするよ。ありがとう! 俺、仲間になるよ!」
「そう行ってくれると思ったよ! じゃあ早速俺の仲間を紹介するからこっちに来てくれ!」
やっと始まるこれからの異世界生活に胸を躍らせながら俺は彼と硬い握手をした。
「紹介する前に、その祝福の腕輪はもう腕に付けておいてくれ、肌身離さず付けておかないと優遇は受けられないからな」
俺はさっき貰った祝福の腕輪とやらを腕に付けた。留具をカチッとはめた瞬間なんだか力が湧いてくるような気がした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
腕輪をはめたカチッという音とともにショウジが2階へ行ってしまった後、さっきまで静まり返っていたギルドは徐々に活気を取り戻していました。いきなりのことで何がなんだかという感じだったけど、最後まで私の『クラウディア』という名前をちゃんと覚えてくれなかったことにちょっと寂しさを感じていいました。
「やっぱりあいつはとんでもないやつだったな! エルフであるこの僕のことをオークと呼ぶなんてなんて年下のくせに無礼なやつだ!」
あっけにとられていた中で真っ先に声を上げたのは、このギルドに来てから仲間になったエルフ族の『オーウェル』で、私達ファームマンと比べると身長が高く細身の人が多いエルフ族の中で、彼はまだまだ小柄でぽっちゃりとしているメガネをかけてる少年です。
「あたいとガルドンの事は最初から魔物扱いしやがって……! やっぱり他種族ってのは簡単には信用できないねぇ」
続いて怒りを露わにしたのもこのギルド内で仲間に加わったゴブリン族の『ライム』で、ゴブリン族の年齢はよくわからないけど、ゴブリン族の中では比較的年長の女性のようです。
「俺もショウジの皆に対する無礼な態度には苛立つところがあったが、ここは一旦落ち着いて。過去に対する怒りよりも今後どうするかこれからの事を考えていこう」
皆を諌めてくれたリザードマンの『ガルドン』は道中の遺跡で出会って以降、その冷静さでトラブルに対処して来てくれた頼れる仲間です。
「ガルドンさんの言うとおりです。ここは一旦落ち着いて、まずは皆さんのクラスがどうなっているか確認しましょう。皆さんの本も確認させてください」
皆の姿見の書を確かめてみると、オーウェルは魔法使いを希望していて『斥候』に、ライムは斥候希望で『僧侶』に、ガルドンは戦士希望で『魔法使い』になっていました。
「これは……見事に全員のクラスが入れ替わっていますね。ということは……」
私は最後にスケルトンさんの姿見の書も確認することにしました。スケルトンさんとも遺跡で出会ったものの、骨でカタカタ音を立てるだけで話すことは出来ませんでした。その代わりボロボロの剣と盾を使ったジェスチャーで仲間になりたいとアピールして着いてきたので、そのまま仲間として一緒にギルドまで来ています。
「スケルトンさんは『芸人』になっていますね……。ということは戦士を希望していたんですね」
全員希望のクラスにはなれていない状況で、まともに冒険ができるのかとても不安になってきました。得意を活かしたクラスになれなくても、魔王討伐はできるのでしょうか。最初確認したときは焦っていたから見間違いがあるかもしれないと、もう一度私自身のクラスを確認することにしたが、そこには先程と同じ戦士の文字が書いてありました。
「冒険者ギルドの手違いで、私は戦士になりました」
脱力感とともに、私はそうつぶやきました。
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