義妹・セレナリーゼ編④
森を抜ける道中、ミノタウロスの討伐はセレナリーゼがやったことにしてほしい、とレオナルドから頼まれた。
セレナリーゼとしてはレオナルドの手柄を横取りするのは嫌だったが、自分の力を知られたくないというレオナルドの望みを断れる訳もなく、頷くことしかできなかった。
森の入口付近でセレナリーゼと別れ、レオナルドは一足先に森を抜けた。
その後、セレナリーゼが森から出てきて、生徒達や引率の教員は今までとは違う理由で大騒ぎとなった。
そんな彼らにセレナリーゼが落ち着いた様子で魔石を見せながら事情を話しているのをレオナルドは遠目に見つめる。
(無事に終わったな……)
『こんなことばかり続けていったい何の意味があるんだか』
(だから死亡フラグをだな―――)
『そう言って自分から危険に飛び込んでるだけのように思えますけど?』
(…………)
『ま、今回はあのデカブツを殺せたので満足しておきます。どうせレオから離れられませんし』
(……お前にはこれでも感謝してる。これからもよろしく頼む)
『それはレオ次第ですね』
(そうかよ)
こうしてこの日の実習は終わった。
後日、学園内のテラスでレオナルドはセレナリーゼに精霊のことを話した。
「精霊……、そんな存在がいたのですね……」
疑問はいっぱいあったが、言葉にできたのはそれだけだった。
「ああ。これであの力についてはわかってもらえたか?」
「私にも見ることはできますか?」
「いや、誰にも見え―――」
『可能ですよ』
レオナルドが言い切る前に、精霊がレオナルドの体から出てきた。
「は?」
「っ!?」
セレナリーゼは驚きに目を見開いている。白い光の塊のようなものがレオナルドの中から突然現れたようにセレナリーゼには見えた。
(なんでセレナに見えるんだよ?)
『先日、精霊術でセレナリーゼを治したでしょう?つまりセレナリーゼの中に私の力が入ったということです。それが理由ですよ』
(んなっ!?)
「まあ、そうだったんですね!精霊さん、あのときはありがとうございました」
(声まで聞こえるのか!?)
『セレナリーゼは素直ですね。そういう態度は悪くありません。それとレオ。今は私の方で聞こえるようにしているだけです。レオの思考は聞こえてませんし、普段は聞こえませんよ』
(……ああそう)
精霊についてはゲームでもほとんど説明がされていない。つまりレオナルドにもわかっていないことが多いのだ。
「こんなやつにお礼を言うことなんてないぞ、セレナ」
「ふふっ、でも嬉しいです。レオ兄様の秘密を共有していただけて。このことはお父様お母様、それにミレーネも知らないのですよね?」
「ああ、セレナだけだ。だから内緒で頼む」
「もちろんです!私とレオ兄様だけの秘密、すごくいい響きですね」
セレナリーゼはうっとりとした表情を浮かべる。
「じゃ、じゃあ話も終わったことだし、これでお終いだな」
何かよくない流れだと感じたレオナルドは打ち切るようにして立ち上がる。
「あ、レオ兄様!?……もうっ」
レオナルドはそのまま歩き始めてしまう。
「……レオ兄様と幸せになる未来を私は諦めていませんから。覚悟してくださいね?」
小さく呟き微笑むセレナリーゼ。
もっともっとレオナルドには自分を同世代の女性なのだと意識してもらいたい。そして妹としてではなく女の子として好きになってほしい。
誘拐されたとき、犯人とレオナルドの会話から自分がクルームハイト公爵家の子供でないとわかった。もちろんショックだったがそれだけじゃなかった。その後、レオナルドに助けてもらって、負ぶわれて帰っている間ドキドキが止まらなかった。家に着いたところでレオナルドが倒れたときには心臓が止まりそうだった。レオナルドは誘拐犯との戦闘で怪我をしていたのに、自分を運んでくれたのだ。レオナルドは魔力がないから回復魔法が効かず、ミレーネと一緒にレオナルドが目覚めるまでずっと看病をした。看病しているときに、自分が抱いている淡い想いに気づいた。気づいたからには止まれなかった。レオナルドは犯人と会話しているとき、セレナリーゼが気を失っていたと思っている。だからまだレオナルドはセレナリーゼが知ってしまったことを知らない。けれど、両親には話した。両親は最初驚いていたが、事情を話してくれ、血が繋がっていないにもかかわらず、愛情を注いでくれたことに、クルームハイト家の人間と認めてくれていることに、セレナリーゼは感謝した。
それからセレナリーゼはどうしたらいいか考えた。そして両親に、いかにレオナルドのことが好きかを熱く語り、説得して、自分の考えを認めてもらった。自分に婚約者なんて作られたら困るからだ。
レオナルドと結ばれる。それがセレナリーゼが密かに抱いている望みだった。そのためにセレナリーゼはレオナルドに意識してもらえるよう積極的に動いているつもりだが、中々うまくいかない。でもこの計画は絶対に成功させたいものだ。
レオ兄様ではなく、レオ様、そう呼べるようにこれからも頑張ろうと気合を入れ直したセレナリーゼは、
「置いていかないでください!レオ兄様」
先を進むレオナルドに駆け寄り、その腕を抱えるようにして抱きつくのだった。
「っ、セレナ、ちょっと引っつき過ぎじゃないか?」
自分の腕がセレナリーゼの豊かな胸に押し付けられて慌てるレオナルド。
「いいじゃないですか。減るものでもないですし」
「それはそうかもしれないが……、誰かに見られたら……」
「何の問題もありません」
「そうか……」
レオナルドは義妹に嫌われたくはないため、腕から感じる柔らかな感触を意識しないように、セレナリーゼは甘えているだけだと必死に自制心を働かせる。それでも横を見れば笑顔のセレナリーゼが密着していて、レオナルドはため息を吐くのだった。
(勘弁してほしい……)
セレナリーゼはもっと自分の魅力に気づくべきだとレオナルドは本気で思った。血の繋がりがないとわかってからセレナリーゼみたいな可愛い女の子と一緒に暮らすのがどれほど大変だったか。ゲームと違い、離れるはずの距離も全く離れる気配がないし。こういうことは主人公にするものではないのか、と考え、その姿を想像してちょっと嫌だなと思ってしまう。思ってしまった自分にバカか、とツッコむ。
成長して美しさに磨きがかかりヒロインに相応しい女性になったセレナリーゼの無防備な行動にレオナルドは頭を悩ませるのだった。
―――――あとがき――――――
最後までお読みくださりありがとうございました!今回の話はゲームの序盤にある共通ルート中のイベントといった感じです。
初めてのファンタジー、初めての短編ということで拙い部分がたくさんあったかと思います。今後も精進していきたいと思っていますm(__)m
死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する! 柚希乃愁 @yukinosyu
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