第6話 元皇女の令嬢と王女になった令嬢Ⅱ

《皇女と教会と聖騎士》

 むかしむかし、ユースティア皇国という国がありました。

その国は大変豊かでした。

人々は喜び、慈愛に満ちた精霊の元で幸せに暮らしていました。


 そして、教会内を勢いよく走り回る1人の少女がいた。

「待ってくださいセシリア様。」

「ここは危ないですから……。」

 神官たちが少女を追いかける。

少女の名はセシリア=ユースティア。

この国の第二皇女様。

みんなが慕い、憧れるお姫様。


 そんなお転婆なお姫様はその身軽さと身体能力で神官たちを振り切って逃げ切ろうとした矢先、身体は中に浮き、足をばたつかせるだけだった。

「おいたが過ぎますよ。セシリア殿下。」

「むぅ……、また捕まった。」

 手足を思いっきり振って抵抗を試みるも、聖騎士として鍛えられたその肉体には全く意味をなさなかった。



《☆♡☆♡☆》



 噴水広場で食事を終えたフィーアとイリスフィアは舗装された丘の道を進んでいた。

「イリア、どこまで行くの?。」

「ちょっと綺麗なところ。」

 少々疑問に思いながらもイリスフィアの後ろをついて行く。

木々のトンネルの中、影が身体を撫でるようにすぎていく。


 森のトンネル抜け、光の扉の向こう。

光でぼやけた視界が徐々に鮮明になっていく。

そこは噴水広場とは違う少し狭い丘の上の広場。

右手側には廃墟になりかけた教会。

ちょっとでも衝撃を与えたらすぐ崩れてしまいそうな外見は5年前の傷跡がまだ残っていることを胸に刻まさせる。

「フィーア、こっち。」

 イリスフィアの手招きで教会の反対側、つまり森のトンネルの出口から左手側のところ。

胸の高さほどの石でできた塀で囲った見晴台。

遮るものがない開けたこの場所は少し高い位置から街を一望できる。

「ここ、良い景色でしょ。」

「そうだね。どうしてここに?。」

「それはね。フィーアにも知ってほしかったから。私のお気に入りの場所。」

「イリア……。」

 夕日が山に向かって沈みかけ、影は伸び、空は赤から紫色に変わってゆく。

夕日に照らされた建物は影に深く沈み、風に乗ってパンや肉を焼いた匂いと共に優しく身体を撫でていく。

「フィーアはさぁ……、どうだったこの街。」

「どうって、静かだけど活気があって良い街だと思ったけど。」

「そう……。」

 悲しげな顔で夜に沈みゆく街を眺めるイリスフィアにフィーアは思う。

いろいろあったとはいえ、つい最近まで皇族として英才教育されてきたフィーアと違って、イリスフィアは元々そういう教育とは無縁だったはずのに、国が変わり、付け焼き刃な状態で皆の前で王女として頑張っている。

もちろん彼女を偽りの王女として批判するものは少なからずいるが、それでも国民はずっとしたっている。

 だからこそフィーアは一つの決断をした。

元皇女として、ギアを扱う騎士として。

「イリア。ちょっといい?。」

「えっ!。何……。って!?。」

 フィーアは特に返事を待たずにイリスフィアの手を引いた。

状況判断が追いつかず、混乱している彼女をよそに朽ち果てた教会に連れてゆく。

「フィーア……、ちょっと……。」

「イリア……。」

 連れてこられたイリスフィアの目の前には夕日に反射して輝くステンドグラス、首と片翼が落ちても祈りを捧げる朽ち果てた天使の像、そしてその前に立つフィーア。

彼女の眼差しはいつになく真剣で、微かにプレッシャーを感じた。

あぁ……、本当のお姫様はこうも凄いのかと。

そう感じる。感じてしまった。

「イリア……、いや、イリスフィア殿下。」

「は、はい!。」

 教壇の前に並び立つ2人。

フィーアはイリスフィアの手をとり、膝をつき、そして……。

「私はイリスフィア……、イリアの騎士としてこれから一緒に歩んでいくことを誓います。」

「フィーア……。」

「だからさ……。一人で全部背負わないで、私に頼って。」

「そう……、うん、ありがとう。」

 立ち上がり、目を合わせ、優しく微笑むフィーアにイリスフィアは手を優しく撫でて、目を瞑って。

「私からもよろしくね。フィーア。」

「あぁ……。」

 お互いに抱きしめあい、触れ合い、そして口付けを交わす。

丘の上の小さな教会で行われた2人以外、誰もいない任命式はひっそりと終えた。


 夕日が地平線へと沈み、地上に小さな星々が灯る頃、学園寮ではフィーアの歓迎パーティが行われようとしていた。

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