第5話 元皇女の令嬢と王女になった令嬢Ⅰ
《ある王女のお話》
帝国が王国へと変わっていこうとしている中、
未だに瓦礫が残る破壊された宮殿。
想像しなくてもわかる激戦の後。
血と焼けた匂いが未だにここには残っている。
そんな中、王宮内部にある吹き抜けの中に入った私は綺麗に残ってた木製ベンチに座る。
「まだこんな場所が残っていたなんて……。」
木々は焼け落ち、城下町の大半は瓦礫の森となり、残ったのは加害者と被害者の犠牲者と憎悪のみ。
私は王女としてこの国をまとめないといけない。
それはわかっている……。
わかってはいるけども……。
「ふんふんふん♪。」
中庭に響き渡る鼻歌。
よく聞こえるその音色を辿った私は一人の少年と出会う。
「やあ、はじめまして。」
「あの……、あなたは?。」
「あぁ、失礼しました。私は███。よろしくお願いしますね、偽りのお姫様。」
素顔を晒してるのに仮面を付けたようなその笑顔。
皮肉と悲しみと憎悪の混じったその直接な言葉は何故か私には向いてなかった……。
そしてその少年の妹と学園で出会うことなんてこの時は私は思ってもみなかった。
《☆♡☆♡☆♡☆》
決闘から数日が経ったある日。
学園寮の正門前に一人の少女が立っている。
(えっと……、これで良いよね。)
忙しなく髪を整える少女はイリスフィア。
この前色々あったが、まあそれは一旦忘れることにして今日は転校生で新しい仲間のフィーアにお詫びを兼ねた街案内をすることになっている。
「おまたせ、イリスフィア殿下。」
「大丈夫よ。全然待ってない。それよりも私のことは呼び捨てで良いってずっと前から言ってるでしょ!。」
「そ、そうだね……。じゃあ、イリスフィア。案内、お願いね。」
「ふふん。私に任せなさい。」
握った拳を胸にうち、声高々にお姉さんぶるイリスフィアをフィーアは少々不安気な面持ちでとりあえず流した。
☆♡☆♡☆♡☆
学園寮の正門を出た2人は住宅街を行く。
青、赤、黄色、緑、カラフルな壁と屋根が立ち並ぶ都市の街。
イリスフィアにとっては見慣れた街。
しかし、フィーアにとっては思い出も記憶もないただの灰色の街であった。
「フィ……、……ーア……、フィーア!。」
「な、何?。」
「何?って私が言いたいよ。さっきからぼーっとして。」
「そうなの?……、ごめんね。」
「ふん!。次は私のお気に入りのところなんだから、しっかり私のことを見ててよね。」
「はいはい。」
グイッと力強くフィーアを腕を引っ張って、イリスフィアは勢いよく駆け出した。
☆♡☆♡☆♡☆
住宅街を抜け、喫茶店や呉服屋、肉や野菜などを売ってる市場や旅館などが立ち並ぶ商業区画を抜けた先にあるのは、中心にぽつんと噴水が置いてあるただただ広い円形状の広場だった。
「フィーア、おまたせ。」
「あ、うん。」
ほのかに香ばしい小麦粉と肉を焼いた匂いとともにイリスフィアがやってきた。
「なにこれ。」
「ふふん、私イチオシの食べ物。名前はよく分からないけれども。」
「へぇ……。」
苦笑いしつつも受け取るフィーア。
焼いたパンにソーセージを挟んだシンプルな料理。
片手で食べられるように紙の容器に包まれて、温もりが伝わってくる。
「とりあえず噴水の所で食べようか。」
「うん、そうだね。」
2人は食事片手に広場の噴水に腰を下ろした。
優しく柔らかく吹く風が広場に行き渡る。
「あのさ……。」
「何?。」
「ごめん。なんでもない。」
続かない会話。
イリスフィアにとってはフィーアは初めての対等の立場での友達であり、恋人であり、同じギアオタク仲間。
それ故に彼女は分からないのである。
立場が立場ゆえ、学園では基本的な挨拶のみで会話はせず、いつもはラボにこもりっきり、まともに会話したことあるのは学園長のみという体たらくである。
「イリスフィアはさぁ……。」
「あ、え……何?。」
「あ、うん……。イリスフィアはさぁ……、凄いね。しっかり王女やれて……。」
「えっ?……。」
「私は逃げたから。皇女としての責務も、辺境伯令嬢としての義務も、何もかも。」
「そんなことは無いと思うよ……。」
「そうかな……。」
「そうだよ。私は成り行きで王女になっちゃったけど……、後悔はしていない。」
「後悔してないの?。」
「そう。だって、この街を見てよ。元気でしょ。みんな楽しそうでしょ。」
フィーアはイリスフィアに言われて辺りを見渡した。
元気に走り回る子どもたち。
井戸端会議をする主婦たち。
笑顔で談笑する商人と小売屋の人たち。
イリスフィアの言う通り、この街は活気に溢れている。
それも10年前、王宮から見てた城下町とは違う景色。
「だからさ。フィーアは下を向かずにさ、前を向いてよ。私が手を引くから……。」
イリスフィアは噴水から立ち、フィーアの前で手を差し伸べた。
「じゃあ、私と一緒に歩くこと後悔しないでよ。」
「それはこっちのセリフよ。」
フィーアはイリスフィアの手を取って立ち上がる。
日が落ちようとする時間に2人のプリンセスが手を取る関係はしがない小さな街の噴水広場で、日常の断片として慎ましく行われた。
「なんだかこういうの恥ずかしいね。」
「今更ですか、イリスフィア。」
「イリア……。」
「ん?……。」
「イリアって呼んで……、私のファミリーネームだから……。」
「あっ……。」
だいぶ茹で上がってきた2人のプリンセスを祝福するように噴水が大きな水しぶきを上げる。
「全く、フィーアにはまだまだこの街のこと知ってもらわなきゃいけないだから。」
「ごめんごめん……。」
「じゃあ次、いくy……。」
「あっ……。」
「んっ。」
方向転換して歩こうとした矢先に、イリスフィアは足を絡ませて転んでしまう。
……ということにはならず、フィーアのとっさの判断で無事、地面には倒れなかった……。
倒れなかったのだが……。
「あなた……、どこ触ってるの……。」
「えっ、あっ……。ごめん。」
不可抗力。
なんという不可抗力。
フィーアの手が、イリスフィアの豊満な胸部をものの見事に支えてしまった。
これはそうそうに前途多難な再スタートを切ってしまった……。
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