第4話 辺境地からの転校生Ⅳ

《ある少女の話》

 今から約5年前。

アストレア辺境伯の屋敷にて、テクトギアを纏った銀色の長い髪に蒼い瞳の少女のような容姿の女性。

「お母様……。」

 これから旅立とうとする彼女を見送る……いや、引き止めるとは程よい長さの黒髪に蒼い瞳の少女……フィーアだ。

「大丈夫よ。お母さんはちょっと、皇国の民たちを救いに行くだけだから。」

「でも……。」

 フィーアはそれ以上強く言えない。

わかっている。いや、わかっているからこそわがままも強く言えずにいた。

「じゃあ……、これだけは必ず約束してください。」

「はい。」

「必ず……、必ず、帰ってきてくださいね。」

「うん。」

 優しく返事をしたフィーアの母は青白い光を粒子の翼とともに焼けるような赤い紅い空へと飛んで行った……。

フィーアは母の残したペンダントを手に安全な屋敷へと引きこもった。


 それから何日も、何日も待っても、フィーアの母は帰って来なかった……。



《☆♡☆♡☆♡☆》



 夢が霧のように霞んで消えてしまう悲壮感とともに少女……フィーアは目を覚ました。

「また懐かしい夢……。」

 学園の医務室で目覚めたフィーアはまだあんまり覚醒しきってない頭で状況を確認する。

(あの後、倒れたのか……。)

 アストレア領からここまでと戦闘の負担が重なり、自分が思ってたよりも身体は疲れを溜めていたと考察したようで、プチ反省会状態になっている。

「うん、ありがとう。……って、ようやく起きたわね。」

「あぁ……、うん。ごめん。」

「いいのいいの。私の方こそごめんね……。」

 シャーッとベッドを仕切るカーテンを開けたのは、先程対戦してたイリスフィアその人だった。

少し申し訳ない顔で、トレイに乗せた夕食と思わしき食事があり、フィーアは窓を覗いた。

「もう夜か……。」

「そうね……。」

 2人してどうしようもない状態という顔を黄色く、そして白く輝く月は透き通る夜空の元、見守っていた。

「フィーアさん。さっきはごめんなさい。」

 イリスフィアの唐突な謝罪と深々と頭を下げる姿にフィーアはちょっと悶えつつも質問をした。

「どうして謝るの?。」

「それは……、あなたのことを……、学園長から聞いたのよ。」

「あぁ……、なるほど。」

 急にしおらしくなったイリスフィアに戸惑っていたフィーアもこの答えには納得したようで、それと同時にある決心をした。

「学園長から聞いてると思うけど私、フィーア=アストレアはかつてのユースティア皇国の第二皇女、セシリア=ユースティア。」

「本当に……、そうなのね……。」

「今更嘘は言えないよ。」

「ごめんなさい……、私てっきり帝国の者かと思って酷いことを……。」

「まあ、それは仕方ないと思ってる。君の境遇を考えれば不自然な考え方じゃないしね。」

「本当になんでもお見通しなのね。」

「知ってる範囲ならね。」

 2人の笑顔が辺りを彩り、先程までの緊張感が嘘のようになった。

「セシリア……いや、フィーアなら知ってると思うけど、コレ……。」

「帝国の刻印……。」

「そう……、コレがあるから私はまだ帝国の呪縛から解かれないの……。」

 イリスフィアは制服のスカートをたくし上げて、フィーアに身体に刻まれた帝国の刻印を見せる。

竜の顔模した刻印。

汝が帝国の所有物である証。

「少し触れても?。」

「うん、いいよ。フィーアなら……。」

「じゃ、失礼して……。」

「ひゃんっ。」

 フィーアが刻印に触れた途端、刻印は眩い光を放ち、一旦視界を奪ったが……。

「えっと……。」

「なにこれ?。」

 それまで竜の顔を摸してた刻印は、ひし形の図を中心に精霊の羽を模した形へと姿を変えていた。

2人とも突然の変化に戸惑いを隠せないものの、それよりも変化をしたことに対する好奇心の方が両者で湧き起こってた。

「刻印が変化……?。でも元々帝国のものだよね……。どうして皇国の皇女である私に反応した?。」

「分からないけど、私が知ってる情報だと。コレは元々皇国で使用されてたものを帝国が改変して使ってたみたい……。だから帝国もよくわかってないみたいで……。」

「だとすると刻印のブラックボックスに皇国に関係するなにか……、って大丈夫ですか?イリスフィア殿下。」

「私は大丈夫……、はぁ……、はぁ……。」

 呼吸は荒くなり、全身が発熱したように赤くなっているイリスフィア。

ちょっと動くだけでも、制服が擦れて反応してしまう。

「大丈夫……?。」

「ひゃんっ!。」

 なのにフィーアに触れられるとそれ以上に身体は過敏に反応してしまい、腰を床に下ろしてしまう。

「フィーア……、さっきから私の身体がおかしいの……。ずっと……、ずっと……、熱くって……。」

「お、おい……。なのを……。」

「あなたを見てると……、んっ……。あなたのことが凄く……、欲しくて……。」

「ちょっと……、んっ!?。」

 熱をおびた口付けがフィーアの身体を侵食していく、深く、深く……。

まるでお互いの相性を確かめあるように……。

医務室のベッドを揺らしながら、身体を重ねた……。


「あらあら〜、お熱いことで〜。」

「学園長!?。」

「ソフィアさん……、見てたなら止めてくださいよ。」

「えっ!?。」

 ニヤニヤ顔つきで生暖かく守るソフィア学園長。

フィーアは気づいていたが、それどころではなかったので特に指摘せず。

イリスフィアに関して無我夢中であった……。

「そんな事よりもこれ。」

「そんな事って……、本?。」

「魔導書みたいな見た目ですけど……。」

「そう、コレは古代ユースティア帝国の魔導書

この学園の書庫の開かずの扉にあった禁書庫にあったのよ。」

「あったのよって……、まさかここって。」

「そう、この学園は旧皇国の皇宮を改装して作られたから、こういう掘り出し物が出るの!。」

 キラキラした瞳ではしゃぎ回るソフィア学園長。

おもちゃを与えられた子どものごとく動き回る様は若き高貴な令嬢たちにはダメな大人にしか見えておらず、呆れた顔で見ている。

「あぁ……それと、2人ともご結婚おめでとうねぇ〜。」

 言葉に笑い声を紛らわせながら医務室を出ていくソフィア学園長。

「あれということ?。」

「さぁ……。」

 フィーアとイリスフィアの2人はソフィア学園長が置いていったと思われる魔導書を手に取った。

「あぁ……、そういう事ね……。」

「フィーア。なんて書いて……って、えっ!?。」

 魔導書には【精霊の結び】と書かれた説明文が、わかりやすい図解とともに記載されていた。


精霊の結びとは、古代ユースティア帝国において王族が一時的に婚約者が見つからない時に身体的、霊体的に相性の良い相方を見つけるための魔導技術について書かれていた。


 つまり、フィーアとイリスフィアは精霊によって繋がれた赤い糸によって結ばれた婚約者でもあるということである。

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