第3話 辺境地からの転校生Ⅲ

《ある人質令嬢の話》

 帝国が滅び始めて間もない頃。

ここは政敵や裏切り者たちの人質を収容する要塞。

大半は幼い少女たちであり、行われていたのは洗脳に等しい再教育であった。


 それも今日までの話。

城壁は支柱の見張り台を残して崩れさり、砦はもはや原形すら残ってないほどに瓦礫の山とかした。

『逃走した人質奴隷レストたちに告ぐ。直ちに武装を解除し、投降せよ。繰り返す――。』

 瓦礫と業火が広がる元砦に響き渡るのはテクトギアを纏った帝国軍兵士の声。

そんな中で一人で逃げる少女がいる。

金色のロングヘアに翠色の瞳の幼い少女。

【イリスフィア=ユリシーズ】だ。

(みんな、無事に逃げれたのかしら……。)

 イリスフィアは革命とクーデターの混乱に乗じてこの砦を壊し、人質になっていた貴族や商会の令嬢、借金や誘拐などで連れてこられた平民の少女たちを解放し、自分は囮となって帝国軍兵士たちの注意を引いていた。

「そこか!。」

「あぐっ……。」

 一筋の赤い光がイリスフィアの真横を掠めて、瓦礫に直撃。

その衝撃で彼女はまだ崩壊してない城壁に叩きつけれらてしまった。

「ようやく捕らえたぞ。」

「ぐへへ……、どうします?。」

「そうだな。こうなったら身体でしっかり落とし前つけてもらおうじゃないの。」

「いいっすねそれ。」

 打ち付けられて半分気絶しかかってるイリスフィアを見る帝国軍兵士たちは、卑猥な視線で彼女を舌なめずりしていた。

(もう……、ここまでか……。)

 光が消えかける瞳でイリスフィアは何とか最後の力で立ち上がった。

「でも!。負ける訳にはいかない。」

「あ''っ。まだやろうってのか。」

「やってやりましょうd……。」

「なんd……。」

「えっ……。」

 イリスフィアが弱った身体で戦おうとしたその時、一筋の青白い閃光が目の前帝国軍兵士たちの身体を貫いた。

(いった……、何が起こっているの……?。)

 また一つ、また一つ。

絶えず降り注ぐ青白い閃光の雨が砦の兵士たちを害虫を駆除するかのごとく撃ち落としていく。

光の道すじを辿っていくと空で輝く光の粒子の翼を持つ少女のような人影がそこにはあった。

「天使……。」

 イリスフィアがそう呟いた時、天使のような少女の人影が振り向いた。

それは神話の一節のごとく。

それは変革の刹那のごとく

それは…………。



《☆♡☆♡☆♡☆》



 フィーアが学園来た日から翌日。

学園内ある闘技場にて彼女とイリスフィアとの決闘模擬試合が始まろうとしていた。

「両者ともテクトギアを起動せよ。」

 審判の掛け声とともにフィーアとイリスフィアはテクトギアを起動し、テクトウェアにそれぞれの装備や装甲が装着されていく。


 フィーアのテクトギア【アストレア】は、腕や脚に関節に干渉しない程度の軽装な白い装甲に、スカートのように囲う腰の装甲。

右腕には折りたたみ式の精霊試作実体剣エーテルプロトソードと左腕には簡素な精霊盾エーテルシールド、腰には精霊エーテルを流すと光の刃が形成される精霊波動剣エーテルサーベルが2本ついている。

そして最大の特徴は各箇所に設置された武装をつけるための接続部があるということである。


 たいしてイリスフィアのテクトギア【ユリポータント】は、腕と脚を覆う曲線の多い白い装甲に、ドレススカートのような腰の装甲、背中や各所から生えた妖精のような翼。

それはまるで天使のように……。

武装は大型の精霊貯蔵槽エーテルタンクを持つ精霊小銃エーテルライフルが一丁と腰にエーテルサーベルが2本のみで、基本的自衛用の武器である。


 フィーアとイリスフィア、双方のギアの展開が終わっていつでも戦闘開始できる状態になった。

「それがあなたのテクトギア?。随分軽装ね。」

「今の私にはこれで十分ですので。」

「ん……。」

 あからさまな挑発に乗ってしまうのを顔を振って振り払うイリスフィアは改めて気を引き締めた。

「それでは決闘試合、開始!。」

 バンという銃声の合図とともに一筋の翠色の閃光がフィーアを襲った。

(うわぁ……、いきなりか。)

 その後もイリスフィアはフィーアに光の雨あられの弾幕で主導権を取ろうとするも……。

(あの子なんなのよ。砲撃はシールドで防ぐし、そうじゃなくても身軽に回避するし。)

 フィーアは弾幕をものともせずに、最小限の回避と最小限の防御でいなす。

しかし……。

「これでどう!。」

「っ!?。」

「やった!!。」

 フィーアだが装備していたシールドが限界突破されて、煙幕と化した。

それを見たイリスフィアはこれで彼女の防御が無くなったと確信して喜びを最小限の動作で表現してしまっている。

が……。

「なにっ!?。」

「これはダメか……。」

「危なかった……。」

 煙幕を突き抜けたエーテルサーベルがイリスフィアを襲った。

襲ったが翠色の粒子が球体状となって彼女を囲い、そして守った。

精霊結界エーテルフィールドか。」

「そうよ。これであなたの攻撃は通じないわ。」

 ふふんとドヤ顔で勝ち誇るイリスフィア。

なぜ彼女がそこまで確信しているのかは、このエーテルフィールドにある。

これは実体弾だろうと精霊弾エーテルビームだろうと防ぐ代物で、もちろんエーテルで刃を形成したエーテルサーベルも例外ではない。

(これであらゆる攻撃は防がれる。悪いけど、今のあなたにはこの弾幕を回避するしか手段がない。負けを認めるなら謝罪だけで許してあげる。)

 そう勝利を確信できる根拠がイリスフィアにはあった。

あったが、彼女は見落としていた。

それはフィーアがわざわざ取り回しの面倒さとスペースが邪魔な実体剣を装備していること。

そして、テクトギアの発掘と修復と改修をやってるアストレア領の令嬢であることを……。

「じゃあ、そろそろ行きますか。」

「なんで突撃!?。」

「なんででしょうね。」

 フィーアはイリスフィアの放つ閃光の弾幕をものとも……いや、無視するかのごとく直接突っ込んでくる。

そしてフィーアは折りたたまれたエーテルプロトソードの刃を展開。

その刃でフィールドを切り裂いた。

「どうして!?。」

「驚いてる場合?。」

「くっ……。」

 フィーアはフィールドを斬る、斬る、斬る。

絶え間ない斬撃がイリスフィアを襲う。

イリスフィアも必死に回避するも間に合わず。

「フィールドがっ!?。」

「遅い!。」

 翼は切り刻まれ、フィールドの展開が維持できなくなり、それと同時にイリスフィアの心も乱れてしまう。

「これで終わり。」

「はぁ……はぁ……はぁ……。」

 エーテルプロトソードの刃がイリスフィアの顔の真横に到達し、ギリギリ回避したというより意図的に避けたという方が正しいだろう。

「はぁ……、降参。私の負けです。」

「そう……。」

 イリスフィアの宣言により、この闘いは終わりを告げた。

フィーアはエーテルプロトソードを折りたたんで戦闘状態を解除し、イリスフィアから少し離れた。


 それからフィーアが目を覚ましたのは学園の医務室だった。

幼い記憶とともに……。

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