第2話 辺境地からの転校生Ⅱ

《ある少女の昔話》

 皇国【ユースティア】が政治的敗北をし、帝国【ユーシリア】へと姿を変えようとしていた時のこと。

皇都【ユースティア】からはるか遠く、馬車でもひと月はかかる辺境の地【アストレア】。


 そこへ帝国から追放された皇国の皇族の親子が馬車で辺境伯の屋敷へとやってきた。

白銀の髪に蒼い瞳の元王子【ラインハルト=ユースティア】。

もう一人は同じく白銀のショートヘアに蒼い瞳の元王女【セシリア=ユースティア】。

「ごめん、セシリア。こんなことになって……。」

「なんでお兄様が謝るの?。」

「俺がもっとしっかりしていれば、お父上が死ぬこともなかったのに。」

「お兄様……。」

 セシリアを握る手の力が強くなる。

後悔と懺悔と復讐が混ざった嫌な力。

セシリアは幼いながらも世界を感じていた。

だからこそ……。



《☆♡☆♡☆♡☆》



 太陽が地平線から顔を覗かせる時間。

ベッドの上でフィーアは目を覚ました。

「夢……、か。」

 頬を流れる涙を指で拭いながら、大きなあくびとともに身体を伸ばして、切り替える。

(久しぶりに兄さんの夢を見たな……。)

 8年前にアストレア領を出ていった兄は、帝国の騎士団の学院にアストレア次期当主として入学してからというものの。

5年前の帝国が滅びる少し前からフィーアに一通も手紙のやり取りをしていないどころか、どこに行ったのか、今どこにいるのかも行方不明である。

(この学園の制服ってスカート短いな。)

 まずフリルの付いた白いインナーワンピースを着て、その上に白いブラウス、青いマイクロミニスカート、蒼いコルセットベスト、前止めの白いボレロを身にまとったフィーアは鏡に映る自分を姿を見ながら困惑していた。

「少し良いかしら?。」

「大丈夫ですよ。」

 ドアを叩いた音ともに聞こえるのは学園長ソフィアの声だったので、フィーアは彼女を部屋に入室することを許可した。

「あら。あらあら。私の見立て通りに可愛くて似合うじゃないの。」

「ありがとうございます……。あの……。」

「あらどうしたの。」

「この制服ってスカート短くないですか?。」

「あら、その短さにもしっかり意味あるのよ。」

「そうなんですか……。」

 ある程度予感はしているフィーアだが、一応念の為にソフィアの話を聞くことにした。

「まず第一にオシャレの為。ほら、うちの学園って王都の学院に比べて平民出身も多いじゃない。その子たちも一緒になってファッションを楽しめるようにこうなったわけ。」

「そうなんですね。」

「そして第二に、多少恥ずかしくても戦えるように。リリティアとして戦う以上はあのウェアには慣れなきゃいけない。いちいち恥ずかしがってたらいつまでも戦えないし、人も救えないでしょ。」

「それもそうですね。」

「で、最後は私の趣味。やっぱり可愛い衣装を着た少女って良いわよね〜。」

「は、はぁ……。」

 途中まではまあ納得出来る理由であったものの、最後の方で呆れてしまったフィーアは自室にソフィアを置いて学舎へ向かうことにした。



☆♡☆♡☆♡☆



 寄宿舎から学舎に向かう道中にある噴水に一人の少女が座っていた。

金色のサイドテールをはためかせて佇む翠色の瞳の少女。

(あの子は昨日の……。)

 少女と目があった。

フィーアは目を逸らすも少女はお構いなく近づいてくる。

「なんですか……。」

「ちょっとごめんね。」

「何を!?。」

 フィーアは戸惑う。

それもそのはず、少女はフィーアの手を取って胸の膨らみに当てて触らせてきたからだ。

(なんなのこの子……。)

「んっ……。やっぱりあなたって……。」

「だからなんですか。」

「あなたこれからソフィアさんのところに行くでしょ。ちょうど良いから一緒に学園長のところまで行きましょ。」

「えっと私は……。」

「行くの。」

「アッハイ……。」

 問答無用で学園長室に連行していく少女に、フィーアは終始困惑の思いで多数の生徒に見られながらついて行った。


☆♡☆♡☆♡☆


 そして少女と一緒に学園長室にきたフィーアは憂鬱な気持ちでソフィアと対面している。

(ソフィアさん、あんなに熱く制服のこと語ってたのにもうここにいるのか……。)

 凄く威厳をもった面持ちのソフィアを見たフィーアは少し気が楽になった。

そんな気持ちもつかの間。

「ソフィア学園長。これはどういうことですか!。」

「どういう……とは?。」

 少女の叫ぶような大声が部屋全体に響き渡った。

フィーアは警戒レベルを引き上げて、ことの顛末を見守ることにした。

「なんでこの転校生が帝国の……関係者なのですか?。」

「イリスフィア殿下、違うのよ。彼女は……。」

「ならなぜ刻印が反応したのですか!。」

(刻印……。)

 疑問、否定、証拠。

学園長と、イリスフィア殿下と称される少女との討論に気になるキーワードに耳を傾けつつ、フィーアは不動を貫いていた。

「じゃあ、それなら1回闘ったらどう?。」

「えっ?。」

「はい?。」

 ソフィアの突然の提案にフィーアとイリスフィアの双方が困惑した。

(いやいやいや。たかが闘った程度でわかるわk……。)

「はい、わかりました。」

(えぇーーーーーーーー。)

 あっさり提案に乗るイリスフィアにフィーアはさらなる混乱を隠せないでいる。

「大丈夫よフィーア。帝国はいろいろとあなたのところとは違うから。」

「そういう大丈夫じゃないでしょ……。」

 ソフィアの保険に安心出来ないでいるフィーア。

そして未だに疑いの眼差しで見るイリスフィア。

「はい、わかりましたよ。やれば良いのでしょ。」

「物分りが良くてよろしい。」

「そうですか……。」

「あ、ついでに紹介するわね。彼女はイリスフィア=ユリシーズ殿下。この王国の王女様よ。」

「えっ?。」

 降り続く情報量の雨に、流石に処理が追いつかなくなったフィーア。



☆♡☆♡☆♡☆



 そして時は少しすぎて、学園内の闘技場。

そこに対面するのは白と蒼のテクトウェアに身を包み、セミロングの黒髪を左に束ねたフィーアと、白と翠のテクトウェアを身にまとったイリスフィアの2人のリリティアたち。

(で、こうなると……。はぁ……。)

 仕方ないという気持ちでフィーアはテクトギアを起動する。

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