精霊天使のアストレア

アイズカノン

第1話 辺境地からの転校生Ⅰ

《プロローグ》

 時に精霊歴86年。

世界に突如として出現した魔晶獣の存在により、人々の平和は窮地に追いやられた。


 しかしそこへ、精霊装テクトギアを纏いし少女。

精霊戦姫リリティアの登場により人類は反転攻勢へと転じた。


 そして1000年の月日が流れたある日。

リリティアたちを育成する王立リリティア学園に一人の少女が入学した。



《☆♡☆♡☆》



 カタカタと揺れる馬車の中。

窓に流れる街の情景に黄昏れるはセミロングの黒髪に蒼い瞳が特徴の一人の少女。

(もうここに来ることはないと思ってたのに……。)

 きっかけは一週間ほど前の14歳の誕生日のこと。

王宮から誕生日のお祝いの手紙と一緒に学園への招待状が入っていた。

少女は学園に行くことを反対したものの、父親の説得により今に至る。

「到着しましたよ。フィーアお嬢様。」

「うん。ありがとうね。」

 馬車を降りた少女こと【フィーア=アストレア】は操舵手にお礼をした後、学園への正門へと足を運んだ。

「ここだね……。」

 純白の柵に囲まれた一つの大きな屋敷。

この国を護りし白百合の乙女たちが暮らす花園。

【王立リリティア学園】の寄宿舎だ。

「えっと……、ここで良いのかな……?。」

 寄宿舎の中に入ったフィーアはまず寮長に挨拶するために寮長室の扉を叩いた。

トン、トン、トン、という木材の音色がしばし廊下に響き渡った。

「どうぞ〜。」

「失礼します……。」

「そう固くならないでよ。」

「そう……、言われましてもね……。」

 ドアを開けると目の前にはでっかい窓に左右を埋め尽くす本棚。

一見書斎に思えるその部屋に鎮座するのはロングヘアの黒髪に綺麗な紅い瞳の美人な女性。

【ソフィア=アストレイ】。 

この王立リリティア学園の学園長兼寮長兼精霊都市騎士団長。

つまり強い。

「いろいろ話したいことはあるけど、長旅で疲れたでしょ。今ならここの大浴場が入ってるからゆっくりしていきなさい。」

「はい。ありがとうございます。」

「ちなみにもう夜遅いから誰もいないよ。」

「あ、はい……。」

 可愛げのあるビジュアルから創り出されるソフィアのあざとさをものともせずに、少し……いや結構引きながらフィーアは寄宿舎の大浴場へと向かった。



☆♡☆♡☆



 白い大理石で造られた広い広い大浴場は訓練や実戦で疲れたリリティアたちの憩いの場としてソフィアが設計したこともあり、全身を湯船に浸かってゆっくりできるようになっていた。

「ふぅ〜……。もうあれから10年か……、早いものね。」

 フィーアは旧皇都で精霊都市の【ユースティア】に複雑な思いをしながら湯船に深く身を沈めた。


 ちょうどその頃。

フィーアがゆっくりしている大浴場に左サイドテールの金髪に翠色の瞳の少女がやってきた。

「あぁ……、今日も徹夜しちゃった。」

 テクトギアの調整という名の開発を何日もやっている少女は寝不足からくるあくびをしながらすす汚れた制服を脱いだ。

「あれ?、誰かいる。」

 そこにはこの学園のものではない衣装が置かれていた。


 ほどほどに浸かったフィーアは湯船を出て、部屋に向かおうとしていた。

「はぁ〜、久しぶりのお風呂だ〜。」

 ちょうど入ってきたロングヘアの金髪に翠色の瞳の少女と鉢合わせてしまった。

広い大浴場、少女が2人、何も起こらないはずもなく……。

「えっと、あの……。」

「あなた誰?。」

 どうしたものかと悩むフィーアをよそに金髪の少女はグイグイと近づく。

そのまま接近した少女は臨戦態勢な面持ちで接近しようとするも……。

「あっ……。」

「えっ……?。」

 寝不足により重心が鈍っていたのだろうか、ツルッと大浴場の床に足を掬われてしまった。

「痛た……。」

「大丈夫……ですか?。」

「うぅ……大丈夫だけど……あれ?。」

 少女が目を向けると近くに蒼い瞳の少し可愛げのある顔が見えた。

少女を助けるためにとっさにフィーアが動いたものの、押し倒すような形で少女に覆いかぶさっていた。

「んっ……。ちょっとあんた……、どこ触って……んっ!!。」

「えっ?。」

 フィーアの目の前には右腕で腰を隠して、身体を少々くねらせた少女がいた。

左手で少女の残った腕を拘束してる影響であまり身動きが取れておらず、オマケに。

「ちょっと、んっ……。どこ揉んでるのよ……。」

「ご……ごめんなさい。」

 マシュマロのごとく柔らかいく、ほどほどにハリの良い少し豊満な感触がフィーアの手に流れ込んでくる。

慌てて少女から離れるも、フィーアに絆された少女は少しぎこちなく起き上がる。

「あなた転校生ね。」

「はい……。」

「今日のことは不問にしてあげるから、もうでて行きなさい。」

「はい。失礼しました。」

 フィーアは頭を下げてから大浴場を退出した。

少女は少し火照った顔でフィーアを見送る。

「んっ。一応解呪したはずなんだけど……。あの子触れられた途端に活性化した……。」

 少女が触れるのは竜の頭を模した刻印。

現王国である【ユリシーズ】。

そしてその前身であり、クーデターと革命によって滅びた帝国【ユーシリア】。

その刻印である。

 なぜ少女のお腹と腰の間にその刻印があるか、それは少女が現王国の姫にしてリリティアである【イリスフィア=ユリシーズ】だからである。



☆♡☆♡☆♡☆



 そして翌日。

学園内ある模擬戦闘用の闘技場にて、肩と太ももが露出したボティスーツが特徴のテクトウェアを纏ったフィーアとイリスフィアが対面していた。

(どうしてこうなった……。)

 理由も分からず、とりあえず目の前に対処するしかないと腹をくくったフィーアであった。

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