虹色クラゲ

虹色クラゲ

作者Renon

https://kakuyomu.jp/works/16818093083353503407


 麗香と心実は絵を通じて特別な絆を持つが、心実の突然の行動で関係が破綻。麗香は手紙で仲直りを試みるも失敗。社会人になった二人は再会し、心実の個展で過去の誤解を解き、再び友情を取り戻す話。


 誤字脱字等は気にしない。

 現代ドラマ。

 出来が良い。

 友情と個性の尊重をテーマにした心温まる物語。

 心実の絵の描写が非常に美しく、感情が丁寧に描かれている。


 主人公は神崎麗香。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。恋愛ものと同じように、出会い→深め合い→不安→トラブル→ライバル→別れ→結末の流れに準じて書かれている。


 絡め取り話法で書かれている。

 主人公の麗香と心実は、空き教室で絵を描く心実の作品を見ながら過ごす。心実の絵は現実の色を使わず、虹色を基調とした独特なもの。麗香は心実の絵が大好きで、彼女の見ている世界を理解しようとするが、完全には理解できていない。クラスメイトの花村さんは、心実の外見や興味のない態度を批判し、麗香に心実と仲良くする理由を尋ねる。麗香は心実の良さを理解しない花村さんに怒りを覚えつつ、対して冷静に対応する。

 クラスメイトたちは心実を無視し、麗香に対しても冷ややかな態度を取るようになるが、麗香と心実は変わらず二人で過ごす。心実はリンゴの絵を完成させ、次にクラゲの絵を描き始める。ある日、心実が突然麗香に対して「もうここに来ないで」と叫び、教室を飛び出してしまう。麗香は心実が何故そんなことを言ったのか理解できず、悩む。

 麗香は心実との仲直りを試みるため、手紙を書くことを決意する。文具店で手紙を選び、心実への思いを込めて手紙を書く。翌朝、麗香はその手紙を心実の下駄箱に入れる。

 主人公の麗香は、心実に渡した手紙の返事が来ないことに悩んでいる。授業中も心ここにあらずで、心実のことばかり考えている。ある日、クラスメートの朝倉くんが心実との関係について嫌味を言い、麗香は怒りを抑えきれず教室を飛び出す。保健室で冷静さを取り戻した麗香は、心実にもう一度手紙を書くことを決意する。

 次の日、心実からの返事を期待して下駄箱を開けるが、手紙は返されていなかった。心実が手紙を受け取ったことに喜び、教室に急ぐが、心実は麗香を避け続ける。空き教室に行っても心実の姿はなく、彼女の使っていた道具も片付けられていた。最終的に、心実からの「ごめんなさい」という手紙を受け取り、麗香は心実との関係が終わったことを悟る。

 麗香は社会人になり、営業部で働いている。仕事に追われる日々の中で、心実との再会を果たす。心実は麗香に個展のフライヤーを渡し、個展に来てほしいと頼む。麗香は心実の言葉に従い、自分の好きな格好で個展に向かう。

 個展の会場で、心実は麗香に過去のことを謝罪し、絵を描くことで自分と向き合い、成長したことを語る。麗香もまた、自分の感情に正直になることの大切さを再認識する。二人は涙を流しながら、心実の絵を見て回り、過去の思い出を語り合う。心実の絵に込められた思いを感じ取り、麗香は心実との絆を再確認する。


 三幕八場の構成で書かれている。

 一幕一場 状況の説明、はじまり

 主人公の麗香と心実は、空き教室で心実の絵を見ながら過ごす。心実の絵は虹色を基調とした独特なもので、麗香はその絵が大好き。クラスメイトの花村さんは心実を批判し、麗香に心実と仲良くする理由を尋ねるが、麗香は冷静に対応する。

 二場目的の説明

 クラスメイトたちは心実を無視し、麗香に対しても冷ややかな態度を取るが、麗香と心実は変わらず二人で過ごす。心実はリンゴの絵を完成させ、次にクラゲの絵を描き始める。ある日、心実が突然麗香に対して「もうここに来ないで」と叫び、教室を飛び出してしまう。麗香は心実との仲直りを試みるため、手紙を書くことを決意する。

 二幕三場 最初の課題

 麗香は心実に渡した手紙の返事が来ないことに悩んでいる。授業中も心ここにあらずで、心実のことばかり考えている。クラスメートの朝倉くんが心実との関係について嫌味を言い、麗香は怒りを抑えきれず教室を飛び出す。

 四場 重い課題

 保健室で冷静さを取り戻した麗香は、心実にもう一度手紙を書くことを決意する。次の日、心実からの返事を期待して下駄箱を開けるが、手紙は返されていなかった。心実が手紙を受け取ったことに喜び、教室に急ぐが、心実は麗香を避け続ける。

 五場 状況の再整備、転換点

 空き教室に行っても心実の姿はなく、彼女の使っていた道具も片付けられていた。最終的に、心実からの「ごめんなさい」という手紙を受け取り、麗香は心実との関係が終わったことを悟る。

 六場 最大の課題

 麗香は社会人になり、営業部で働いている。仕事に追われる日々の中で、心実との再会を果たす。心実は麗香に個展のフライヤーを渡し、個展に来てほしいと頼む。

 三幕七場 最後の課題、ドンデン返し

 個展の会場で、心実は麗香に過去のことを謝罪し、絵を描くことで自分と向き合い、成長したことを語る。麗香もまた、自分の感情に正直になることの大切さを再認識する。

 八場 結末、エピローグ

 二人は涙を流しながら、心実の絵を見て回り、過去の思い出を語り合う。心実の絵に込められた思いを感じ取り、麗香は心実との絆を再確認する。


 虹色の謎と主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。

 主人公の気になる会話から書き出しからはじまる。

 遠景で「あれ、今回は虹色じゃないんだ」、近景でキャンパスに書かれた黄色を示し、心実は雰囲気を変えようと葉っぱを赤やオレンジに塗っていく。心情で、「心実の絵は現実の色を使わない」と語って、彼女がどんな色使いをしているのかを語っていく。

 現実の色を使わないとは、写実的な色味を使わない、ということなのだとわかる。

 心実は前衛的なのだ。


 身なりに無頓着。

「癖のついた髪質、整えていない眉、目が小さく見えてしまう眼鏡」

 主人公は、彼女が興味を持てば話題にし、一緒に髪型を整えたりきれいに着飾ったりするだろう。


 他の人とは違う感性を持つ心実には興味が惹かれる。

「彼女が興味を持たない限り、私から話題に上げることはしない。そう決めていた。絵を描いている時の彼女の瞳を見れば分かる。私がコスメ売り場にいる時と同じ瞳をしているから。心実にとって今は何よりも絵を描くことが楽しいんだ。その輝く瞳に、私が邪魔をしてはいけない。しかし、心実の夢中な姿を知っているのはこの学校で私だけ」

 主人公もまた、彼女に興味を持ち、大事にしているのがわかる。


 でも他の女子は、自分磨きをし、怠るものを悪とする。

 クラスの花村さんに、コスメを一緒に買いに行きたいと誘われるも断ると、「神崎さんは、なんであの子と仲良くしてるの?」と聞かれる。

 主人公はそれを聞いて、『あんな子と仲良くするなんて馬鹿みたい』と受け取り、静かな怒りを感じ、日誌を職員室へと持っていく。

「名前を知っていてもまるで伏せ字のようにそう言い放った彼女。私が仲良くするのは心実しかいない。だから言わなくても伝わりはするけれど、名前すら出さないなんて」

 主人公は怒っていた。

 たしかに、なぜ主人公は心実と一緒にいるのだろう。

 

 翌日、主人公は偽善者だと言われているのを耳にし、花村さんのせいだと思う。数日でクラスは変わり、「心実を居ないものとして過ごす人が増え、逆に私に声をかける人が増えた。それに、時間が経てば経つほど、心実を除いた仲間意識が作られていく」とある。

 主人公と心実を引き裂くための工作かしらん。

 それから季節が変わり、虹色のクラゲを描いているときに「もうここに来ないで!」「私に、関わらないで!」と、心実に言われてしまう。

 そして、「あの日から心実とは一度も話せていない」と二人は仲違いしてしまう。

 いったいどうしてだろう。クラスの雰囲気が悪くなり、孤立してしまったからかもしれない。気になってしまう。

 

 文房具屋で手紙を探す主人公。半年前、誕生日に心実がくれたのは「緑の封筒と私が好きなブランドのコスメ」だった。

「前に欲しいって言ってた気がしたんだけど、お店行ったら似てるのいくつもあって、違いあんまわかんなくて」と、買ってきてくれたのだ。

 そのとき「手紙は想いが伝わりやすいから、話すのが得意じゃない私には合ってるなって」と話していたことを思い出し、主人公も手紙を書き「私はずっと心実の友達でいたいです」と伝える。

 でも、二週間たっても返事が来ない。

 そこに登場する朝倉くん。

 心実と一緒にいないことに、「いや、さすがに偽善者はもう終わりかぁってね」と言い出す。

「ほら、麗香ちゃん可愛いからさ、なんかあの子が近くにいると、んーなんて言うかな、バランスが合わない? みたいな。麗香ちゃんの株を下げんなよなぁ」「それこそこの前さ、同じクラスの平田とこの話してたんだけど、やっぱあいつも同じ事思ってたみたいで超話盛り上がって。したら、運悪くあの子に聞かれたんだよ。あん時の顔まぁじでおもろかったわ。顔面蒼白、みたいな? 最高だったわ。麗香ちゃんにも見せてあげ、って、どうしたの? 麗香ちゃん?」

 こういう男子がいるのだろうか、と考えてみる。女子っぽいのだけれども、わざわざ言ってくる男子もいるのだろう、きっと。いや、いた気がする。


 保健室へ行くとき、「いや、逃げたんじゃないな。戦ったんだ、私は。変えられない教室の空気と、ただ受け流す事しか出来なかった過去の自分と、戦ったんだ。逃げたのは、集団という安全地帯で、心実を馬鹿にしたあいつらの方だ」と思っているところが、勇ましい。戦略的撤退みたいな。

 心実に手紙を書いて渡す以外、これまでは、表立ってなにも意思表示をしてこなかった。

 隠れてコソコソしているようで、主人公にとって逃げだった。

 でも今回、彼女は教室で目立つ行動をした。つまり、自分の意思表示。だから逃げではないのだ。

「もう私に会いたくなかったら、この手紙を私の下駄箱に入れて」

 返事を返さなくても、相手の気持ちがわかるやり方。

 賢いと思った。

 手紙は返されず、でもいつもの空き教室に彼女の姿も、イーゼルもない。一週間後、手紙は返され、ノートの切れ端に心実の字で「ごめんなさい」と書かれた紙切れを見つけ、二人の関係が終わった。

「ごめんね、心実」

 主人公は、手遅れな言葉をつぶやく。

 実に悲しい。


 長い文。基本は五行くらいで改行。句読点を用いた一文は、長くない。短文と長文を組み合わせてテンポよくし、感情を揺さぶってくるところもある。ときに口語的。シンプルで読みやすい。感情の描写が丁寧で、登場人物の内面がよく伝わる。繊細で感情豊かな描写が特徴。内面的な葛藤や感情の動きを丁寧に描写され、感情の動きがリアルに描かれているところがいい。

 心実の絵の描写が非常に詳細で、色彩豊かなイメージが浮かぶ。視覚的な楽しさがある。

 心理描写が豊富で、読者に共感を呼び起こす。対話の中でキャラクターの性格や関係性が浮き彫りになるように書かれており、友情のテーマが中心に据えられているのも特徴。

  両者の友情が中心に描かれており、両キャラクターが過去の誤解を乗り越え、成長する姿が描かれた心温まるストーリーなのが、本作の良さでありウリでもある。

 色彩や音、感触などの五感を使った描写が豊富で、情景が鮮明に浮かび上がる。

 視覚は、心実の絵を描く姿や、色鮮やかな水彩画の描写。教室や空き教室の風景、心実の使っていた道具が片付けられている様子。

クラスメイトの表情や態度、心実の絵の進行状況、個展の会場での色鮮やかな絵や、心実の変わらない面影なども視覚的に描かれている。

 聴覚は、実が絵を描く際の筆の音や、教室でのヒソヒソ話や、朝倉くんの嫌味な声。心実の叫び声などが描写されている。自転車のカラカラとした音や、文具店の鐘の音、心実の優しい声や、個展の会場での人々のざわめきなども聴覚的に描かれている。

 触覚は、自転車を漕ぐ際の感触や風の冷たさ、手紙を書く際のペンの感触などが描写されている。心実の肩を抱きしめるシーンや、手紙や制服のスカートを握りしめる感触、涙を拭うハンカチや、心実の手を握る感触なども触覚的に描かれている。

 嗅覚は、教室内の空気や、リニューアルされた第二食堂のカフェの雰囲気など、嗅覚的に描かれている。

 味覚は少ないが、心実の絵に描かれたリンゴの美味しそうな様子などが間接的に味覚を刺激する描写として存在している。また、食堂でのペペロンチーノの味や昼食の味が思い出せない描写がある。


 主人公の弱みとして、心実との友情を守りたいが、クラスメイトからの圧力に対して無力感を感じる。

 自己評価の低さもあり、周囲の評価や反応に過度に影響され、自分を見失いがち。 怒りや悲しみなどの感情をうまくコントロールできず、行動に影響を与えることもある。

 花村さんとの対応から、はじまったのかもしれない。

 

 大人になった主人公は、個人経営のクリエイターさんにイベントやポップアップストアなどの企画・運営を行う代理店会社の営業部に所属している。

 大人びた感じが現れた書き方がされていて、これまでの高校生とはちがうことが明らかに伝わる。

  

「会社の一階。最近リニューアルされてカフェのような雰囲気になった第二食堂は、女性社員でいっぱいだった」

 第二があるということは、第一がある。

 よほど大きな会社なのかしらん。


 食事の時の会話が現実味を感じる。

「会社の人の噂話や上司の愚痴」はいい気はしないけれども、気になる話なので出てくる。

 打ち合わせの男の話題で、イケメンかどうかを見ているところがいい。顔、身長といった容姿を気にするのは、この年代なら当然でてくる。身長の話題も、背の低い人としては、長身がいると一度は自分から出してくる。

 いくつになっても、話題はさほど変わらない。


「本当はそうしたい。私服を着て、しっかりメイクもして、出来る限りお洒落したい。しかし、心の奥底にあるその思いは、何十倍もの恐怖心で埋もれていく。また私の容姿で誰かを傷付けたら、そんな風に思うと怖くてしょうがないんだ」

 心実のことがあって、卑屈になってしまっているのがわかる。


 心実と再会する主人公。個人経営のクリエイターさんにイベントやポップアップストアなどの企画・運営を行う代理店会社に勤め、心実が絵を描き続けていたら、出会う可能性は低いだろうけれどもあるだろう。

 予測の範囲内ではあるが、「茶髪をハーフアップにし、瞬きする度にオレンジのアイシャドウがキラキラと光る。花柄のワンピースに身を包んだ姿は、別人のようで、でも確かな面影があった」と高校時代とは変わって、メイクもして、おしゃれな感じになっている。

 この展開は驚く。

 大人になれば化粧くらいするかもしれないけれども、数年の空白からの変化、しかも突然の再会。主人公の驚きが伝わってくる。


 出会って謝る心実。随分と時間がかかったけれど、ようやくいえただろう。

「遅くなってごめんね」

「謝ってばっかりじゃん」

「そうだね、本当にごめん」

 主人公からすると、あのときの手紙といっしょにあったノートの切れ端の「ごめん」のことをいっているのだろう。

 

 個展に誘われ「もちろん行くけど」けど、なんだろう。

「けど、まだ肝心の答えは聞けてない」

 主人公としては、高校時代のあのとき、一体どうして距離を取ったのか。その理由を知りたいのだ。


「彼女は最後に、『その日、麗香の好きな格好で来てね。それがドレスコードってことで』と付け足し『またね』と手を振った」

 おしゃれしてきてね、といったのだ。

 高校時代の、絵に夢中になっていたころの心実とは、変わった感じがする。

 変わっていなかったのは、主人公だけかもしれない。


「クローゼットの奥にしまい込んだ洋服。そこから茶色いチェックのスカートとピンク色の薄手のニットを取り出す。買ったまま開けていなかったコスメを開けて、シェーディングやハイライトまでしっかりメイクをした」

 普段使わないだけで、持っている。

「久々で少し手は鈍っていたけれど、それでも高校生の時に練習した量は裏切らない。かなり納得のいく仕上がりになった」

 大学時代はメイクしなかったのかしらん。

 

 七年ぶりのチャットに、「好きな! 格好だからね! 自分に嘘ついたら入れないよ〜」ときて、「もう嘘はやめるよ」と返す。

 メイクしておしゃれしたかったのを、ずっと我慢していたのだ。


「会場に足を踏み入れると、そこは色鮮やかな心実の世界観がたっぷりと詰め込まれていた。あの頃と同じ。でも、あの頃より遥かに成長していた彼女の絵に、多くの人が目を奪われている」

 個展の規模、どんな絵が飾られていて、どれほどの客がいるのか、もう少し具体的に書いてほしいと思った。

 主人公は代理店に努めているので、チラシを見て会場の規模は把握できているだろう。

 心実は、「規模は小さい」といっているけど、どれくらいの小ささかわからない。

 十畳くらいの場所に展示しているなら、十人も入れば多いといえるだろう。キャンパスの大きさや、どんな題材を描いているのか。

「目の前に飾られた虹色の桜の絵」あと、虹色のクラゲが飾られているのはわかる。


「私のせいで麗香を悪く言われるのが嫌で、卒業して悪く言う人達がいなくなってからまた一緒にいられたらって思ってた。でも、卒業式の日、私麗香に声もかけられなかった。結局自分の為だったんだよ。麗香といたらまた比べられるかもって怯えてた。本当、最悪だよ私」 

 あのときはそうだったんだ、ということが次から次に出てくる。

「それまでは麗香がいないのに独りで書くのはつまらなくて描いてなかったんだけどね」

「久しぶりに絵に触れて、高校生の時描いた絵なんかも見返して、純粋に絵を楽しんでいた時の感情を思い出したんだ。その時自分が絵に込めたものや、伝えたかった事を」

「絵を描いていると、自分と向き合える気がするの。だから、こうして個展を開くってなった時に、今の私ならきっと麗香に声をかけれると思った。絵を描く中で、周りに流されない自分の核みたいなものを見つけられたから。随分遅くなっちゃったけど、でも、今の私で麗香に会えて、良かったと思ってる」

 二人に距離ができてしまったあと、心実が絵を描いているときの気持ちはよくわかる。

 本作は全体的に見て内面、心情描写が多いので、ラストの再会の場面も、心実が一方的に話している感じがする。

 高校時代から主人公は、心実が興味を持たない限り、自分から話題に上げることはしないと決めているので。受け身のスタイルで再会したときも話をしている。

 だから、深い対話にならない。でも心実と麗香の対話がもう少し深く描かれると、二人の関係性がより立体的になる気がする。

「二人して泣きながら、心実の絵を見て回った。その時の状況や思った事なんかを、空白の時間を埋めるように語り合いながら。心実が私の事を知ろうと自分磨きを始めた事や、一度私宛の手紙を書いたけれど送らなかった事。過去の思い出を心実は楽しそうに話していた」

 この部分を冗長的にならないよう、軽く触れる程度でもいいので描いて欲しいと思った。


 ラストの「何色でも、クラゲはクラゲでしょ?」といって、二人して見る二匹のクラゲがうまくまとまっていて、オチとしてすばらしい。


 読後。タイトルを読んで、キャンパスに描かれた絵と、それを見ている二人の姿が浮かんでくる。最後に誤解が解け、友情が再生するところに感動を覚える。

 心実の絵の描写がきれいで、読んでいて楽しい。決まりきった色ではなく自由な色彩をするところに、面白さと楽しさがある。非常に共感した。

 また、登場人物の感情がリアルに描かれていて、こういうことあるよねと思い出してしまった。

 高校編で二人の関係が終わったとき、このあとどうなるのか、続きが非常に気になった。だから、再会して、仲直りできたのが本当に良かった。大人になったときの描き方も、大人らしさを感じられた。読後が素晴らしい。本当によかった。



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