本の神様

本の神様

作者 功琉偉 つばさ

https://kakuyomu.jp/works/16818093081197756232


 県立南高校の図書局員である日下部黎と桜川愛菜、その仲間たちによる図書活動の日々。図書研究会の討論会や蔵書点検、図書局の存続をかけて新入部員を勧誘、友人たちと博物館に行くなどのエピソードを通じて、友情や恋愛が芽生えていく話。


 三点リーダーはふたマス云々は気にしない。

 現代ドラマ。

 五感を使った描写がよく、本の神様というテーマがユニークで、物語に深みを与えているところがいい。


 主人公は南高校の一年生、日下部黎。一人称、僕で書かれた文体。途中、桜川愛菜。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話と、それぞれの人物の思いを知りながらも結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道で書かれている。 

 高校一年生の日下部黎は、静かな図書室で本を読むのが好きな少年。彼は図書室で過ごす時間を大切にしており、他の生徒たちとあまり交流しない。冬のある日、桜川愛菜という少女が図書室で彼に話しかけ、二人は本を通じて親しくなる。愛菜はバスケ部の部員だったが、怪我でバスケができなくなり、心の支えを本に見つける。二人は図書室で一緒に過ごす時間を楽しみ、次第にお互いの存在が大切なものとなっていく。黎は図書研究会の準備を進める中で、愛菜の存在が彼の生活に大きな影響を与えていることに気づく。

 日下部黎は、他校の図書局員が集まる研究会で司会を務めることになり、緊張しながらも発表を進行する。討論会では北高校の森林太郎と友達になり、ジュール・ヴェルヌやH・G・ウェルズのSF小説について語り合う。研究会が終わった後、黎は新しい友達と本について語り合うことを楽しみにする。

 その後、定期テストが近づき、黎は友達と一緒に図書室で勉強。特に化学が得意な黎は、友達に中和滴定の方法を教える。テスト期間中、紅茶を淹れたり、雨宮さんが焼いたクッキーを食べたりしながら、勉強に励んでいく。

 テスト当日、猛吹雪の中で学校に向かい、寒さに苦しみながらもテストを乗り越える。テスト後、黎と友達は図書室で紅茶を飲みながら、次のテストに向けての意気込みを語り合う。

 高校の図書局員である黎と仲間たちは、春休みに蔵書点検という大変な作業に追われる。蔵書点検は、図書室にある本がなくなっていないか、コンピュータに登録されているかを確認する作業で、約二〇八〇〇冊の本を手作業でバーコードを読み取る必要がある。作業の合間に友達とハンバーガー屋に行ったり、博物館に行ったりする。博物館では源氏物語展を見学し、カフェで楽しい時間を過ごす。

 新学期が始まり、クラス発表が行われる。黎は理系のクラスに進み、桜川さんと同じクラスになる。新入生の勧誘も行われ、図書局には三人の新入部員が入る。新入部員たちと本の話をしながら、図書局の活動が続く。

 黎は桜川さんとの会話の中で、本の神様の存在を思い出す。本の神様は、すべての本に宿っていて、読者を助けてくれる存在だという。桜川さんも本の神様を知っていることが分かり、二人の絆が深まる。最後に、桜川さんが主人公に告白し、二人は付き合うことになる。


 三幕八場の構成

 一幕一場 状況の説明、はじまり

 高校一年生の日下部黎は、静かな図書室で本を読むのが好きな少年。彼は図書室で過ごす時間を大切にしており、他の生徒たちとあまり交流しない。

 二場 目的の説明

 ある日、桜川愛菜という少女が図書室で彼に話しかけ、二人は本を通じて親しくなる。愛菜はバスケ部の部員だったが、怪我でバスケができなくなり、心の支えを本に見つける。二人は図書室で一緒に過ごす時間を楽しみ、次第にお互いの存在が大切なものとなっていく。

 二幕三場 最初の課題

 黎は図書研究会の準備を進める中で、愛菜の存在が彼の生活に大きな影響を与えていることに気づく。日下部黎は、他校の図書局員が集まる研究会で司会を務めることになり、緊張しながらも発表を進行する。

 四場 重い課題

 討論会では北高校の森林太郎と友達になり、ジュール・ヴェルヌやH・G・ウェルズのSF小説について語り合う。研究会が終わった後、黎は新しい友達と本について語り合うことを楽しみにする。

 五場 状況の再整備、転換点

 定期テストが近づき、黎は友達と一緒に図書室で勉強。特に化学が得意な黎は、友達に中和滴定の方法を教える。テスト期間中、紅茶を淹れたり、雨宮さんが焼いたクッキーを食べたりしながら、勉強に励んでいく。

 六場 最大の課題

 テスト当日、猛吹雪の中で学校に向かい、寒さに苦しみながらもテストを乗り越える。テスト後、黎と友達は図書室で紅茶を飲みながら、次のテストに向けての意気込みを語り合う。

 三幕七場 最後の課題、ドンデン返し

 高校の図書局員である黎と仲間たちは、春休みに蔵書点検という大変な作業に追われる。蔵書点検は、図書室にある本がなくなっていないか、コンピュータに登録されているかを確認する作業で、約二〇八〇〇冊の本を手作業でバーコードを読み取る必要がある。作業の合間に友達とハンバーガー屋に行ったり、博物館に行ったりする。博物館では源氏物語展を見学し、カフェで楽しい時間を過ごす。

 八場 結末、エピローグ

 新学期が始まり、クラス発表が行われる。黎は理系のクラスに進み、桜川さんと同じクラスになる。新入生の勧誘も行われ、図書局には三人の新入部員が入る。新入部員たちと本の話をしながら、図書局の活動が続く。黎は桜川さんとの会話の中で、本の神様の存在を思い出す。本の神様は、すべての本に宿っていて、読者を助けてくれる存在だという。桜川さんも本の神様を知っていることが分かり、二人の絆が深まる。最後に、桜川さんが主人公に告白し、二人は付き合うことになる。


 本の神様の謎と、主人公たちに起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。


 導入、本編、結末の順で書かれており、導入では図書室と君と主人公の人生を変えたことについて、詩的に客観的状況を描き、結末も、客観的状況と本の神様についてをまとめている。


 本編の書き出しについて、遠景で「静かな図書室で僕と君は本を読んでる」主人公が誰と、どこでなにをしているのか描き、近景で「今は長い一日が終わろうとしている放課後」と、いつを説明し、心情で「周りの喧騒から抜け出してこの図書室に来た」と語っている。

 主人公は騒がしいのが嫌い、苦手なのだ。

 みんなと一緒なのが嫌いではないが、本のところに逃げてしまうという。一人でいるのが落ち着くのだろう。こういう気持ちはわかる気がするので、共感を抱く。


 本作の導入は、最初に詩的なモノローグから入り、次に現在の図書館の様子を描いた後、桜川愛菜の出会いを描くといった具合に、カメラワークのズームをしていくように、遠いところから順に確信へと迫っていく書き方をしている。

 そのあとで、主人公がどういう人間なのかが語られ、どのような思いで高校を選び、期待を胸に入学するも、みんなはそれほど本が好きではない事実を目の当たりにする。

 本が好きで、高校に素敵な図書室があるから入りたいと勉強を頑張る姿は素晴らしい。高校を選ぶ動機としてはいい思う。

 学ぶ機会を経て、進む道、選択肢も広がるというもの。

 本好きな読者としては、羨ましく思い、共感するだろう。

「だから僕はこうして図書室で、誰も居ない図書室で静かに本を読んでいた」と、図書室にいる状況を説明。

 そのつぎに、主人公に声をかけてきた桜川愛菜の視点で、どういう子で、なぜ図書室へやってきたのかが描かれる。

 新人戦で怪我をしてしまう。アキレス腱なので、治るまで時間がかかる。試合にもでれない。一か月かかって歩けるようになっても運動はできないだろう。その間、部員は練習をしているので、そこに入って動けるようになるには、練習を積む必要がる。だけど、「体育館を見て胸が痛くなった。なんであそこで怪我しちゃったんだろうって」と思ってしまい、気持ちがついていかなくなっている。

 そこに図書局もしていた三年生の元キャプテンが「本でも読んでみたら? 今の愛菜におすすめの本があるの。多分これを読んだら少しは心が軽くなるよ」本を勧められる。

 昔は本が好きで、バスケにハマってからは読まなくなっていたことを思い出し、図書室を訪ねたのだ。

 それぞれの人物がどういう子なのかわかったところで、二人の様子が描かれていく。

 

 長い文。平均的には五行くらいで改行。長い文のかたまりのところもある。推敲や行変えをすれば読みやすくなると考える。

「なんか」「らしい」など、同じ言葉の重複や、「という」「のこと」「のほう」「ような」といった水増し表現が目立つ。文章のなかに同じ言葉を多用すると、読んでいて目が滑りやすく、読みづらさをおぼえるかもしれない。余分だと思う単語は削ると読みやすくなると思う。

 語尾「~た」で終わることが多い。キャラや行事など説明的。誰が話しているのか、わかりにくいところもある。人物描写は少ない。

 書籍の話が多いのは、本作のウリだと思う。。テスト勉強に適した書籍の紹介は役立ちそう。紅茶の作り方が詳しい。

 本の神様のくだりは唐突な感じ、まとめようとしているような印象がある。もう少し前に触れていても良いのではと考える。

 会話文は間には、話している人や状況の描写などを地の文を挟めばいいと考える。


 女子組はファンタジーや恋愛ものの話をしていた。

 井上さんは『ハリーポッター』や『モモ』などの王道ファンタジーが好きらしく、ハリーポッターグッツをたくさん身に着けている。

 樋口さんはイメージどおり、『たけくらべ』を書いた樋口一葉の小説が好きらしい。

 一度は読んでおきたいけど、僕はどうしても読む気になれない。文語体はやっぱり疲れる。宮沢賢治くらいがちょうどいい。『銀河鉄道の夜』に空白があるのがもったいないと思ながらも、作品の一つだからと思い、昔読んだことを思いだす。

 こうして、波乱万丈となる予定だった新入生の入部は、何事もなく終わった。


「ねえ、知ってる? 本の神様の力は、読まれれば読まれるほど強くなるんだよ。だからといって、まだ読まれていない新しい本の力が弱いってわけでもない。作者、読む人、贈る人の想いでも強くなるの」

 あの人は、小さく微笑んだ。

「私はね、本の神様が見えるんだ。嘘じゃないよ。そしてね、たくさん大事にされてきた本は、その本の持ち主がピンチのときに助けてくれるんだ。何回かしか見たことがないけどね、その本の神様がパァって出てきて、私達に力をくれるんだ」


 そのとき僕は、初めて知った。

 すべての本にいる、とても強く、優しい神様なんだと。

 このとき確かに助けられた。つぎにペットが死んだとき。大好きだった先輩が卒業してしまうとき。そして、南高校を受験しようと決めて、勉強が苦しくて挫けそうになったとき。

 何度も、たくさんの本が力をくれた。

『どんな困難があったとしても勇気があれば乗り越えられる』

『この世のことは大抵なんとかなるものだ』

 たった十六年だが、色々な言葉を胸に僕は、世界を必死に生きてきた。


 句読点を用いた一文はやや長め。読点のない長い一文もたまにある。落ち着きの重々しさ、弱さ、説明といったことを表現していると考える。短文と長文の組み合わせでテンポよく、感情を揺さぶるところがある。

 ときどき口語的。シンプルで読みやすい。登場人物の内面描写が豊富。一人称視点で、日下部黎と桜川愛菜の内面や感情が詳細に描かれている。会話が多く、日常の細かな描写が多く、登場人物の心情やキャラクター同士の関係性が自然に描かれているのが特徴。

 主人公たちの内面の変化や成長が丁寧に描かれている。キャラクター描写**: 主人公や友人たちの個性がよく描かれている。キャラクター描写**: 登場人物の個性がしっかりと描かれており、共感しやすい。

 孤独、友情、成長がテーマが扱われ、学校生活や友人関係の描写がリアルで、読者が共感しやすい。「本の神様」というユニークなテーマが物語に深みを与えている。

 紅茶の香りや図書室の静けさなど、五感に訴える描写が豊富。図書室の匂いや音、温度などが詳細に描かれており、情景を感じさせている。

 視覚は、少し暗い電気、少し日焼けした本、少し硬いコーティングされた表紙、夕焼けに照らされて少し赤みを帯びた君の顔、図書室の混雑、紅茶の色、フェノールフタレインの色の変化、雪景色、図書室の本棚やバーコードリーダーの光景、博物館での源氏物語絵巻の展示、桜が満開の川や春の夕日、図書室や博物館、カフェなど。

 触覚は、触れていないのに、離れているのに微かに感じる君の暖かさ、本の質感、本のページをめくる感触、触り心地、手袋の温かさ、カフェでの食事の感触、紅茶の熱さ、雪の冷たさ、バーコードリーダーを操作する感触などの描写がある。

 聴覚は、微かにこだまする紙をめくる音、微かに聞こえる君の呼吸、少し聞こえる廊下の音、発表の声、討論会の会話、紅茶を淹れる音、風の音、図書局員たちの会話やバーコードリーダーの音、博物館での静かな雰囲気、カフェでのガールズトークや注文のやり取り、会話や環境音の描写があり臨場感がある。

 嗅覚は、少しかび臭い紙の匂い、微かに香る暖かい君の匂い、図書室の本の匂い、 紅茶の香り、クッキーの焼ける香り、カフェでの食事やケーキの香り、食事シーンでの香りの描写が少ない。

 味覚は、紅茶の味、クッキーの味、ハンバーガー屋での食事の味、カフェでのケーキや飲み物の味、食事シーンでの味の描写がもう少し欲しい。

 五感を通じて情景やキャラクターの感情が豊かに描かれている


 主人公の弱みとして、黎の弱みは人付き合いが苦手で、本の世界に逃げ込む傾向がある。

 人前で話すことに対する緊張や不安が描かれており、積極的に行動するのが苦手。自分に自信が持てない部分があり、自分の価値を低く見積もりがち。

 愛菜の弱みは、怪我によるバスケの挫折と、それによる心の空虚感。それを埋めるきっかけとなったのが本である。


 図書室でテスト勉強をしているとき、ハンバーガー屋の場面、会話文が並んでいるところがある。会話文の間に動きを示すような地の文を挟むと、状況が浮かびやすくなり、テンポも良くなるのではと考える。

 場所の描写について、大きな言葉で書かれている。hんバーガー屋にしろ、カフェにしろ、博物館にしろ、具体的にどういう場所に主人公たちがいるのか、読者にどう想像してほしいのか描いて欲しい。

 その場所にいって、会話して出ていくだけではなく、具体的な描写を補足するといいのではと考える。

 

 ラスト部分にある、本の神様についての話はいい。

「そんなに自分を責めなくていいんだよ。別に一生会えないわけではないでしょ。じゃあ好きな本を読んで、思いっきり泣いて、そしてその引っ越しちゃった子にまた会おうねって笑って話せるようなになっちゃえばいいんだよ。そうすればいつかその子に会ったときに楽しい気持ちで会えるでしょ。君が今持っている本。その本は大事にされたんだね。その本はきっと君を助けてくれる。だから信じて。本の神様を信じで身を委ねていいんだよ」

 本の力を借りて、訓練するようなもの。

 別れが悲しくて、でもうまく伝えられなくて困っていたなら、物語で別れの疑似体験をする。今度会うときは笑って話せるようになろうとするときも、物語の力を借りる。

 物語の力を借りなくとも、たとえば自分が悪いことをしてしまい、謝ることが出来ない。そんなときは、心の中で「ごめん」という。そうすることで、次に会ったときに謝ることができる。その訓練を、本という物語の力を借りて、乗り越え成長する方法を、お姉さんは教えてくれたのだ。

 物語に限らず、知識や格言、言葉など、様々な本が、力を貸してくれる。

 そんな本の魅力を伝えてくれている、とってもいい場面である。

 いいのだけれども、突然はじまった感じがする。物語全体的に絡めて主人公の成長過程をもう少し明確に描くと、物語に深みが増すかもしれない。本の神様の話を知っているから、たとえテスト勉強のときに的確な書籍の紹介ができたのだろう。そこに繋がっていく。本から力を得ていく、そういう場面が物語に挟まれていると、本の神様のエピソードがさらに生きてくるのではと考える。

 あのお姉さんは何だったのだろう。

 図書司書だったかもしれない。よくわからない。

 主人公の内面が詳細に描かれている点が魅力なのだけれども、他のキャラクターも、背景や内面をもう少し掘り下げると、読み応えのある作品になりそう。

 

 読後。タイトルにあった『本の神様』というテーマが新鮮で、読後感がよかった。図書室の情景が豊かで、主人公と彼女、他校の図書局員が集まる研究会も感心する。本を通して心を通わしたり、紅茶を淹れるシーンや図書室での勉強シーンなど、読んでいて楽しい部分もあった。日常の細かな描写が多く、学校生活のリアリティが感じられる点も良かった。

 全体的に面白そうなお話。

 もう少しテンポよく展開されると更に楽しめるだろう。



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