最終話 三人の旅は続く

 無事に渡し船に乗船できたナオキたち勇者一行。雲一つない青空の下、遠ざかっていくリバーゲートの街を、アラゴは甲板の上でぼんやりと眺めている。


「ア・ラ・ゴ!」


 元気な女性の声に振り向くと、リズがニコニコ顔で立っていた。


「リズ、いつも元気。アラゴ、嬉しい」


 アラゴも笑顔を返した。


「アラゴも元気を取り戻してくれて良かったですわ」

「リズとナオキ、アラゴ、綺麗、言ってくれた。満足」

「そっか。ナオキ様と抱き締め合ってたしね」

「! リズ、見てた……あうぅ……」

「ふふふっ」


 顔を真っ赤にして照れるアラゴと、それを見て優しく微笑むリズ。


「リズ」

「はい」

「リズ、もっと素直になる」

「???」


 アラゴの言っている意味が分からないリズ。


「リズ、ナオキのこと、好き」

「! な、なにを言ってるのかしら!?」

「アラゴ、わかる」


 焦るリズの顔も真っ赤だった。


「アラゴ、ふたり、応援する」


 優しく微笑むアラゴ。


「……アラゴもナオキ様のこと、好きですわよね?」

「アラゴ、オーガ(鬼)、バケモノ。リズ、美人、優しい」

「私が優しい? 私はナオキ様を襲う聖女ですわよ?」


 アラゴは首を左右に振った。


「リズ、本当はとても、とても、優しい」

「でも、性欲が常時活火山の聖女は、真面目なナオキ様とは不釣り合いですわ」

「リズ、うそつき。照れ隠し、ダメ。だから、素直に。もっと、素直に。ふたり、お似合い」


 頭を抱えるリズ。そして、顔を上げた。


「アラゴはもっと自信をお持ちなさい。ナオキ様は、アラゴをひとりの優しい女の子として見ていますわ」

「あうぅ……」

「わたくしもナオキ様に振り向いてもらえるように頑張りますわ。だから、アラゴもナオキ様を好きな気持ちを自分で無かったことにしないでくださいませ」


 アラゴは小さく頷いた。


「わたくしたちは恋のライバルですわね。お手柔らかにお願いしますわ」

「リズ、やっぱり、優しい。リズ、大好き」


 船の甲板の上で抱き締め合うふたり。

 ハッとするリズ。


「そうですわ! いいことを思いつきましたわ!」

「あう?」

「アラゴ、ちょっと耳を貸してくださいな」

「あぅ……」


 身体を屈めたアラゴに、何やら耳打ちするリズ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 船室でベッドに腰掛けて武具を磨いているナオキ。

 隣国への到着までには、まだまだ時間がかかる。この時間を利用して、武具をメンテナンスしていた。


 コン コン


「はい、どうぞ」


 ノックされた扉がゆっくり開く。

 アラゴとリズだった。


「どうぞ入って。ふたりしてどうしたの? 何かあった?」


 ナオキの顔をじっと見つめて、ゴクリとツバを飲み込むアラゴ。

 そして、彼女は言った。


「ナオキ、しよう」


 船室の空気が凍りつく。

 船の波を切り裂く音が妙に大きく響いた。


「……はっ?」

しよう」


 アラゴはもう一度言った。


「……アラゴ」

「あう」

「正直に言えよ」

「あう」

って言葉の意味、分かってる?」


 首を左右に振るアラゴ。


「そんな言葉、誰から教わったの? まぁ、大体分かるけど……」

「東方の国の言葉、ナオキ、すごく喜ぶ、リズ、言ってた」


 ゆっくりとリズへ視線を向けるナオキ。

 リズは速攻で目をそらした。

 そんなリズに、ナオキはにっこり微笑んだ。


「リズ」

「は、はい……」

「リズはしたいんだね」


 ナオキの笑顔に、リズも嬉しさを爆発させる。


「はい! ナオキ様だけのハーレムですわ! さぁ、目眩めくるめく快楽の輪廻りんねへ飛び込んで、ぐるぐる廻っちゃいましょう!」


 ナオキに向かって嬉しそうに両腕を広げるリズ。

 アラゴは意味が分からず、キョトンとしている。


「リズ」

「はい!」

「お前は旅の仲間から追放だ」

「へ?」

「アラゴ、ふたりで魔王討伐を頑張ろうな」

「あうぅ……」


 ナオキは武具のメンテナンスを再開した。

 オロオロするアラゴ。

 慌ててナオキにすがりつくリズ。


「つ、追放なんてされたら、チートが目覚めて無自覚に無双してしまいますわ! 最強の素手ゴロ聖女、爆誕ですわ!」


 リズはパニックになって意味の分からないことを口走っている。


「まだ強くなるんかい……んじゃ、ひとりで魔王倒してこい。俺とアラゴは帰る。アラゴ、楽しく観光しながら帰ろうな」

「あぅぅ……」

「わ、私も一緒に帰りますわ! 世界平和よりふたりの方が大切ですわ! 置いて行かないでくださいまし! ナオキ様〜」


 必死ですがり付いてくるリズの様子に思わず吹き出すナオキ。アラゴもそれにつられてくすくすと笑い出した。


 チートのない勇者、最強の聖女、優しき鬼女を乗せた渡し船は、一路隣国へ向けて航路を進んでいく。


 どこか不釣り合いでデコボコ、でもしっかりと絆が結ばれた三人の魔王討伐の旅は、まだまだ続くのであった。






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 続編『勇者と聖女と鬼女 ふたたび』絶賛公開中です!

 本作はアラゴがメインでしたが、『ふたたび』はリズがメインとなっております。

 ちょっとお調子者の聖女・リズ、そしてナオキとアラゴが皆様のお越しを心よりお待ちしております。

https://kakuyomu.jp/works/16818093082490529967



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勇者と聖女と鬼女 下東 良雄 @Helianthus

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