追憶

松松

追憶

猛スピードで駆け抜ける。私にはあとどれだけの時間があるのだろう。考えるまもなく夜がくる。失ったものはどれくらいなのかなんてもうわからない。残された記憶を数えてみる。なんだ。もう後ひとつしかないのか。



私は古びた椅子に座って、ただじーっと。そのことだけを考えた。白いワンピースに麦わら帽子で長い髪を風に靡かせながらそっと僕に微笑む君に恋に落ちた8月の海辺。ギターを買ってほとんど流行りの曲と変わんないんだけど、これは自分で作った曲なんだと威張る僕を、それを知らない君はすごいすごいって褒めてくれた。よく二人で行った川辺で話す時に、いつも座ってた石の形、今もまだ覚えてる。場所はロマンティックではなかったけど、シルバーの小さな指輪を君に見せたとき、すごく喜んでた。地元の小綺麗な教会で、永遠の愛を誓った後、白いヴェールを捲り君にキスをした時、人生で一番幸せだった。娘ができて、名前は。えーっと。運動会。入学式。卒業式。行った、と思う。味噌汁と卵焼き。君の作ったものだけはどれだけ食べても飽きることはなかった。いつもそばにいていつも支えてくれていた。それが君だった。あれ。でもいつまで一緒にいたんだろう。もうこれ以上は思い出すことはできなかった。




介護士さんか、知り合いなのか、よくわからない女性に呼ばれて部屋を出た。どうやらご飯の時間が来たらしい。そこには私の大好きな味噌汁と卵焼きがあった。




眩しかった思い出は今もどこかで輝いている。深い海の底か。遠い地平線の果てか。


君の色が淡くなる。落とさないように落とさないようにと思い出のかけらを集め続ける。




なんだか眠たくなってきて、目を閉じた。


やがて夜が来て朝になる。さて今日私に残された記憶は何個だろう。




ああ。忘れてる。

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追憶 松松 @ammm_1001

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