灰を被った娘


 昔々、あるところに美しく優しい娘がおりました。


幼い頃に母親を亡くした娘は、父親が再婚した継母とその連れ子である2人の姉に召使いのように扱われていました。


そんな辛い日々の中でも、母が亡くなる前に言い残した「正しいことをすれば報われ、間違えたことをすれば必ず裁きを受ける」という言葉を信じて生きてきました。


そのため、いつか神様が自分を救い出してくれる日が来ると信じてやまないのでした。


そのためにも頑張って生きなければと考えており、義母と義姉が舞踏会へ出かけている間も、娘はせっせと家事をしておりました。


しかし神さまは娘に優しくありませんでした。


ある日、娘の父親が自宅で急死してしまいました。


本来ならば警察が来て事件となるはずですが、全く来る気配がありませんでした。

娘は悲しみの余り泣いておりましたが、義母と義姉はその様なそぶりを見せず、そのまま外へと出かけてしまいました。


父親の葬儀はひっそりと済まされ、遺体は共同墓に埋められました。


父親がいなくなったある日の晩、娘は知ってしまいました。


父親は遺産目当てで義母と義姉に殺害されたことを。


それを聞いた娘は、自らの手で義母と義姉を裁くことを決意しました。

「間違えたことをすれば必ず裁きを受ける」はずなのに、法も警察も裁いてくれないからです。


義母と義姉が留守の間、娘は家に油を染み込ませ、その日の晩、義母と義姉が寝ている間に家に火をつけました。

煙突からは焼ける匂いと沢山の悲鳴が聞こえてきましたが、出てくることができない様、扉や窓あらかじめ細工したからです。

こうして閉じ込めたまま焼き殺しましたのでした。



娘は黄燐の炎を目に焼き付け、笑っておりました。



次の日、性別の判断がつかない焼死体が三人分発見されました。

ですが出火場所が家からだったため、警察はすぐに義母と義姉達だと捜査しました。

そこで唯一、その場にいなかった少女が犯人と疑われ、警察署へ連行されました。


「義母と義姉は悪いことをしたから裁いたの」


娘は当たり前の様に言いました。


質問されると娘は、自分が行ったことを丁寧に話し始めると同時に警察官達は絶句しました


そしてあまりの残酷さから娘の死刑が宣告されました。


ですが娘は泣くことも抵抗もせず、ただ静かに時が経つのを待っておりました 。

その姿を見て、刑務官達は気味悪がりました。


質問しても「自分は『正しいこと』をしたが、同時に『悪いこと』もしたから、何も怖くないの」と言って微笑んでおりました。

悪魔と罵られようが、少女にとってどうでも良かったのです。


そして彼女が処刑台に上がる時が来ました。

頭を押さえつけられ逃げることもできない中、少女は何を思ったのでしょう。


鈍い音と共に、民衆の足元に落ちてきた顔は満面の笑みを浮かべておりました。

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童話アレンジ集 @Tomoe_Yukio

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