第3話 描けない
私は十二月、15ページを2本描いて送った。そしてその内の1本が最終選考に残った。
年が明け、1月に送ったものは選外になった。担当さんは、次からはネーム(絵コンテ)の段階で送ってくれと言った。
なんか本格的になってきたような……。
いやしかし、いけるんだろうか?
この俺が。
こんな俺が、漫画家になれるんだろうか?
正直言って、自信はなかった。そんな夢のようなことが起こり得るんだろうか? と思っていた。
しかし、やるしかなかった。やるしかないはずなのに、私は描けなくなった。
プレッシャーが大きくなっていた。そもそも対人恐怖なので、編集さんとしゃべるのも正直苦痛だった。毎回、ひどい緊張に襲われた。
練習だからと思い、とにかく何でもいいから描いてるのとはわけが違った。
いいものを描かなきゃいけなかった。そうでないと、わざわざ電話してくれる担当さんに申し訳がなかった。
しかし、いいアイデアは浮かばなかった。
今思い出しても、明らかに実力不足だった。いや、だからこそ描くしかなかったのに、描けなかった。
別に漫画で大儲けしようなんて考えてなかった。
貧乏でもいいからとにかく漫画で食って行きたかった。家で一人で出来る仕事は他に考えられなかった。
漫画が駄目なら死ぬしかない。本気でそう思っていた。だからとにかく、賞が欲しかった。そして本に載って欲しかった。最終選考までじゃどうにもならないんだ。
そのまま半年ほど過ぎ、次に描いたのは三年の夏休みだった。
私は無い知恵を振り絞り、これまで以上に全力を込めて描いた。そして絵はともかく、内容的には結構納得できる物が出来上がった。
これがダメならもう終わりだろうと思った。
そして送ったものの、担当さんから連絡はなかった。
今思えばこっちから連絡するのがスジだったような気もします。(当時の私にそんなこと出来るはずもなかったけど)
……ていうか俺、ネームで送ってくれって言われたはずなのに、ネーム送ってなかった気がする。
ちょっと記憶が曖昧だけど、多分あれだ。打ち合わせする勇気がなかったんだ。対人恐怖がアレすぎて。
何にしろ私は投稿先を変えようと思った。そもそもメジャー過ぎる雑誌だったし。そもそも無理なんだわ、ここじゃ。と思った。
数か月たって、先の雑誌の結果発表を見ていると、私の名前があった。夏に送ったヤツがなぜか2か月ほど遅れて最終選考に残っていた。
どういう事だろう? 担当さんからは連絡がないままだし……。
しかし何にしろ最終選考じゃ意味がない。今すぐ結果が欲しいのだ。でなきゃ死ぬしかなくなるんだ。
そう思った私はやはり投稿先を変えることにした。他誌に2回ほど投稿したけど、やっぱり没に終わった。
大学三年の十二月になっていた。
人間になれなかった みち道 @shirohevi
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