第2話 電話
大学が終わる時が本当のタイムリミットだった。今度は現実逃避してもどうにもならない。この四年間で漫画を当てなければ今度こそ死ぬしかない。
高校の時もそんなふうに思ってたけど、今度は本当に切実だった。今度こそ逃げ場はない。私はこの4年間、漫画を描きまくろうと思っていた。
そして一年が終わり、春休みになった。
この10カ月で描いたのは、ほんの数ページ、それも下書きだけだった。
私の命はあと3年になってしまった。
これではいけないと思い、気を入れ直して一年の終わりの春休みから、猛烈に描き出した。下手な絵を描き続けるのは辛いけど、修行なんだと言い聞かせて必死に描いていた。
そして大学ニ年の夏ごろからまた投稿を始めた。とにかく下手でも何でもいいから毎月一本送ることにした。結果は当然、選外の連続だった。それでも私は描き続けた。今年一年は修行の年で、来年が勝負だと思って描きまくった。
何か月か経った大学二年の十一月終わり頃、一本の電話がかかってきた。その日は家に私しかいなかったので、私が電話に出た。
電話の主は東京の出版社の人間だと名乗った。
某漫画雑誌の編集さんだった。
私は驚いた。そして足が震えた。信じられないことが起こっていた。
編集さんは言った。
「なんか引っ掛かったんだよねー」
私の漫画は没の中から拾われたらしい。
編集さんは、センスがいいと誉めてくれた。しかし「絵はいただけないなー」とも言っていた。
私は物凄く緊張したまま数分間、編集さんと話をし、次からはその編集さん宛に送ってくれと言われ、電話を終えた。
夢のような出来事だった。
実際そんな夢を何度か見たこともあった。しかし本当にこんなことが起こるとは、信じられなかった。
生きていけるかも知れない。そう思った。
真っ暗闇の中にほんの少し、本当にほんの少しだけ、光が差してきた。そんな感じだった。
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