最終話 【持たざる者】、英雄になる②

 王城の敷地外に出ると、道の両脇にはセイファードの住民たちが列をなして俺たちを待っていた。


「アスト様ぁぁ、素敵ぃぃー!」


「街を守ってくれてありがとーっ!」


「握手してぇぇぇぇ!!」


「す、すごい人ですね……」


 道の遙か先まで列ができている。


「みんな、アストくんを見に来たんだね……」


「ここまでとはな……」


 少し前は、セイファードを退学となり、失意のどん底でこの道を通ったのに。


 なんの因果か、セイファードの教師となり、さらには王から勲章をもらったうえ、たくさんの住民に歓迎されるようになるとは。


「……セイファードを退学になったときには、こんなふうになるとは思わなかったな」


 あのとき、俺を出迎えたのはゴロツキしかいなかった。


 あまりの落差で、感慨深い。


「ふふ、ぜんぶアストくんの頑張りのおかげだね」


「あたしも、宝箱のふたを開けてくれたのが、ご主人さまでよかったです……。ほこらしい気持ちです……」


「ふたりとも……」


 ……よし。


「王命だしな、ひととおり回ってくるか」


「うんっ!」


「行きましょう、ご主人さま!!」


 俺たちが街を回ると、黄色い歓声があたりから巻き起こった。


 手をふると、さらに大きい声が返ってくる。


「すごい人気だね……」


 声を上げているのは若い女性が多いが、老若男女関係なく通りに集まっているようだ。


「せーのっ、アストさーんっ、こっち向いてーっ!!」


「かっこいいー!」


 手を振ってこたえていく。


「それにしても、なんで俺が城にいたことを知ってるんだ……?」


「王さまがお知らせしたんでしょうか……?」


 そう考えていると。


「大陸ギルド新聞号外! 号外だよ!」


「ん?」


 見知った顔が新聞を配っていた。


「ラビィじゃないか」


 そこには、大陸ギルド新聞のうさ耳記者・ラビィがいた。


「やあ、アスト、久しぶりだね」


「何を配っているんだ?」


「ふふ、これさ」


 そう言ってラビィは一枚の紙を手渡す。


『邪龍退治の英雄アスト、無事退院! 王城からの招待に応じる!』


「ラビィにしてはシンプルな見出しだな」


「ふふ、もはやきみは有名人だ。余計なあおりなどなくても、ひとはきみのことを知りたがる。勲章のことを書けば、さらに新聞は売れていくだろうね」


「ご主人さまもすっかり重要人物ですね……」


「ううむ……」


 常に注目されていると思うと、急に恥ずかしくなるな……。


「さ、もう行きたまえ。みんなのアスト様をぼくが独占するわけにはいかない。そうそう、余計なお世話を言わせてもらうと、きみの故郷であるニライカナイは新聞の配達対象外地域だ。旅人経由で情報が伝わる可能性もあるが、一度報告のため帰ってもいいんじゃないか?」


「そうだな……。ありがとう、ラビィ」


「礼を言うのはぼくたち新聞社の方さ。これからも活躍を期待しているよ」


「ああ」


 ふたたびセイファードの住民たちに手を振って回る。


 歓声を浴びながら、俺は考える。


 そもそも俺がこうして名声を得ることができたのは、なけなしのお金を集めてセイファードに送り出してくれた村のみんなのおかげだ。


 それに、1年間落第に近い成績だった俺をはげましてくれたオリヴィア。


 様々な困難をともにしたミミコ。


【持たざる者】と呼ばれるスキルを持つ俺だが、本当にまわりの人間には恵まれたと思う。


「アストくん、ほら、小さい女の子が手を振ってるよ」


「ご主人さまがギルドであしらったSランク冒険者の方もいます!」


 もうすぐ街も一回りできる。


 そうしたら王城に戻り、今日の晩餐ばんさんを王とともにする必要がある。


 しばらくはこのような忙しい日々が続くのかもしれない。


 でも。


 ――セイファードの課程が一段落したら、故郷に帰りたい。何か、お土産をもって。


 そして、みんなに伝えたい。


 精いっぱいの感謝の言葉を。



【了】


 ============


 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 キリのよいタイミングですので、ここで完結とさせていただきます。


 しばらくほかの方の作品などを読みながら、次回作について考えさせていただきます。

(今回は王道ど真ん中のイメージでしたので、能力なりシチュエーションなりをひねったものを考えたいです。)


 最後に、星やハートで応援してくださいました皆さま、ありがとうございます。

 また、コメントをくださった皆さまもありがとうございます。


 書き続ける勇気をいただけました。

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スキル【持たざる者】の俺、無能ではなく素手なら最強でした 渡良瀬遊 @yu_watarase

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