Page9.追いかけっこしましょ




 トーミュを食べた後、妖精が持ってきたカラードロップティアを食べた。妖精達が果物を持ってきてくれるのはすごく珍しいので素直に嬉しい。だって、自分の大好物を分けてくれるといっているようなものだから。

 カラードロップティアは、色が多いからカラーが付いているだけだ。普段はドロップティアというだけで通じる。だから、カラーなんて付けずに、最初からドロップティアという名前で良かったんじゃないかと思う時がある。だけどこの世界の全ての名前はさ、神って役割の人が直接決めてるから文句が言えない。話したことがあるけど、あの人のことだから面白そうって理由で名前をつけていそうだ。それだったらもうしょうがないとしか言えない。

 そういえば、妖精達が持ってきてくれたドロップティアはもちろん美味しかった。口に入れた時に弾けて、甘みが広がる。それと同時に程よい酸味も広がって、バランスもちょうどいい。香りもいいから味もものすごく濃く感じる。

 ごちそうさまでした。


 ふう、よく食べた。やっぱり野菜と果物っていいよね。さっぱりいけるから。


 たくさん食べたあとは当然眠くなる。だけどここで寝たらセトラに怒られる。

 うっかり寝たりしないように、少し運動がしたい。だが…ただ動かすだけだとつまらない。めんどくさい。楽しくない。どうせなら楽しく運動して目を覚ましたい。面白くないのは楽しくないから嫌だ。

 こういうのを人はわがままと言うのだろうが、別に言うだけならいいだろう。楽しくない、面白くないものはやる気なんて出ないだろう。そこは共感してほしいところだ。


「セラ〜、追いかけっこするのだ!」


「遊ぼう!」「もちろん最初はセラが追いかける方。」


 そんなことを考えていた時、、三人が追いかけっこに誘ってきた。三人の後ろからレイファが追いかけているところを見ると、きっと彼女も誘われてやることにしたのだろう。

 せっかく動きたいと思っていたところだ。さっそくやろうか。

 俺はすぐに返事をした。立ち上がって、ローブの裾を上げて動きやすくして、やる準備万端にしてから。


「わかった。俺が追いかける側ね。どんな手を使ってでも全力で追いかけるから。」


「それはちょっとずるいんだよ!」「セラに魔法を使われたら終わり。」


 ひどい言われようだ。俺が魔法を使うと大惨事になると思われているようだ。もちろんそんなことは絶対にしない。本当に遠慮せずにやればそうなるかもしれないが、流石にただの追いかけっこでそこまではしない。


「大丈夫、安心して。死ぬような魔法は絶対に使わないから。」


「そう言われても全然安心できないのだ。」

 

 大丈夫って言ったんだけど…ものすごく警戒されている。確かに楽しくなって使うことがあるかもしれないけれども。


「それは当然じゃろう。前に遊んだ時に、ムカついて闇球を飛ばしてきたり、不可視の斬撃を放ったりしてきた癖に。」


 ………。レイファがぼそっと言ったことは、聞かなかったことにした。



 ◆◆◆◆



「じゃあ10000000まで数えたら始めるね〜。」


「長すぎるわ!第一流石にそれはおかしいじゃろう!」


「そうかな。10000000くらい寝てればあっというまにすぎるものだと思うけど…。」


「11日以上寝ることなんてエルフでもそんなにないじゃろう!今セラは人間なのだぞ。そんなに数えておったら倒れてしまうんじゃ!」


 そうか。うっかり昔の感覚で言ってしまっていた。11日くらい、昔はあっという間に過ぎてたし、生きた年数に比べたらまつ毛一本と同じくらい微々たるものだから…そんなに長いって感じがしない。あとは今は人間って言っても1日くらいならあっという間にすぎるし…。


「レイファ、歳を取らなくなったのに人間というのも違うと思う。俺はもう昔とも人間とも違うから。」


「そうか…じゃが、もう少し常識的な時間感覚を覚えるんじゃな。」


「まあ…頑張るよ。そういえば妹にも言われたな…。その狂った時間感覚を直せって。俺にとってはこれが正常なんだけど。」


 狂ってる狂ってる言われてれば、この感覚なのは俺だけなのかと気づく。流石にさ。だけど、どう変えればいいか、どう直せばいいかは全くわからない。昔から自分の感覚が正常だと思っていたから。


「まあ…まあ?いいじゃろう。とりあえず今度、一気に直そうとしてみるかの…。と、とりあえず20数えてから行けばいいのじゃ。」


「えっ、そうなの?」


 たったそれだけしか数えなくていいのか?そう思った。そんなに短い時間だと、瞬きしている間に終わってしまうからだ。


「それだけでいいんじゃ。セラにとってはすごく短いぐらいが丁度いいのじゃ。」


「そっか。わかった。じゃあ数えるからレイファも逃げてね。レイファだけは本気で追いかけるから。」


「なんでじゃ!」


 思いっきりツッコミを返された。頭を軽く叩かれそうな勢いだった。


「えっ…だって俺、レイファは全力でやらないといまだに勝てないよ。両者互角ならお互い全力かお互い少し手を抜くしかないよね。でもそれなら、全力でやった方が楽しいでしょ?」


「そうじゃが…全力でやったら当たりが更地になってしまう…。それはセラも困るじゃろう?」


 痛いところを突かれた。そこに気づかれてしまっては全力で楽しむことは難しそうだ。


「じゃあ、レイファに追いつけるように頑張るね。なるべくお互い魔法は使わないってことで。」


「了解じゃ。」


 レイファの姿がすぐに消えた。移動しただけなのに顔に勢いよく風があたる。


「じゃあ、1、2、3、4、5、6、7、8、……_


               16、17、18、19、20!じゃあ行くよ〜。」


 俺は走り出した。きっと遠くまで逃げているだろうが、一応近くも索敵してそこにいないかを確認していく。うっかり見逃してしまうことがないように割ときっちりやっていく。



 木の影、草の中、木の上…それと空中。近くにはいなさそうだ。


「もう少し離れたところに向かってみようかな〜。」


 一応大きめの声で言っておく。近くにいればそれを聞いて移動するだろうし、遠くで聞き取ったら何か対策をしてくるはずだから。それをみるのも楽しいし、うっかり魔法を使わないために必要なことだから。




 走って、屋敷の目の前の庭までやってきた。庭が広いせいで、移動するのにもかなりの時間がかかった。屋敷の目の前は、景観がよくなるようにすっきりさせている。そのため木や大きな植物が少なく、隠れたり潜んだりする場所も比例して少なくなる。


「おっ…珍しい。地面に穴を掘って隠れてるなんて。あとでちゃんと埋めてもらわないと。」


 地面に穴を掘って隠れている誰かを見つけた。だが、肝心の穴が見つからない。地面にいるのがわかっても、入る場所がないと捕まえることができない。


 穴をどうやって隠しているのか…それがわからないと…ああ!!


「もう、めんどくさい。穴なんてもういらない。最初からこっちが穴を開けてしまえばいい!!」


ードゴォォォォン


 大きな音が響いて、地面に大穴があいた。穴を開けるときにでた土は壁に圧縮して押し込んでいる。だから、壁が崩れて埋まってしまうことはない。


「うわぁ!!見つかったのだ!パパ様がきたのだ!」


 隠れていたのはノノだった。ノノだったのはいいが…


「かくれんぼじゃないよ!ノノ。これは追いかけっこだよ!」


「隠れちゃいけないというルールはないから問題ないのだ!逃げるのだ!」

 

 ノノの姿は土煙のせいでまだ見えない。だが、そこで手をブンブン振って大きな声で叫んでいるのはよくわかる。土煙が晴れる前に、ノノは穴の入り口の方へ逃げていった。


「よし!捕まえちゃうよ〜。」


 俺も、ノノが掘った穴の中に飛び込んで追いかける。

 穴の中は、かなり狭かった。それはそうだと思う。これはノノが掘ったノノサイズの穴なのだから。だけど、狭いと思うだけで通ることができてしまう俺は、かなり背が低いのだと思う。狭くても通れるのはなんか嫌だったので、穴の直径を広くしながら進んでいいく。


 穴の入り口は、最初に追いかけっこを始めた場所にあった。周りを少し探していれば見つけられた場所にあったのだ。


「入り口…そんなところにあったんだ。悔しいな。」


 追いかけっこを始めてからここまで約10分。まだ一人も捕まえることはできていない。このままじゃ誰も捕まえることができない。ノノも、ミズもヒナも捕まえることができない。


「魔法は、最低限なら使ってもいいんだったよね?確か。」


 ポツリと呟いた言葉は、きっとレイファが聞いたら不穏でしかないだろう。流石にそれくらいはわかる。同じ言葉で同じことを言われ続けていたのだから。


「まあ、魔法で罠を仕掛けるのは、まだ感知の仕方教えてないからダメだけど…分身と、土人形くらいは別にいいよね?よし使わせてもらおう。」


 俺は自分の分身と、土魔法で人形を作成した。その数10体。これでもかなりギリギリになると思う。でも大丈夫。


「徐々に追い詰めていくからね。ノノ、ミズとヒナ、レイファを見つけたら追いかけてできる限り捕まえようとしてね。じゃあよろしく。」


 作った人形と分身がバラバラに散らばって、逃げている四人…を探し始めた。


「絶対に夜食までに全員捕まえるよ。」





 

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