Page8.昼食は植物を見ながら




 俺は昼になる前に、普段は隠している場所から見えている色とりどりの庭に戻ってきた。

 こっちの庭は、見た目だけが綺麗なわけじゃない。ちゃんと中身も綺麗なものが多い。例えば食べたものの病気を治してくれたり、呪いを解いてくれたり。ものによっては寿命が伸びたりもする。まあ歳を取らなくなった俺や、そもそも死ぬことがないと思われるレイファにセトラに子供達にはただの美味しい果物なんだけど。


 あとは、なんで昼まで隠している場所にいなかったのか…か。

 それは簡単だ。ずっと知られていない場所にいたら、何をしたのか聞かれた時に何も言うことができなくなってしまうから。


 とは言ってもまだ昼にしては早いから先に妖精さんの様子を見に行こうか。それで向かっている途中ついでみたいな感じでルルムの様子も見ておこう。もし全部食べ終えてたらセトラの方に行ってもらおう。妖精がルルムを見て怖がっちゃう。理由は多分…あの子が冥界の番犬だからかな。住んでる世界が元々違っているから。それに魔力の質の違いもあるし。


 

 すぐ近くで逃げ出した野菜を任せてたルルムのところにやってきた。やってきたと言っても少し走っただけだ。


 さっきまであれだけいたリクマンロッソや他の植物たちは全ていなくなっていて、植物が動き回っていたところには青々した芝が広がっていた。

 どうやらルルムは芝生の間から生えていた雑草も一緒に食べてくれたらしい。青色の中から覗く黄色やピンク、紫などの色が全て消えていた。


「「「ヴォフ!!」」」


 いつの間にかすぐ横にルルムがいた。俺の何倍も大きいのに足音がほとんどしないのってすごいなと思う。吠えかけられるまで気づかないからかなりびっくりする。


「ルルム!!いたんだ…気づかなかったよ。

 それにリクマンロッソたちを食べてくれてありがとう。一度逃げ出したのはなるべく早く食べないといけないからさ、最近食べきれなくなってきて困ってたんだ。」


「「「フゥ〜ヴ…」」」


「なんで…そんなさ、呆れたようなため息っぽい鳴き声を出すの?」


 もしかして「消費のことを考えずに好き勝手植えてるから…」とか思われているのだろうか…。そう考えたらそんなふうに言われているようにしか聞こえなくなってきた。なんか悲しい。俺は犬にすら(ケルベロス)呆れられてるのかって…。


「「「ワフー!!」」」


「うわっ!っと…突然どうしたの?」


 ルルムが俺のローブのフードの部分を口で掴んで、持ち上げた。首周りを大きめに作っておいて良かったなと思った。もし小さかったら首が締まって息ができなくなるところだったから。


「ちょっと!?投げるの?本当に投げるのってうわぁ!!」


 ルルムが俺の体を軽々と宙へ放り投げた。くるくると回転しながら綺麗な曲線を描き、俺はルルムの背中に着地した。

 着地したとき、太ももで着地したからそこに衝撃がいって結構痛い。だけど床で同じことをやった時よりは痛くなかったし柔らかかったかな。ルルムの毛はモッフモフだから。


「えっそっち?妖精さんにこれから会いに行くんだけど……あ…あ〜…」


 ルルムがセトラたちがいる場所に向かおうとしていたところを、これから妖精たちに会いに行くからと進む方向を変えてもらおうとした。

 ーその時に俺は気づいた。妖精たちが今日いる場所と、セトラとミズにヒナ、ノノがいる場所がほとんど同じ場所だと言うことを。妖精たちには自分で、セトラたちと同じ果物が多く植えてある場所を担当してもらいたいと頼んでいたことを。


「……ルルムはそれを全部理解した上でセトラたちのところに行こうとしてたんだね。」


「「「ワフッ!!」」」


 ルルムはもしかしたら、こういう時俺よりもしっかりしているかもしれない。いや…絶対に俺よりしっかりしているだろう。


「ルルムはすごいね。連れて行ってくれるつもりなら、セトラのところまで連れて行ってほしいな。よろしく。」


 俺はルルムに頼んで、彼の体に身を預ける。力を抜いてパタっと倒れ込んだ途端、もふもふで柔らかい毛が俺を受け止めてくれる。長い間日光に当たってた布団みたいな毛だ。その毛の中でふわっと香る獣臭もルルムって感じがしてすごくいい。

 ルルムはさっきまでイライラしてストレスを溜めてた俺の体を癒してくれる癒し犬だ。普段は番犬だけど、こういう時は癒してくれるのはありがたい。


 ポカポカとあたたかい毛に包まれていると、あっという間に、瞬きを十回するくらいの間に眠ってしまいそうだ。今ももう意識が少しずつ遠くなっていって……___



 ◆◆◆◆



「マスター起きてください。きっと数分しか寝ていないと思いますがここで起こさないとずっと寝続けていそうなのでとりあえず起きてください。」


「セラ起きて。」

「起きるんだよ。ほら、わたしがちゃんとピコの代わりの果物を食べたことを確認しないと。確認してくれないと困るから。」


「パパ様起きるのだ。起きないと昼食を一緒に食べられないのだ。」


 そんな声が聞こえて俺は目を覚ます。朝みたいにずっとうだうだしたりはしない。

 だってする前にきっと…


「さあルルム様。とりあえずマスターを地面に落としてください。」


 セトラが俺を地面に落とそうとするから。ルルムは彼女が指示を出すと、ほとんどの場合言われたことをきっちりとやる。


「…ぁ…ふべっ!」


 だから俺は地面にべっと落とされた。痛くないように滑らせて下すのではなく、容赦なく体を傾け受け身を取らないと痛いくらいの勢いで落とす。


「ついたかな?………うん、おはよう。」


「おはようではありませんよマスター。もうすぐ昼です。」


「そうだったねぇ…。」


 フラフラよろつきながらも立ち上がる。ルルムの毛が恋しい。


「昼食の準備をしないとだよね…。」


「そうですね。そろそろレイファ様も呼びましょう。」


「じゃあみんなで昼食の準備をするよ。」


 昼食の準備といっても、午前のうちに収穫した野菜や木になっている果物をカゴに入れるだけなんだけどね。

 いい感じに野菜や果物を盛り付けしているときに、妖精達が戻ってきた。妖精達は光でわかりやすいため、すぐに気づくことができる。


「あっ、妖精達もお疲れ様。この感じだとたくさん実ってたのかな?」


ービシッ!


 妖精は手を握って親指だけを伸ばして上に上げる。

 たくさん実っていたらしい。ところどころ落ち込んでいる妖精もいることからうっかり食べ過ぎてしまったのだとわかる。


「たくさん食べたことは気にしなくていいよ。最近食べきれなくなってきて困ってるからいつでも食べていいよ。」


 そういっておこうと思う。食べきれなくなっているのは事実だし、いつでも食べていいのは本当のことだから。

 それに、妖精達は遠慮しすぎだと思う。もっとバクバクガンガンいっちゃっていいのに。


「マスター。昼食の準備が終わりました。」


「あっ、本当?じゃあ朝みたいに挨拶はしないから好きに野菜と果物をとっていこうか。どちらもたくさんあるからなくなることを気にしなくていいからね。」


「わかった!ヒナ、ノノ行こう!」「わかった。ミズ…、わたしはカラードロップティアが食べたい。」

「わかったのだ!」


 あっという間に子供達は走って行ってしまった。スピードを結構出してるから元気だなって思う。

 

 よし。俺も何か食べようか。

 セトラがカゴの中に入れておいてくれた野菜の中の一つ、トーミュをとって齧り付く。


 中からプチプチとした種子と、ツルッとした汁が溢れ出てくる。俺の両手に収まりきらないくらい大きいから食べ応えも抜群だ。

 俺はトーミュ結構好きなんだけど、子供達はあまり好きではないらしい。なんか種子のプチプチ感が好きではないのだとか。そこがトーミュの魅力で、トーミュが美味しいと感じるポイントだと思うけど。


 

 トーミュを食べ終わった後、ぐるりと周りを見渡した。

 外でこうやって何かを食べたりするのはお花見みたいだなと思った。だけど、先に手に持っていたトーミュに夢中になっていたから、景色よりトーミュである。花より団子と同じだ。




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