Page7.綺麗な植物には毒がある
「皆さん遅かったですね。」
セトラが外に出てきていた。もう家の中でやることは終わったのだろうか。
「うん。遅くなってごめんね。ルルムを連れてくる時に色々あってね。」
俺はセトラと、途中から向こうに来てくれたノノとレイファにも何があったのかを説明した。
「つまりルルムが構ってほしくてマスターの時間を奪っていたと。そういうことと受け取って構いませんかルルム?」
「ヴァフッ!?キュンクゥ〜ン…クゥ〜ン。」
ルルムは驚いたあと、三つある首をそれぞれ動かして横に振った。全力で否定している。
当然否定するはずだ。
だって否定しないとルルムが・半殺しになっちゃうから。いくら体が大きくて頑丈でもそれは外側だけだしね。
「ルルムあなたは否定していますが本当に時間を奪っていたわけではないのですか?本当ですか?」
「本当だから。俺もミズもヒナも遊んだし、ルルムのわがままでそうなったわけじゃないから。」
「………そうですか。マスターも楽しんでいたならよかったです。もし今回のことがルルムのわがままだった場合ちょっとお話し合いをしようと思ったので…本・当・に・よかったです。」
セトラが鋭い視線でルルムを睨んだ。
少し威圧もしているみたいでルルムがびびっている……ビビってるのはセトラの手に持っているもの…。
危なかった。セトラは自分の手にナイフと毒薬を持っていた。
手に持っていた毒薬はセトラがうちに暮らすようになってすぐの時に作ってくれないかと頼まれたものだった。
護身用と言っていたからかなり強いものを作ったのを覚えている。即効性があって飲んでも刺しても効果がある危険物。
多分レイファにも短い時間なら効果があると思う。まあすぐに解毒すると思うけど。
もし俺が否定していなかったらそんな危険なものを使おうとしていたのか。
ルルム大丈夫だった?怖くなかった?
俺はチラリと横目でルルムの方を見る。
ルルムの顔色はわからなかったけど、多分真っ青だろう。今の感想はただの想像でしかない。
実際は見えないしわからない。だけどルルムの尻尾は足の内側にしまわれてるし、セトラに睨まれている正面の頭以外の頭は彼女から目を逸らしている。
こころなしか前足もカクカク震えているようにも見える…気がする。
怖かったんだね。
俺はそっとルルムの体をもふもふした。
◆◆◆◆
「じゃあルルム。今日庭で走り回ってる植物たちが多すぎるからちょっと食べてほしいんだ。逃げ出してるのは毒草以外の食べられるものが多いから。
数が結構多いけどいけそう?」
「「ワフッ!」」「ヴォフ」
なんで一つの頭だけ返事が遅れたんだろう。
俺はそう思った。だってルルムは三つの頭を持っているけど意識は三つではないのだから。
三つの頭全てがルルムだ。もし意識が頭ごとバラバラだったら頭一つ一つに名前をつけないといけなかった。
「じゃあ俺たちも飛び回ったり動き回ったり悪戯してきたりする植物を捕まえながらいつも通り収穫したりしていこう。
もちろん全部をみんなでできるわけないから庭に住んでる妖精にも手伝ってもらうよ。
じゃあ今日はカラードロッティアのあたりとその周辺を適当によろしくね。もちろん落ちちゃったやつとか気に入ったやつがあったら食べてもいいから。」
ービシッ!!
妖精さんは喋らない。まだ声を出すところが作られてないから。
もっと大きくなって成長して強くなって精霊になってさらに成長すれば話せるようになるらしいけど、俺はそこまで成長した妖精を見たことがない。もしかしたら俺に突然会いにきた精霊が、前に仲が良かった妖精なのかもしれない。
ーぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろ……
カラードロップティアは小さな木の実だ。そして、妖精たちの大好物でもある。
今日はたくさんの妖精がいつもよりやる気を出してくれるみたいだ。
だけど…こんなにいたなんて俺は知らない。
数年ここに住んだだけなら数十匹くらいしか住み着かないと思ってたのにぞろぞろぞろぞろどんどん出てくる。木の中から、地面の中から、仲間の服の中から、俺の頭から。
俺の頭から。小さいけどひょっこり顔を出した後、頼んだところに向かっていった。全然気づかなかったよ。
「じゃあ俺たちもやっていこうか。いつも通り休憩はお昼で。
食べられる植物が多いところは毎回だけどミズとヒナ、ノノに任せよう。ヒナは朝ピコを食べてないから果物一つ食べてね。」
「「わかったんだよ。」」「了解なのだ。」
「見張りはセトラで。」
「「「うん…。」」」
なんでそこで落ち込むのか。三人の安全のために言ってるだけなんだけど。
だってもし勝手に木登りして落ちたりとか、地面に穴ほって埋まったりとかしたら困るし。
「ルルムはさっき言った通り逃げ出した植物を食べちゃってほしい。」
「「「ワフッ!」」」
「レイファは…植物なら大体OKだから適当によろしく。」
「なんでわしだけ適当なんじゃ…。」
「だって何があっても平気でしょ。毒持ちの植物が紛れ込んでても、意思を持った植物が勝手に暴れても。」
「…そうなんじゃがもう少し扱いの改善を…「じゃあよろしく。」話を聞かんか…はぁ。」
植物関係はレイファにならなんでも任せられる。レイファは歩く植物図鑑だからね。彼女自身が植物でもあるし…ある意味。
「俺は実験…研究に使ってる植物植えてるところにいるから何かあったら声かけてね。じゃあ解散!」
全員それぞれ担当する場所に移動していく。
俺がこれから行く場所は自分が個人的に使いたい植物を植えているところ。
もちろん毒があるのも呪われたりするのもある。今の所魔法以外で解除方が見つかってない危険なものとかも。そういうのが薬とかで解除できたりすればいいなって思う。
だからその実験…研究記録とかは書いていくけど、それを親の方に提出しないといけないのはめんどくさいんだよなぁ。やめたいけど、森にひきこもる条件が定期報告だから仕方なくやってるけどさ。
◆◆◆◆
この場所は普段は魔法で鍵をかけている。
子供が勝手に入れないように。
中を覗くことができないように。
だってこんなもの見せちゃいけないと思うんだ。
外から見た時の見た目はものすごく綺麗だけど、実際は全然違う。
綺麗な花には毒があるだっけ。
その言葉通り。
ここにある植物は全部危険なものばかり。
毒があったり、呪いがあったり、使いすぎると死ぬやつだったり。
全部三年前に人を殺そうとして植えたもの。
ずっと人と会わないようにしてきた今でも使いたいと思う時がある。
普段は表に出さないようにしてるけど、ここにはその表に出していないものが詰まってる。
ここでは意識して抑える必要もない。
殺してやりたいという殺意を。
だけど、ただ殺しただけだとあいつと・・・・おんなじだ。
だからやられたらやられた分だけやり返した。
そんなのやっちゃダメなことだと誰かは言った。
そう言った人に聞いた。じゃあ自分がおんなじことをされたらやり返すのかって。
そしたらさ、答えなかったよ。次の日その誰かは大人数・・・で俺を叩いたよ。物理的な方じゃないけど。
大人数じゃないと何もできないのかなって思った。昔から人間ってそうなんだなって。
そうじゃない人もいるけどそれは少数だ。大体はそんなもんだと思う。
数の有利さを利用して一人を一方的に離れたところから叩く。
正面から言ってくる方が珍しくて、大体は噂話みたいに聞こえるけど小声で聞き取りづらい声でわざと言っている。
前はそれほど気にならなかったのになんでここ十数年で気になるようになったんだろうって思った。
そのあとその疑問は解けたけど認めたくないなって思った。
ほとぼりが覚めるまでひきこもることを決めた。
いまだに覚める気配はない。冷めないならもう原因を消せばいいんじゃないかなって思った。
だからこの庭を作った。
消したいという自分勝手な願いから生まれたのがこの庭だ。
…せっかく作ったんだし有効活用した方がいいのかな。
まだ世の中に知れ渡ってない植物なんていくらでもある。それが危険なものだとしても。
それがここにはある。
俺には上手く使うことのできる技術もある。
あとは実行するだけ。
実行すればあっという間に嫌で嫌で殺したくなるようなものは消える。
多分今の俺はものすごくひどい顔をしているだろう。笑っているのに歪んでいて、一言では説明できないと思う。
あはは。こんな顔、子供には絶対に見せたらいけないな。怖がられちゃうよ。
…やっぱり人を殺すのは今じゃないかな。
気が向かなくなった。わけじゃないけど、今やっても意味がないから。
それに、昔は何十万年生きたけど今回はまだ十五年しか生きてないし。まだ人間にもたくさんいる年齢だから。
どうせ実行するなら人とは思えないくらい生きて人間をやめてからかな。
もし今やったら同族殺しとか言ってくる人が絶対いるし。中身は人族じゃないんだけどね。
とりあえずいつも通り水を撒いてから一つ一つ様子を見ていこうか。
そうだ。今日、レイファにもらったピエポジンもここに植えないと。これもだいぶ危険な植物だし。
そんなことを考えながら、ローブにつけている袋にしまっていたピエポジンを取り出す。瓶の中に入っているそれは、入れてからかなり時間が経っているのに萎れていることはない。いつまでも綺麗なままだ。それをそのまま取り出して、空いている土に置く。
「よし、成長促進。これで根は張ったね。早く増殖してほしいな。増えたらたくさん研究ができるしね。」
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