Page6.うちの番犬兼癒し犬
「ルルムー!」「お〜い」
「「「ヴォフ!」」」
元気な鳴き声が聞こえてきて、近くの茂みから大きな影が飛び出してきた。
そして、何も見えなくなった。
見えなくなっただけで、それ以外に何かがあったわけではない。
強いていうなら周りが湿っぽくて少し臭い。こんな感じになるのは…
「ルルム…頭をハモハモするのはやめて。前が見えないから。ちょっと…あ〜…舐めるな舐めるな!」
「セラ大丈夫?」「大丈夫〜?」
周りから見ると、大きな犬に食べられているように見えるのだろう。
ものすごく心配されている。いつものことだから気にしなくていいのに、子供たちはいつも真剣に心配してくれるから嬉しい。
「大丈夫だよ。今から外に出るから。
ほら、ルルム。俺の頭をペッしなさい。食べても美味しくないから。そもそも食べられないから。」
ハモハモするのをやめてもらおうと頼んでみても、ルルムは口の外に出してくれない。
さっきと同じように俺の頭を舐め続けている。
こうやってずっと舐め続けられていると、立っているのが疲れてくる。
ちょっと流石に外に出してほしい。
髪の毛も、ルルムのよだれでベタベタになっている。俺の髪は伸ばしっぱなしだから、流すのが大変だと思う。
今度、髪を濡らさず洗う魔法でも作っておこう。
ルルムに頭をハモハモされることは珍しいことではないし、作ろうと決めた時じゃないと作れないから。
次に作る魔法はこれにしようと決めた。
「ルルム、ちょっと本当に出して…。」
本当に話してくれないから、俺の頭にかぶさっているルルムの頭をググッと上に押す。
ルルムは大きかった。だから、力の違いがありすぎてびくともしなかった。
自分だけだと出ることができない。
そう気づいてしまったから、誰かに頼もうと思う。
誰かって言っても俺と一緒に来たのはミズとヒナだから助けを求めるのはその二人になるけれど。
「ミズ、ヒナ、ちょっとルルムに離してもらうの手伝ってくれない?」
「わかったぅわぁ!」「これはちょっとびっくりなんだよ。」
ミズとヒナに外に出るのを手伝ってもらおうと声をかけたら、そんな二人の声が聞こえた。
「大丈夫?何かあった?」
「ルルムのそれぞれの頭に食べられてるんだよ。」「食べられてるんだよ。ベットベトだよ。」
「今から俺が先に出るからそれまで待ってて。」
明らかに何かがあったような声だったから何があったかを聞こうとする。
ルルムに食べられていたみたいだった。
いつもは俺だけなのになんで今回はミズとヒナまで食べているんだ?俺にはそれが疑問だった。
だからその理由を知らないと。
「ルルム…流石にもう離してくれないか?二人に何があったのか心配だから。そろそろ力づくで手させてもらうからね。」
さっきとは違って自分の肉体を強化してググッと口を開かせようとする。
「って、力強くない?俺結構本気で開けさせようとしてるんだけど…。」
ちょっとショックだった。全身の力で押さえつけられるならともかく、口の力だけで動けなくされるとは思わなかったから。
今まではすぐに抜けられてたから、ルルムが手加減してくれていたのだとよくわかる。
俺の肉体的な強さはお世辞にも強いとは言えないけど、まさかうちの
「ねえ、ルルム…何で離してくれないの?って聞いても俺は答えがわからないか。意思疎通ができれば楽なんだけど、その魔法上手くできないんだよね。」
だけどやるしかないか。
全身の力を使っても抜けられないなら、ちょっと頑張らないと。
「ルルムごめん。ちょっとびっくりするかもしれない。今からルルムの声が俺に聞こえるようにそういう魔法を作るから。」
魔法を作るのはちょっと疲れる。理由は当然そこにないものを作るからだ。
結構これが難しくて、例えるなら材料なしで料理を作れと言われているような感じだ。もしくは一つだけの材料で何かを作れというような感じである。
意思疎通というと、ずっと昔に出会った異世界人が教えてくれた知識。ほんやく?みたいなものを作ろう。
相手の言葉が理解できればあとはすでに作っている魔法でなんとかできるし。
必要魔力量は…うわっめっちゃ多い。結構使わされるな。また今度改良しておかないと。
あとは、相手の言葉を理解しようとする。で、その雰囲気をそのまま一つにまとめる。
『主!おい主!』
「うわぁびっくりした。あーあールルム聞こえてる?」
よかった。作った魔法はちゃんと上手くいったみたいだ。
ちゃんとルルムの声?がはっきり聞こえるし、あと思ったよりかっこいい声だった。見た目から可愛い系だと思ってたんだけど、かっこいい方もこれはこれでいい。
『そんな大声で言わなくても聞こえている!逆にうるさいくらいだ。』
「ごめん。少し声を小さくするよ。で、なんで俺もミズとヒナも離してくれないの?」
これが一番聞きたかったことだ。これがわからないとどうすればいいかがわからないから。
『…もっと主たちに構ってほしかったんだ。』
むふふふふふ。ルルムのやつ、声はかっこいいなと思ったけど話してることは可愛いじゃないか。こんなに可愛いとちょっとイタズラしてみたくなるよ。
「え?ルルム今なんて言ったの?あれー…魔法の不調かな?よく聞こえない。ちょっとまって、今直すから。最悪の場合は魔法をかけ直すから。」
『そうか…今のは聞こえていなかったのか。じゃあこれから言うことも主には聞こえていないのか。
………もっと可愛がってくれてもいいんだ。もふもふ撫でてくれてもいいんだ。あと、屋敷の中で一緒に寝てみたい。』
ルルム…。こっそり聞いたりしてごめん。意地悪せずに直接聞いてあげればよかった。
こっそり聞いているこっちが嬉しくなった。
「あっ、魔法治った。お待たせルルム。」
だけど、こっそり聞いてしまったことに罪悪感を覚えたとしても、俺は絶対に隠し通す。絶対にバレないようにしよう。そうしないと絶対に怒られる。
ルルムとセトラの性格は似ているんだ。いつも怒っているのは雰囲気だけだったルルムが言葉で怒るようになったらどうなるかわからない。
『ああ、戻ってきたのか。主ちゃんと聞こえているか?』
「う…うんちゃんと聞こえてるよ…。またこんなことが起きるかもしれないけど、しばらくは大丈夫。」
『そうか。』
「じゃあ改めて聞くけど、どうやったらルルムは離してくれる?」
俺はさっきまでのことは知らないふりをして尋ねる。今度は直接聞かないといけない。
『主、俺は今日一日構ってほしい。約束してくれるなら主もミズもヒナも離す。』
「……わかった約束。今日一日はいっぱい構ってあげるよ。出してくれたあとは外で一緒に遊ぼうね。」
ーブウォン、フォン
今はルルムの口で俺の頭が包まれてるから見られないけど、大きな尻尾を思いっきり振っていると思う。だって風を切るような音が聞こえてるから。
こっそりルルムの独り言聞いちゃったけど、口の中で言うくらいなら独り言にもなるかな?さっき聞いちゃったお詫びだから。
「いつも家周りに知らない人が近づいてこないようにしてくれてありがとう。」
『ー!!………!$#?』
「うわぁー!」「眩しいんだよ…。」
ルルムが三つある口をガバッと全て開いた。
ずっと暗いところにいたから、太陽の光が少し眩しい。
「ふふ…俺も二人もルルムのよだれでベトベトだね。ルルムも最近お風呂に入ってなかったし今日はここにいるみんなで入ろうか。」
「もちろん入るんだよ!」「うん入る。」
『主嬉しいです!』
ルルムが尻尾をスピードを出しすぎた馬車の車輪のようにグルングルンと回す。
可愛い。
モフってやる。
俺はルルムが何を言っていてもわからないように意思疎通の魔法を使うのをやめる。
俺はルルムの巨体をモフモフと触り始めた。もっこもこでいつも使っている掛け布団よりも気持ちがいい。
「ぼくもルルムをなでる!」「ん。私も。」
三人でルルムを撫でる。モフモフする。
そうやって撫で続けてたらルルムが三つの頭をそれぞれにずいっと押し付けてきた。
「あはは、ルルムったら甘え上手だねぇ。それぞれの頭の好きなところは確か左から顎、耳、ほっぺだったよね。三人でそこを撫でるよ!」
「了解だよ!」「わかった。」
「セラ。遅いから迎えにきたのじゃ。」
「流石に遅いのだ。パパ様もミズもヒナも。」
「あ、ノノ、レイファ。そういえば、最初は動き回るリクマンロッソたちを食べてもらうためにルルムを呼びにきたんだったね。すっかり忘れたたよごめんね。」
ずっと撫で回してたらルルムが溶けた。だからみんなでルルムを囲んで空を見ていた。
ルルムは本当に大きいから、三人が突っ込むと巨大なベットのようだ。もっこもこで気持ちがいい。
流石に時間をかけすぎたからレイファたちが様子を見にきちゃった。
レイファが来たってことは結構長い時間こっちにいたみたい。
「じゃあそろそろ行かないとね。逃げ出したリクマンロッソたちを一つ残さず捕まえないと!」
俺たちは来た道を戻っていく。こっちの方に来た時には連れていなかったルルムを連れて。
ルルムはものすごく巨大な三つ頭の犬。確か犬種の名前はケルベロス。
オスで年齢は何歳かわかってない。だって赤ちゃんの時から育ててたわけじゃないから。
毛の色は俺が着てるローブとおんなじ夜空のような濃紺で、目の色は金色。
まあちょっと色々あって仲間になったけどその話はまた今度。
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