しっかりとした陰と希望

服薬自殺を図った主人公が一命を取り留めて自宅に帰るまでの話。

この作品にはシンボルも凝った構成も美しい描写もほとんど見受けられない。事務的と言っていいくらい淡々と進む。例えば両親が死の淵からかえった主人公と再会するシーン。鳥胸肉のボイルくらいあっさり進む。全編そこが徹底されている。

ここがこの作品の優れたところで服薬自殺を図る人の世界の見え方を感じることができる。さらにそこからのラストがよくて、「今まで飲んだ薬の量を記したノートに、自殺の原因の陰圧が消えたこと、また自分が主人公であると記す」という実に小さなハッピーエンドを迎える。

きっちりと描かれた陰の世界、そこからの何か行動したわけではない"記した"という物凄く小さな希望。この塩梅がすごく良い。

ただ私が同じようなものを書く場合ものすごく悩むのだと思うけど、もう少し短くしてもよかったかな?とは考えると思った。この文量がなければ徹底した陰を読者に植え付けられないかと考えるともう少し短縮できたかもと。

やっぱりこの話の輝きは「希望を記す」という部分だからそこまでの距離が長いとそれまでに離れる読者もいるし、そこまでに疲れてしまってこの良いラストをきちんと消化できない読者もいるかも。

間違いなく余計なお世話なのだけど、他の企画でも必ず作者さんの作品を目にするほど書かれていらっしゃるのでもしご参考になればと思い書かせていただきました。これからも作品楽しみにしております。