【完結】進め‼︎ 宇宙帆船『日本丸』(作品230720)

菊池昭仁

【完結】進め‼︎ 宇宙帆船『日本丸』(作品230720)

第1話 宇宙人 ジャック

 俺たちは横浜にある「帆船日本丸メモリアルパーク」に集合していた。


 「かわいそうになあ、こんなところに繋がれて」

 「解体されてスクラップになるよりはマシだろう?」

 「40年前、俺たちはこれに乗っていたんだよな?」

 「ああ、帆船・日本丸は俺たちのマザーシップ(母なる船)、『太平洋の白鳥』と讃えられた、「帆船・日本丸」だ」

 「この船も、あの「宇宙戦艦ヤマト」みたいに空を飛べねえもんかなあ?」

 「あの戦艦・大和ですら飛べたんだ。この帆船・日本丸なら楽勝だろうよ」

 「40年も前だぜ、俺たちがこれに実習生として乗船していたのは」

 「いいよなあ、帆船は」

 「ああ、帆船はいい、帆船は」

 「旧大蔵省のボンクラたちは、海国日本を支える俺たち船乗りのことなど何も知らねえくせに、「ロマンに付ける予算はない」なんてぬかしやがった。ふざけんなってんだよ、まったく」

 「先進国には皆、練習帆船がある。アイツらは大航海時代を経験して、いい船乗りを養成するトレーニング・シップ(練習船)には帆船が不可欠だと理解している。

 自然の猛威を肌で感じ、チームワークがなければ帆船は動かないことを体で覚えるからだ。

 風を知り、波を読む。そして仲間を大切に思う気持ち。

 これは帆船でなければ感じることが出来ないからな?」

 「20万トンのタンカーのような超巨大船でも、今はたったの14名で動かしている。

 俺の乗っていたタンカーにはプールもあったが、掃除するクルーがいなくて生簀になっていたよ」

 「せっかくペルシャ湾から命懸けで原油を運んで来ても、たった半日でなくなるしな?」

 「それにアホな政治家や官僚たちは最悪だぜ。東京商船大学と東京水産大学をくっつけて、無理矢理「海洋大学」なんて暴挙をしたんだからな?

 アイツら何もわかっちゃいねえ。「同じ海だから一緒にしちゃえ!」ってな?

 ホント、ガッカリだぜ。怒りを通り越して呆れるよ」

 「船乗りって、人気ねえからなあ?」

 「そりゃそうだ。俺が乗船していた船なんて、1年間も日本には帰れなかった。

 三国間輸送で成田から出て成田に帰ってくる、大西洋がメインの航路だったからなあ。

 そしてやっと家に帰ると子供から、「おじちゃん誰?」とか言われるし。

 ホント、泣けるよ」

 「俺たちは浦島太郎だもんな? 帰国して飲みに行くと、スナックの姉ちゃんに「一緒に何か歌おうよー、松田聖子の『赤いスイートピー』、知っているよね?」なんて言われて。そんな聖子ちゃんの新曲なんて知らねえからドン引きされたよ」

 「あはははは、新曲じゃねえよそれ。でもわかるわかる、その気持ち。

 日本の輸出入は99%以上が船だって言うのになあ?」

 「インタークーラー、ターボチャージャー、GPSにレーダー。

 みんな舶用技術からのパクリじゃねえか?」

 「まあGPSはNNSS(海軍航海衛星システム)の改良型で、元々はアメリカのベトナム戦争の爆撃座標の位置解析に使われたのがルーツだからな?」

 「モテるのは飛行機のパイロットばかりだもんなあー。

 俺もCAとやりまくり・・・」

 「こらこら、船乗りの品位を下げるなよ。

 昔は日本航空とか全日空の、自社養成パイロットになった先輩もいたじゃないか?」

 「船乗りって地味だもんな?」

 「それに世間の認知度が恐ろしく低い」

 「わかる。『ワンピース』なんて船長のルフィや船医のチョッパーが舵取ってるもんなあ。麦わら帽子とか被って。あはははは。

 あんなのあり得ん」

 「海賊王に俺はなる!」

 「船長が舵を取ってると思ってる」

 「そうそう。面舵とか言っちゃってな?」

 「あんなの海上自衛隊しか言わねえよ。

 starboard(右へ舵を切ること)なんて、誰も知らねえ。

 船内では英語がほとんどなのにな?」

 「航海日誌なんていわねえしなあ。『LOG BOOK』が世界共通で、すべて記載は英語だしな?」

 「ブログのログがここから来ているなんて知らねえよ。web log 、略してブログ。

 昔は船の速度をログ(丸太)を流して測定した航海記録をつけたから「ログブック」なのにな?」

 「イギリスやスペイン、ポルトガルなどの海洋国は、昔はまず、若者を船に乗せていたらしいからな? 船が、海が学校だったんだ。そして異国での見聞。

 ゴーガンもジョンレノンのパパも船乗りだった。

 そこから士官たちは弁護士や医者になったという話だからな?

 そんなこと、誰も興味はねえけどな?」

 「要するに大変だということだよ、船乗りは」

 「でも船乗りは辛いことばかりじゃない」

 「そりゃそうだ。船乗りと乞食は三日やったら辞められねえからな?」

 「まるで性悪美人みたいなもんだ。海は」

 「峰不二子みたいにか? 色っぽくて激しくって」


 俺たちは笑った。


 「船の科学館なんてなくなったしな?」

 「笹川せんせーい!」

 「そう仕向けた奴らがいるんだよ。俺なんか、キャバクラの姉ちゃんに「俺、船乗りなんだぜ」って言ったら、「どんなお魚を獲っているんですか? マグロ? それともカツオとか?」って言われたぜ。

 船のイメージは漁船しか浮かばねえらしい」

 「漁船の連中も大した度胸だよ。よくあんな300トンの小さな船でマグロなんか獲りに行くよなあ? 世界中に。俺たちの乗っている何万、何十万トンの船でも恐ろしいのにな?」

 「豪華客船なんてみんな、揺れないと思っているしな?」

 「死ぬほど揺れるのにな? そんなの誰も言わねえけどさ」

 「大体、この日本丸の lower yard(マストの一番下についている横材)の片方が傾いて、海に着くなんて、誰も信じねえよ」

 「食事をするにも股の間におかずを挟んで食べるなんてな?」

 「それでも毎日課業が終わると、よくみんなで飲んで、歌ったよなあ」

 「上田正樹の『大阪ベイブルース』とかな?」

 「馬鹿、『悲しい色やね』だろ?」

 「あっ、そうだった。レコード屋で「大阪のベイブルースくれ!」って言ったら笑われたよ」


 俺たちは笑った。

 俺たち7人は、旧運輸省航海訓練所の同期で、国際航路のキャプテンだった。

 今では髪も白くなり、薄くなった奴もいる。

 今年で定年になり、定年延長で会社に残るやつ、家でのんびり孫の面倒をみて生活している奴など様々だった。

 だが、海への憧れは忘れてはいなかった。 

 

 還暦を機会に、仲の良かった俺たち7人は、この帆船、日本丸に帰って来たのだった。




 するとそこへあの映画、ジョニー・ディップ演じるキャプテン、ジャック・スパローのような恰好をした、ヘンな外国人がやって来た。



 「この船で宇宙へ行きまへんか?」


 俺たちは笑った。


 「おい、今日は横浜で、何かの仮装コンテストでもあるのか? 欽ちゃんとかの?」

 「それにしてもリアルだな? その格好。関西弁だけど?」

 「この船で宇宙へ行かへん? この船は美しい船でっせ? ホンマ、『太平洋の白鳥』や!」

 「いい船だろう? 俺たち、ここに繋がれる1年前にこの船に乗っていたんだぜ」

 「ホンマでっか? ホンマでっかTV!」

 「明石家さんまか? お前?」

 「ちゃいまんがな、箱がないからハコネーゼ!」


 お道化てみせるパイレーツ オブ カリビアン。


 「まあ、40年も前の話だけどな?」

 「この船でワテと一緒にイスカンダルに行きまへんか? メーテルや、ええオナゴも仰山おりまっせー!」

 「メーテルは『銀河鉄道999』だろ?」

 「そんな細かいことはどうでもええでっしゃろう? IMALUに仕事くれ! 今でも愛してるで、しのぶ‼︎」

 「アンタ、吉本の芸人さんか?」

 「ちゃいまんがな、ワシ、本当は宇宙人なんですわ。

 ETですET、extra-terrestrial、地球外生物でんがな。ジャックって呼んでえな」

 「コイツ、面白いヤツだな?」


 するとジャックが言った。


 「さあ、行きまっせー! 皆さん、出港準備や!

 出港用意!とも(船尾)おもて(船首)スタンバイや!」

 「なんだか面白そうだな?」

 「久しぶりにやってみるか? 帆船ごっこ?」

 「おう!」

 「ほな、ワテがキャプテンをやりますよって、みなさん、準備はよろしいか?」

 「いいぜ、いつでも」


 俺たちは、それがジャックのネタかなんかだと思っていた。

 我々はそれぞれ持ち場に就いた。


 だがそれは、遊びではなかった。

 帆船、日本丸は本当に動き出したのだ。


 「よっしゃあ‼︎ 行きまっせ‼︎ 宇宙へ‼︎」


 

 


第2話 宇宙帆船「日本丸」 出港??

 「それではみなさん、よろしいか? 出港でっせー!」

 「よし、All station stand by(総員配置に就け)こちらアルファ(ブリッジ)、ブラボー(船首)感度いかが?」

 「こちらブラボー、アルファ感度良好」

 「こちらアルファ、チャーリー(船尾)感度いかが?」

 「こちらチャーリー、アルファ感度良好」


 舶用有線マイクのテストが完了した。


 「Let go all shore lines(すべての係留索を解き放て)!」

 「Let go all shore lines,sir(完了しました)!」



 なんと、何もしていないのにホーサー(係留索)が自動的に解かれ、ウインチがそれを巻き上げて行く。

 しかも、驚いたことにエンジンまでもが動き始めたのだ。



 「Dead slow ahead(微速前進)、Midship(舵中央)」


 日本丸がドッグを出て横浜港へと出て来た。

 

 「どうしたんだ! 本当に進んでいるぞ! 帆船日本丸が!」

 「すごい! 夢を見ているようだ!」

 「夢やあらへん。これからワテらは宇宙へ向けて出港するんや!

 Leaving Yokohama port(出港、横浜港)

 Starboard, course zero-two-five(右舵15度 025°に針路を取れ)」

 「course zero-two-five,sir」

 「Steady(そのまま進め)」

 「Stop engine(エンジン停止)」

 「Stop engine,sir」

 「本船はただいまからワープするよって、しっかり掴まっとってや!

 ほな、いくでえ。ワーーープ!」


 激しい衝撃と共に、横浜港から日本丸の姿が消えた。





 そして日本丸は月の上空へとワープした。


 「着いたで。どや、キレイやろう? これが月やで。

 イスカンダルへ行く前に、月で少し休憩や」

 「地球があんなに小さくなってる。なんて美しい星なんだ、地球は!」

 「そや、ホンマ美しい星やで、地球は。こんなキレイか星は銀河系では地球だけや。

 ETのワシでも見たことあらへんがな!

 そやから色んな宇宙人から狙われておるわけや。バルタン星人とか、デスラー総統、そしてケロロ軍曹たちにもな?

 いや~、もう仰山入り込んでるでえ、地球人のフリしてな。

 自民党の政治家たちは、殆どが宇宙人やで。

 だからあんなけったいなことしよるんじゃ。国民を馬鹿にしてからに‼︎

 そして地球が滅びるのも、あと6年や」

 「どうしてそれがわかる?」

 「ワシら現在、過去、未来と、自由に旅することが出来るよってな?」


 核戦争が起こり、地球は破滅するんや。地球は終わりや。ジ・エンドちゅう訳や。

 岸田総理も間に合わんかったよってな? だからワテはあれほど言ったんや、「早う核武装した方がええで、岸田はん」ってな? でも手遅れやった。残念やけどな。

 でもホンマでっかTV、アンタら、実についてるでえ」


 俺たちは驚いた。


 「核戦争?」

 「地球が無くなる?」

 「そや。正確には地球は無くならんけどな? 生物がいなくなるっちゅうこっちゃ。

 その後、イスカンダル製の放射能除去装置によって放射能が除去され、宇宙人と、一部の生き残った金持ち地球人が再び地球に移住するっちゅう計画や」

 「人類滅亡?」

 「俺たちの家族はどうなる!」

 「そんなバカな! 第一、アメリカが黙っちゃいないはずだ!」

 「まさかアンタら、日米安全保障条約なんて信じておまへんやろな?

 あんなもん、ただの紙切れでっせ。

 一番怖いんは、宗教のない国や。そう、神をも恐れぬ輩や。

 チュウチュウ国にテポドン国、あそこは最悪やで。

 人の命などなーんとも思っとらへん。

 ええか? そもそも肉食の連中はみんなそうやで。

 そやから拳銃も核兵器も無くならんちゅう訳や。

 アイツら、人を殺すのが平気なんやから。

 躊躇うことなく引き金を引くで。

 そやなかったら広島、長崎に原爆なんて投下せーへんのとちゃうの?

 それに今回のチャイナ・ウイルス、これは巧妙に仕組まれたテロちゃいまんの? よう知らんけど。

 どうみてもおかしいやんか?

 そして同盟国アメリカは、日本はただの植民地にしか思うとらんで。

 まあ、これから地球からは見えへん、月の裏側へ行けば、それがようわかるよってな?

 ほな、行きまっか?」


 

 そして俺たちは月の裏側を見て、驚愕することになる。



第3話 月面着陸

 「ところで宇宙にいるのに、無重力で体が浮かないぞ」

 「それに俺たち、宇宙服もないままだし」

 「やっぱりこれは夢か?」


 するとジャックは言った。


 「ちゃいまんがな。体が浮かんのは重力発生装置のおかげで、こうして横浜にいる時と変わらん状態でおるんは、エヴァンゲリヲンの「ATフィールド」で、この日本丸自体がシャボン玉のように覆われて、守られておるからや。

 だけどな? これから月に下りたらこれを着けなはれ。そやないと即死でっせ」

 「なるほど」



 俺たちは宇宙服を装着した。

 そして本船は次第に月面に近づいて行った。




 「ほな、投錨しまっせー!

 Stand by port anchor(左舷の錨を投錨準備せよ)!」

 「Roger(了解)stand by port anchor,Sir」

 「Let go port anchor(左舷錨、投錨)!

 Five shackles on the deck(125m アンカーチェーンを繰り出し、船上で固定せよ)」

 「よっしゃあー! ほな上陸しまっせー!

 ホンマにワクワクしまんがなー!

 ここではあんなことも、こんなことも、そんなこともやり放題でっせー!」

 「でも俺たち、日本円しか持っていないぜ?」

 「大丈夫や、クレジットカードなら殆ど使えますよって。

 VISAでもアメックスでも大丈夫やさかい」

 「月でカードが使えるのか?」

 「そりゃそうや。ここは金持ちたちのパラダイスやからな。

 ちなみにPayPayも使えまっせ」

 「つまり月ではキャッシュレスというわけか?」

 「それから皆さんはご存じかとは思いますが、ニュートンはんの考えた万有引力の法則。あれは宇宙では通用しまへんから要注意やで。

 その天体の質量に比例し、その半径の二乗に反比例しますのや。

 つまり、地球の質量は月の81.3倍、そして半径は3.67倍。

 そやから81.3÷3.67÷3.67≒6.03 すなわち地球の重力の6分の1というわけや。

 気いつけなはれや」



 俺たちはaccommodation ladder(タラップ)を下した。



 「宇宙飛行士はよくこんな重い服着てるよなあ?」

 「ああ、何しろ120キロもあるらしいからな?

 おかげで着るのに数時間もかかったよ」

 「なにしろ月の赤道付近の温度は日中で110℃、そして夜になるとマイナス170℃にもなり、その温度差は280℃にも達するそうだ」

 「35億年前には大気も存在していたんだろう?」

 「そうらしいな?」



 ジャックは月面にある乗物を指さした。


 「これで行きますよってな? みなさん早う乗りなはれ」

 「ジャック、お前・・・」

 「ああこれでっか? これがワシのホンマの姿や。

 宇宙人やさかいな?

 これでも宇宙では結構モテるんやで。 

 宇宙の玉三郎、じゃなかった、宇宙の「キン玉タク」ゆうてからに。ウッシッシ」


 なんとジャックはあの、ロズウェルの宇宙人と同じ姿になっていた。


 「でもジャックはすごいよ、宇宙服無しで大丈夫なんだから」

 「ワシら色んな星へ行くやろ? いつの間にかこないに進化してな? どんな星でも耐えられるようになったちゅうわけや。ええやろうー?」

 「うーん、俺は今のままでいいかな?」

 「俺も」

 「それにチンチンが付いていないのもなあー」

 「何言うてまんの? そやから地球人は遅れとる言うんや。

 チンコなんて古い古い。

 ワシらには穴がおまへん。しかも雌雄同体や。

 男も女もあらへん、みんな同じ宇宙人や。既にLGBTは常識やで。

 そして宇宙では婚姻関係もあらしまへん。セックスは脳でするもんやさかい。

 食べなくても生きて行けるねん。それに不老不死やしな?

 どや? ええやろうー?」

 「すげー! 死なねえのか? お前たちは?」

 「それじゃあ子孫はどうやって増やすんだ?」

 「ワシらに子供はおらんのや。だって面倒やろ? 

 それに子育ては大変やで? 学校でいじめられてへんかとか心配するしな?

 それに反抗するやろ? 親に。

 ワテはイヤやで、金属バットで殴られたりしたら死なんけど痛いやん?

 それにワシらは死なんさかい、命の継承がいらんのじゃ」

 「じゃあどうして口も耳もないのに俺たちとこうして会話出来るんだ?」

 「テレパシーでんがな。

 だからチンコがなくても十分SEXは楽しめるんや。

 どや? 羨ましいやろう?」

 「それはどうかなあ?」

 「どちらにしても俺たちのチンコもなあ。もう役には立たんしなあ。

 ションベンするだけになっちまった」

 「そうだよなあ、あの頃が懐かしいよ」

 「まったくだ」

 「まあそんなのはどうでもよろしい。

 まずは実際の月のパラダイスがどうなっているか、探検せな」



 俺たち7人は、ジャックの月面探査バスに乗り込んだ。



第4話 月の竜宮城

 そこは東京ドームのような大きさの、透明なドームが数多く点在していた。

 まるでラスベガスか歌舞伎町のようなイルミネーションが煌めいている。



 「まるでラスベガスだな?」

 「いや、歌舞伎町だ! 信じられん!」

 「NASAの発表した月の裏側にはこんな写真はなかったぞ?」

 「あんなもん、みんな合成写真でっせ。

 アポロの月面着陸の映像も映画のセットやで。

 地球からは表側しか見えヘンよってな?」

 「ではなぜ、火星に移住などと計画しているんだ?」

 「それはこの月の裏側の実態から世論を欺くためや。火星計画はあくまで囮や。

 考えてもみなはれ。あんさんたち地球人は下等やさかい、時空を超えることができまへんやろ?

 火星まで何日かかる思うてまんの?

 ホーマン軌道を使って燃料を節約しても約8カ月も掛かるんでっせ。

 ヨーロッパからスエズ運河経由で、コンテナ船で18ノット(時速約33km/h)で日本まで約40日近くはかかるやろ?

 片道8カ月やなんてどう考えても無理やで。精神的にも肉体的にもな?

 特殊な訓練を受けた奴しか行かれへんて」

 「確かに長期の航海はダメージが大きい。しかも狭い空間でのストレスは想像を絶するよ」

 「豪華客船でも辛いぜ。何処にも寄港しないなんてな?」

 「キャバクラもねえしな?」

 



 ジャックはドームの中に入って行った。



 「ここのドーム、中々ええ感じやおまへんか?」



 俺たちもジャックの後に続いた。



 中に入るとウサギのような長い耳と、丸いボンボリ尻尾を付けたバニーガールがやって来た。

 どうやら月にウサギがいるというのは本当らしい。



 「あーら素敵なオジサマたち、いらっしゃーいぴょん。

 地球人7名様とあなたは「うる星人」様ぴょんね?

 入場料はおひとり様、100ルナになりますぴょん」

 「100ルナってカードにないよな?」

 「大丈夫ぴょん。ここでは日本円に米ドル、ユーロにポンドも使えますぴょん。

 1ルナは今日のレートで98円になりますから、9,800円になりまーすぴょーん!」


 俺たちはそれぞれカードで支払った。

 だがジャックだけは顔パスのようだった。



 「凄いなジャック。お前は顔パスか?」

 「ちゃいまんがな。ワシらはそのままホスト・サーバーにアクセス出来るさかい、もう決済しとるんや。

 脳内で処理できるんやで? 便利やろ?」

 「そのうち俺たちも頭にチップを入れられたりしてな?」

 「もうアメリカではやってまんがな。そんなもん」

 「ホントにか?」

 「この前、テレビの『都市伝説』でやってたでえ。

 「信じるか信じないかは、あなた次第です」やて。よう知らんけど」

 「しかしここは本当に月なのか?

 セブンイレブンもローソンもあるし、吉野家にマクドナルドまであるじゃないか?」

 「リッツカールトンもアパホテルまである。

 ほら、あの派手な帽子の女社長の看板まで」

 「それにラブホまであるぞ」

 「デニーズに大戸屋まである。しかもココイチまで」

 「あれれ、あのちょび髭はヒトラーじゃないか?」

 「あっちにはアインシュタインもいる」

 「それにスターリンや毛沢東もあそこでサーティワンのアイスを食ってるぞ!」

 「おい見ろよ! あそこではマリリンモンローと志賀総理がなんか立ち話してるぞ。

 英語もしゃべれないのに」

 「マリリンが日本語話してるみたいだな?」

 「なんだかマリリン、怒ってんじゃねえか? 「バカ息子の件、うやむやにしないで頂戴」だってよ」

 「ついでに『桜を見たかい?』も追及すればいいのにな?」

 「あそこにいるのは大池都知事じゃないか? しかもすっぴん!」

 「怖っ! すっぴんの方が迫力あるな?」

 「うんうん」

 「あれ? アイツはダダ・ヴィレッジの後沢じゃねえのか?」

 「なんだ、もう月に来てんじゃねえか? あんな金の使い方すんなら従業員に特別ボーナスを出してやれよ。かわいそうに。バスキアなんて訳のわかんねえ絵なんか買いやがって」

 「あの怪力綾乃を金に物をいわせて手籠めにしやがって。許せん!」

 「まあそれはいいじゃねえか? そんなの『文秋』に任せておけよ」



 ジャックが言った。


 「アイツらみんな、クローンでっせ。永遠の命を手に入れたわけや」

 「でもそれはコピーだろう? どんどん精度は落ちていくんじゃないのか?」

 「その通りや。コピーのコピーを続けていくわけやからな?

 どんどん崩れていくのや。

 まあええやないの? 本人たちもわかっているよって。

 それより、そろそろあんさんたち、腹が減ったやろ? ここで飲んで食べたらええがな」




 その店のネオンサインには『ピンクサロン竜宮城』と書かれていた。



 「竜宮城だなんて、乙姫様とかいるのかな?」

 「八緒がいたりして?」

 「まさか? 菜々緒じゃなくか?」


 すると、あの携帯電話会社のCMの恰好をした乙姫様が現れた。


 「あーら、いらっしゃーい。

 ささ、そんな重い宇宙服なんて脱いで脱いで。

 マリリンにローラちゃーん、トリンドルに敦子ちゃんも。

 それからカレンに直美、彩芽に小百合ちゃーん、あと、ダダもお願いねー!」


 やっぱり八緒だった。


 俺たちはいちばん奥のVIPルームに案内された。




第5話 「ここから生きて帰すなピョン!」

 「ねえねえ、オジサマたちはどうやって月にやって来たのー?」

 「帆船日本丸でここまで来たんや」

 「ホンマに? それはすごいわー。私、惚れてまうやないのー! よう知らんけど」


 「ダダちゃんも関西弁なの? 宇宙人はみんな関西弁なのか?」

 「大阪人って、宇宙人みたいやろ? 誰にでも馴れ馴れしいし、陽気やし。

 なあジャックはん?」。 「そやで。女の子がトイレから戻ってくると「ウンコしてたん?」とか聞くよってな?

 それからすぐに銭の話をする。

 「あんたの家、家賃いくら?」「給料ナンボもろうてんの?」とかゆうてな?

 裏表のない、あのフレンドリーな地球人関係が好っきやねん。

 大阪は商人の街やさかいな? 明るい話と銭が大好きなんや!

 しかしダダちゃん、あんたホンマにベッピンさんやなあ。

 どや? あっちでワシとやりまへんか?」

 「まあ、ジャックはんったら気が早いんやからもうー。

 ホンマに大阪の男は手が早いなあ?」

 「ちゃうちゃう、ワシは大阪人やのうて「うる星人」やて」

 「そやった。それはえらいすんまへんでしたなあ。 あはははは」


 それはまるで、吉本の夫婦めおと漫才を見ているようだった。



 「さあみなさーん。ジャンジャン飲んでねー。

 ここの竜宮城は1時間40ルナで飲み放題なのよ!

 私たちもドリンク、いただいてもいいかしら?」

 「いいよ」

 「もちろん、どうぞ」

 「流石は海の、いえ宇宙の男ね? 気前がいい人って大好き!

 すみませーん! ピンドン(ピンクラベルのドン・ペリニヨン)8本お願いしまーす!

 マグナムボトルでねー!」

 「懐かしいなあー。歌舞伎町とか上野のぼったくりBARを」

 「あの時はビールの小瓶1本で、ひとり20万円だなんて言われてなあ」

 「でもあの時は菊池がワルサーを持っていて助かったよ」

 「どうも習慣になっちまってな? よく先輩から「外地でひとりで飲みに行けるようになったら船乗りとして一人前だ」とか言われていたからな? 護身用だよ」

 「語学はもちろん、女を口説いて、やばくなったらやるしかねえもんな?」

 「でもあん時は、あっちもトカレフなんか出して来たからビビったぜ」

 「そうそう、逃げるが勝ちだからな?」

 「いやあ、走った走った。

 まさか本気で撃ってくるなんて思わねえからさ。

 弾が当たって死んだらどうすんだよ、まったく。

 俺のはモデルガンだったし」

 「菊池らしいよ、ホント」

 「八緒ママ、月に来て何年になるの?」

 「今年で3年かしら?

 ザギンでチイママしてたんだけどね? こっちの方が稼げるからって誘われて。雇われママだけどね?

 それにそろそろ地球もアレだしね?」

 「アレって何だ?」

 「お客さんたち、アレだから月に逃げて来たんじゃなかったの?

 核戦争」

 「ジャックが言っていた通りなのか?」

 「だから言ったやおまへんか? 地球はあと6年で終わりやて。

 信じておらんかったんかいな? 宇宙人がせっかく教えてやったんに」

 「核戦争? 今の世界情勢を見ていると、それも十分ありうる話だな?」

 「あのチャイナウイルスのせいで、世界は大混乱になったからな?」

 「飲みにはいけない、風俗もダメ。

 それなのにあのボンクラ政治家たちは自分の支持率ばかりを気にして知らんぷりだ」

 「テレビも見たくないよな?

 報道番組はいつもチャイナウイルスの話ばかりで、もううんざりだったよ。

 そして今度はウクライナとロシアの戦争に狂気の国、中国と北朝鮮もやりたい放題だしな?」

 「マスコミはゴミだ。

 政府に都合のいいことしか言わねえ」


 その時、八緒ママが口に指を立てて言った。


 「しっ! 誰が聴いているかわからないわよ。

 この話はそこまで。

 さあ楽しく飲みましょう! 皆さんにお酒をお注ぎして」

 「はーい! どうぞ!」


 俺たちは綺麗なキャバ嬢たちと酒を酌み交わした。


 だが、それをじっと聞き耳を立てて聞いていた、月の秘密警察がいた。

 ひときわ大きな耳を持つデビット・ボウイならぬ、ラビット・ボーイだった。



 「ふむふむ。これは大変だぴょん。

 すぐにCIAとKGBとモサドとMI6に報告しないとぴょん。

 よし、すぐにLINEしなくちゃぴょんぴょん。

 「志賀総理や三階幹事長、大池都知事の悪口を言っている地球人を発見しました」っと。

 おっ、すぐに返事が来たぞぴょん。

 何々、



      「殺せ」



 たったのふた文字かぴょん?

 しょうがないぴょん、上司の命令だもんぴょん。

 ごめんねー、地球人さん。

 「全員配置につけ、あの地球人たちをここから生きて帰すなぴょん」っと。

 よし、みんなに一斉送信しちゃったもんね~ぴょん」 



 果たして大丈夫なのか? ジャックと7人の還暦オヤジたちはこのピンチを乗り切ることが出来るのだろうか?




第6話 「なめたらあかん!」

 「こちらラビット205 出口封鎖完了しましたぴょん!」

 「こちらラビット・ボーイ、了解したぴょん」

 「おひとりで大丈夫ですかぴょん?」

 「ああ、俺一人で十分だぴょん。

 あいつら、丸腰だしなぴょん。

 では、ちゃちゃっと終わらせるかぴょん?」


 ラビット・ボーイはレール・ガンのパワーレベルを確認した。

 ラビット・ボーイはゆっくりと、彼らのいるVIPルームへと近づいて行った。

 そしてドアを開けた。



 「秘密警察だぴょん! 動いてもいいけど、無駄だぴょん!

 かわいそうだが、全員死んでもらうぴょん!」

 「きゃあああああああ!」

 「助けてー!」

 「お願い、私たちだけは殺さないで!

 この地球人は好きにしてもいいから!」

 「私たちは何も関係ないの!」

 「この人、私のオッパイ触ったんですけどー!」



 彼女たちは怯えて逃げて行った。

 だが、八緒ママだけは毅然としていた。


 「帰ってちょうだい! ここは私のお店よ!

 札(ふだ:逮捕令状)はあんのか! コラッ!」



 さすがは八緒ママである。カッコいい。惚れちゃう!



 「お前も死にたいのかぴょん? 札なんていらねえんだよぴょん。

 国家反逆罪の現行犯だからなぴょん? この場で処刑するぴょん。

 そこをどけぴょん。

 さもないとおまえも同罪として殺すぞぴょん」


 その時、ジャックがそれを制した。



 「秘密警察でっか? あんさん、誰にモノをゆうてまんのや?」

 「お前に言っているんだよぴょん!」

 「なんだコイツ? EVAウサギじゃねえか? あの駅前留学の」

 「本当だ、でっかい耳がついてる」

 「あのー、その着ぐるみ、どこで売ってるんですか? ドンキとかですか? あの大人のオモチャ売場の隣とか?」

 「俺も欲しいぞ! その着ぐるみ! うちの孫のサキちゃんのおみやげに。

 これなら絶対にウケる!」

 「コイツ、「ひこにゃん」よりもかわいいぞ」

 「それを言うなら「くまモン」だろう?」

 「バカを言え。コイツよりも俺のふるさと、福島の「キビタン」の方が絶対にかわいい!」

 「菊池は郷土愛が強えからなあ」


 その場が菊池の一言で、シーンと静まり返ってしまった。

 みんなは「キビタン」を知らなかったのだ。


 

 「まあ、そんなことはどうでもいいぴょん。死ねぴょん!」


 

 次の瞬間、ジャックの目から光線が出て、室内に肉の焦げたニオイがした。

 ラビット・ボーイは一瞬にしてロースト・ラビットにされてしまった。



 「さあ仲間が来るよって、早くここから逃げまっせー!

 ママ、お勘定!」

 「今日のお代は結構です! 今すぐ逃げて!」

 「また来るよママ」

 「必ず」

 「ママ、元気でね?」

 「ママ、大丈夫か?」

 「私は大丈夫、秘密警察はこのお店の常連さんだから」

 「ありがとう、ママ」


 俺たちは全力で走って店を出た。

 あちらこちらからレール・ガンが照射されたが、俺たちはその度にジャックに助けられた。


 

 やっとドームの出口にやって来ると、秘密警察のラビット205が待ち伏せをしていた。


 「ここからは1歩も出さないぞぴょん! 死ねぴょん!」

 「そこをどけ!」

 「いやに決まっているぴょん!」

 

 菊池が何かをウサギに投げつけた!


 「菊池! 手榴弾か!」

 「さすが菊池!」

 「みんな伏せろ!」

 「大丈夫だよ、ただのニンジンだから。ほら見ろよ? やっぱりウサギだな? コイツ。

 夢中で食ってるよ」



 ムシャムシャ



 ラビット205は銃を捨て、夢中でニンジンを齧っていた。

 そこはやはりウサギだった。

 ラビット205は自分の任務も忘れ、ニンジンを美味しそうに食べていた。




 「宇宙服を着ていないけど、このまま外へ出ても大丈夫か!」

 「心配いらへん! 早くこの中に入いりなはれ!」


 俺たちはそれぞれジャックの出してくれたシールドの中に入いり、探査バスで日本丸へと突っ走った。

 ところが日本丸には秘密警察だけではなく、銀河宇宙軍までもが包囲していた。


 日本丸はジャックによってATフィールドでシールされていたので安全だった。



 「掴まっててや! ほな行くでー!」


 すると探査バスから翼が出て、バスは空を飛んだ。



 「おう! バスが飛んでいるぞ!」

 「水陸両用バスはあるが、空陸両用バスは初めて見たよ」

 「ちゃいまんがな! 水空陸三用バスでっせえー!」



 バスは銀河宇宙軍を飛び越え、俺たちは日本丸に乗り込んだ。


 「これより離陸する! MAXパワー! Take offや!」


 ジャックはエンジン・テレグラフを Full ahead(全速前進)にセットした。


 「なめたらあかんで! このボケッー!」



 帆船日本丸が月からドンドン離れて行く。


 


 「ああ、危ないところだったな?」

 「もう地球に帰ろう」

 「そうだな? 帰るか? 地球へ?」

 「安心するのはまだ早いでっせー!

 あんなにぎょうさん、ワシらを待ち受けてまんがな!」


 日本丸の前方には、夥しい数のバトル・スペースシップが待ち構えていた。



 「これを突破するのは難しいな?」

 「ガミラスのデスラー総統とか、乗ってたりして?」

 「俺たちはもう十分生きたじゃねえか?」

 「そうだな? 行くか?『神風特攻・帆船日本丸』で!」

 「ジャック、お前は逃げろ」

 「そんなアホなこと、言わんといてや! ワシは死なんて、死ねないんやて! あはははは」

 「あっ、そうだった」

 「それじゃあこのまま直進! Steady!」

 「Roger!」



 俺たちは全員、覚悟を決めた。



第7話 波動砲 発射!

 「おみまいしてやりまっせー!」

 「おみまいって何を?」

 「この船は帆船日本丸だぞ? 戦艦大和じゃあるまいし?」

 「波動砲でもあればなあ?」

 「だからありまんがな、波動砲」

 「えー!」

 「波動砲? あんの?」

 「ありまっせー! 全員この溶接の時に使うゴーグルを掛けるんや!」





 銀河宇宙軍の提督、「ゼネラル・ネルソン・ジュニア3世」は余裕の含み笑いをしていた。



 「提督、あんな旧式の帆船に、全軍出動とは大げさではありませんか?」


 副長のハイネマンが提督に進言した。


 「私はアリ一匹を殺すのにバズーカ砲を使う男だ。

 ウサギがカメに負けたのは、ウサギがカメを甘くみたからだ。

 ハイネマン副長、私が提督になれたのは何故だと思うかね?」

 「コネですよね? ひいお爺ちゃんからの。

 大学は三流私立大学の裏口入学。バカなくせに親が金持ちだからですよね?」


 するとハイネマンの足元が開き、彼は落ちて消えた。



 「月に下品な男は不要だ」


 

 すると艦長のテイラーが言った。


 「提督、そもそもアイツら、現政権について文句を言うなど、下等国民のくせに愚かなことですよね?」

 「その通りである。あのアホポンタンな政治家や官僚の言う通りにしておればいいものを。 

 この世はカネとコネと忖度だ。

 それがないヤツらはタダのゴミ同然である」

 「おっしゃるとおりです。あの西野とかいう、華丸末吉の腰巾着お笑い芸人の考えそうなことです」

 「国際政治など、あの大池都知事の前の温泉好き、権力大好きのジジイを見ればわかるというものだ。

 ソルボンヌだか何だか知らんが、東大を出て留学したところであの程度だ。

 つまり、国際政治とはな・・・」

 「国際政治とは?」

 「それはな? 「強い国には逆らうな」ということだ」

 「ジャパンを見てみろ、アイツらは核兵器も持たせてもらえない。

 あれだけの世界最高レベルの軍隊を持っているのにだ。

 それなのに「自衛隊」などという中途半端な組織名を名乗っている。詭弁だよ。

 また仕返しされたらたまらんからな?

 「ヒロシマ、ナガサキの原爆投下はやむを得ないことだった」と教科書を書き変えさせられてな?

 まるで柴犬だよ、豆シバ。

 巧妙に仕掛けられた戦争にまんまと乗せられ、今でもアメリカの植民地にされている。

 命も顧みず、誠実で勤勉な武士道の魂を持っている日本のサムライは、何よりも恥を嫌う。

 隣人と自分を比較して生きるため、これほど扱いやすい国民はおらん。

 アイツらをコントロールするのは実に簡単だ。


 

       「みんな、そうしていますよ」



 この一言でいい。

 アメリカから与えられた憲法を律儀に守る大馬鹿者だよ。

 だからアメリカやロシア、中国、欧州諸国からバカにされ、韓国や北朝鮮にまでなめられておる。 

 ジャパニーズにはなりたくはないな?」

 「でもアイツら、結構したたかですよね?

 既にICBM(大陸間弾道ミサイル)の技術も核も持っているわけですからね?」

 「小賢しい奴らだよ。

 JAXAではミサイル技術を、そして・・・」

 「原発ではプルトニウムをですね?

 アイツらいざとなればいつでも核兵器など朝飯前に作ってしまう。

 いや、すでにあるやもしれませぬ。

 ジャップは奇襲攻撃が好きですから」

 「では始めるとするか?

 アイツらに贈る、「月のレクイエム」を!

 全艦、総攻撃開始!」





 「急げ! パワー充填! MAX!」

 「パワー充填完了!」

 「よっしゃあああ! 波動砲! 発射あああああ!」



 ゴゴゴ バッゴーンンンンン!






 「て、提督! アイツら宇宙戦艦ヤマトのように波動砲を発射して来ました!」

 「い、いつのまに! ぎゃああああああ!」


 月の銀河宇宙艦隊は一瞬にして壊滅した。




 

 「ほな帰るで。地球に戻るんや」

 「帰ろう、地球へ」

 「そうだ、核戦争なんてさせねえぞ!」

 「美しく青い地球を守るんだ」

 「アイツらの好きにはさせねえ!」

 「おう!」

 「ほな、ワープしまっせー! 掴まっててやあ!

 ワープ!」



最終話 帰港

 帆船日本丸は観音崎の沖にワープした。

 美しく晴れ渡った太平洋は群青の海だった。



 「帆走するか?」

 「いいね? 久しぶりにやるか?」

 「出来まっせ、この船にはAI機能が搭載してあるさかい、号令をかけるだけで大丈夫や」

 「よし、総帆開け!」

 「All's well, sir(周囲に異常なし)」


 

 日本丸は再び「太平洋の白鳥」となり、翼のように白いセイルを広げた。

 潮風を孕んだセイルは、子供の寝息のようにすやすやと風を受けて進んで行く。


 「Sleeping sail(寝息のように動くセイル) だな?」

 「なつかしいなあ」

 「いいな、帆船は?」

 「ああ、帆船はいい」


 そして俺たちは歌い始めた。




       照りもせず 曇りもせず いたずらに過ぎ行く人生の春を嘆く

       されど歌わん「白菊の唄」



       かすめる美空に消え残る♪ おぼろ月夜の秋の空♪

       身に染みわたる夕風に♪ 背広の服をなびかせつ♪

       紅顔可憐の美少年が♪ 商船学校の校内の♪

       練習船の♪ メインマストのトップの上に立ち上がり♪


       故郷の空を眺めつつ♪ ああ 父よ母よ今いずこ?♪

       我が恋人は今いかに?♪ 少年夢に持つものは♪・・・。

       

       

       


 トビウオが本船と伴走していた。 美しく翼を広げて。



 「帰るか? 横浜へ?」

 「捕まるだろうな? 俺たち?」

 「しょうがねえよ。この場合の罪名は何だろうな?」

 「窃盗罪?」

 「殺人罪?」

 「いや、正当防衛じゃねえか? アイツらから攻撃して来たんだから」

 「国家反逆罪?」

 「俺たちはテロリストじゃねえぞ」

 「そういえば、検事になった先輩がいたな?」

 「いたいた。ロッキードの時の検事だったとか」

 「すげえじゃねえか? 特捜か?」

 「まだ生きてんのかなあ? 先輩」

 「途中で学校辞めて、東大法学部に入ったあの伝説の天才か?」

 「お前もすげえじゃねえか? 同志社中学からウチの学校に来たんだもんな?」

 「俺たちより15才上だっけ? すると今は74才位か?」

 「じゃあ、もう退官して弁護士か?」

 「死んでんじゃねえの?」

 「帰ってから考えようぜ、そんなことはどうでもいいよ」

 「浦賀水道に入る。東京マーチス(東京湾海上交通センター)に連絡だ」

 「Tokyo Marine Traffic Information, this is Sailing Ship "Nippon Maru" , over」

 「Sailing Ship "Nippon Maru" . Please change to channel one-two(船舶無線を12チャンネルに変更して下さい)」

 「Roger. change to channel 12」

 「This is "Tokyo Martis". How do you read me ? over(感度いかが?)」

 「 Loud and clear. I read you with strength 5, over(感度最良好です)」

 「please, go ahead(どうぞ、お話しください)」

 「ETA quarantine anchorage 1130. Did you get it ? ,over(検疫錨地への到着予定時刻は11時30分です。ご了解いただけましたか?」

 「Roger. 1130.over(11時30分 了解しました)」



 東京湾、伊勢湾、瀬戸内海では船舶交通がかなり混雑している。

 故にそれらには船舶航路が決められており、航空機と同じ様に航路管制がされているのだ。



 「あんな広い海で船が衝突するなんて、不思議よね?」


 だが実際には2点間の最短距離を航行するわけだから、船は集中する。

 ヒヤッとすることなど日常なのだ。

 太平洋のど真ん中ですら、衝突する危険はあるのだ。




 横浜港に帰って来た。

 検疫錨地に錨を下ろすと、海上保安庁や警察、検疫、税関、それに入国審査官らが乗り込んで来た。


 「長旅、ご苦労様でした。

 あなたたちですね? シージャックの人質になっていたのは?

 おケガ等はありませんか?」

 「本庁で事情聴取がありますので、接岸しましたらご同行願います」

 「えっ? シージャック?」

 「人質?」

 「俺たちはただ月へ・・・」

 「そうだ、俺たちは月に行って来たんだ」

 「6年後には世界が滅びるんだ! 核戦争で! 早く核を廃絶させないと!」

 「そうだよな? ジャック? 俺たちはワープして・・・」

 「ジャック!」

 「ジャックがいない? どこにいるんだ? ジャックーっつ!」


 官憲たちは顔をしかめた。


 「薬物を注射されたかもしれないですね?」

 「洗脳かもしれん」

 「取り敢えず、精神鑑定だ。

 消防の救命救急に連絡をしろ」

 「はっ!」




 ジャックはどこにもいなかった。

 俺たちは夢を見ていたのだろうか?

 異常がないことが確認され、俺たちはようやく解放された。


 「俺たちは月に行ったんだよな?」

 「ああ、確かに行った。

 俺たちはジャックに月へ連れて行ってもらったんだ」

 「ジャックにまた、会いたいな?」

 「そうだな?」

 「俺たちは月に行った」

 「それは事実だ、だってほら」


 菊池がポケットから石ころを出して見せた。


 「俺も」

 「俺もだ」

 「ほら、俺も」


 俺たちはポケットから「月の石」を出して見せ合った。


 「この素晴らしい地球をいつまでも守らねえとな?」

 「俺たちの子供や孫たちのためにも、この美しい地球をな?」

 「世界が平和でありますように」

 「それにはこの地球に暮らす人間ひとりひとりが、平和を願う心を持たねえとな?」

 「ありがとう、ジャック」

 「ジャック、ありがとう」

 「またいつかどこかでな?」



 横浜の夜空には美しく月が輝いていた。



             「進め! 宇宙帆船『日本丸』」おしまい


             


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【完結】進め‼︎ 宇宙帆船『日本丸』(作品230720) 菊池昭仁 @landfall0810

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