2/2 心臓

「なあ、これは心臓をあげるって言わないんじゃないか?」


 教皇が賊に襲われて死んだという報せが広まる前に、俺たちは夕闇に紛れるように馬車に乗って街を出た。


「だって、あなたがわたしに死なれたら困るって泣いたから……折衷案でこうしてあげたんじゃない」


 すっかり明るい表情になったエマは、紅い瞳でこちらを見上げながら唇をとがらせた。

 エマと俺は心臓を交換することになった。とはいえ、銀の魔女と猫妖精ケットシーとの間に出来た子の心臓だ。教皇の心臓を入れられていた時と全く違う心地がしてなんだか落ち着かない。


「泣いてない。自分の心臓が近くにないと嫌なだけだ」


 本当はそれだけの理由ではないけれど。


「ねえ、ロトス、わたしたちは良い友人になれるかしら?」


「それ以上の関係になれるんじゃないか?」


 彼女の頬に触れてから、そっと唇を近付ける。血が出ているわけでもない彼女の唇からは血よりも甘い優しい味がした。


―END―

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καρδιάーカルディアー こむらさき @violetsnake206

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