婚約哀歌①!

崔 梨遙(再)

1話完結:約1500字

 若い頃、僕は女子大生と付き合っていた。名前は愛子。無口で内気な女性だった。ちなみに、書道部の部長だった。


 僕は、愛子に文化祭に来てくれと言われた。だが、当時の僕の家から愛子の大学まで遠かった。1人で行くのは嫌だった。話相手がいないと愛子の大学までの道のりがキツイ。僕は、知人の石田を連れて行くことにした。


 石田は、“女子大の文化祭に行ける!”と喜んでくれた。ということで、


「石田のために女の娘(こ)を1人確保して貰える? 無理なら文化祭は行かへん」

「石田君のために1人?」

「うん、1対2で文化祭を回っても仕方ないやんか。石田が浮いてしまうやろ? 2対2で回るのが1番ええやんか」

「うん、そやね」

「ほな、石田のために1人、用意出来る?」

「1人くらい、大丈夫やで」

「ほな、文化祭には2人で行くわ。石田の分の女の娘、絶対に頼むで」

「わかった」



 文化祭当日。2時間近くかけて、愛子の女子大へ。僕も石田も、“女子大の文化祭”ということでウキウキしていた。


 ところが、愛子に“到着連絡”をして正門前で待っていたら愛子が1人で現れた。


「なんで1人やねん?」


 僕の第一声は、ツッコミの言葉だった。


「石田のために、1人用意してくれるって言うたやんか。このままやと石田に申し訳無いやろ」

「ほな、1人探してくるわ」

「今から? 事前に言うてたやんか」


 僕はイライラッとした。愛子が校内へ消えた。そして、1人で戻って来た。


「なんで1人なん?」

「友達、みんなクラスやクラブの催しで抜けられへんらしいわ」

「なんで事前に根回ししといてくれへんかったんや? 2対1やったら気まずいやんか。石田に悪いやろ?」

「そんなこと言われても、もう、どうしようもないわ」


 イラッとした。


「書道部の後輩でもええやんか」

「それはアカン」

「なんやねん、お前は? もう帰ろうかな」

「私がいるんやからええやんか」

「はあ? お前、頭おかしいんか? 校内を回ってる間、石田が退屈やろ?」

「そんなこと言われても」

「もう、帰ろかなぁ、なんか、気が進まなくなったわ」

「アカンよ。せっかく来たんやし、校内に入ってや」

「……」


 案内してくれるのはいいが、僕は石田に申し訳無くてずっと気が重かった。愛子は、自分が所属する書道部の展示を喜んで見せてくれた。中には、袴姿の女の娘達。ちなみに、愛子も袴姿だった。“袴姿を見せたかったのか?”と思った。


 適当に案内された後、僕等は“もう帰る”と言った。すると、愛子が、


「私もついていく、もう、部長としての仕事は終わったから」


 愛子がついてきた。


「もう帰るん?」

「うん、帰る! 話が違うし」

「まだ3時やし、どこか行かへん?」


 愛子は遊び足りないようだった。


「カラオケに行っても、愛子は全く歌わへんやろ?」

「歌うで」

「ほんまやな?」

「今日は歌う」

「愛子が歌うんやったら、カラオケ行こか」



 で、カラオケ。全く歌おうとしない愛子。


「歌えば? 歌うって約束やろ?」

「やっぱり無理、人前で歌うのは恥ずかしい」

「また話が違うやんか!」


 僕は、またイライラっとした。僕と石田はカラオケが終わると帰った。愛子はクラブの後片付けをするために大学に帰るということだった。


 帰りの電車で、僕は言った。


「石田、すまんかったな」

「もうええ、もう疲れたわ」



 僕と愛子は婚約していた。これが愛子と結婚することに対しての最初の不安と怒りだった。愛子は変な奴だ! ということに最初に気付いたイベントだった。とにかく、その日はずっと愛子に対してイライラした。だが、やがて気の進まない結婚をして、愛子とは離婚になるのだった。







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