第11話

Bruise Claw<ブルーズクロー>第11話


戦いをアーマスとミリシアに任せ、目を閉じ集中するラキット。

気の巡りを感じ、その流れを手に集中する・・・と、いったイメージなのだろうが

それがイメージできたとして、容易く上手くいくはずもなく・・・


「はぁ・・・はぁ・・・!!ダメだ・・・全然出来る気がしない・・・!」


「俺もダメだ・・・サンドバッグと思えばいいのかもだが、

 微妙にネチャついてて、やっぱ俺スライム嫌いだわ・・・」


女の子一人に戦闘を任せ、グダる男二人を、ゴミのような目で見つめるミステイシア。


「何かアドバイスは、ないのかよミステイシア」

「アドバイスだと?そんなものはない。

 生命エネルギーを武器として形成し、使う・・・

 そんな事、我が出来るわけなかろう」


「だよな・・・」

「一つ気になったのだが、アーマスは何故魔法で戦わないのだ?」

「俺もラキットも、魔法が使えないんだよ。

 使わないんじゃなくてな」


「魔人の血が流れている以上、使えないなどという事はないと思うが・・・

 力の使い方が解っていないだけなのかもしれんな」


アーマスが魔法を使えないのは、幼少期に魔法に慣れずに来たためである。

新品の風船を思い浮かべるとわかりやすい。

薄く小さい風船は、少ない空気でも簡単に膨らむし、一度膨らませれば

二度目は軽く膨らむ。


これと同じで幼少期から魔法に親しんでいれば、

少ない魔力でもすぐに発動できた。


しかし、それをせぬまま成長を遂げ、魔力のポテンシャルは高いものの、

薄く小さい風船は、分厚く、大きな風船へと成長している。

そのため、最初に風船を膨らませるのに、大量の空気が必要になるほか、

慣れにも時間がかかるようになってしまっているのだ。


故に魔法を使うためには、大量の魔力を一度に練り上げ、出力する訓練を

それなりに続けなければ、自由に魔法を使うのは難しいだろう。


ミステイシアは、アーマスの状態云々は知る由もないが、

ひとまず反復練習が必要な事は理解できていたため、それをレクチャーしていた。

だが、本当になんの知識もないアーマスが説明を受けてすぐに理解できるはずもなく・・・


そんな話をしているうちに、ミリシアがスライムを倒したようだ。


「あ・ん・た・たちぃぃぃッ!!

 なぁぁにだべってんだよ!!

 人が戦ってるってのに、

 呑気におしゃべりとは・・・

 いいご身分ですねぇぇ!?

 あぁぁーーーん!?」


ブチギレてらっしゃる・・・


「ミリシアご苦労。で、スライムは何かドロップしたか?」


ミステイシアが尋ねた。


「ううん・・・『スライムの粘液』くらいかな・・・

 ねばねば・・・べとべとする・・・うぇ・・・」


「こんな物でも貴重な素材だからな。空瓶くらいくれてやるから、

 そこに入れておきな」


何処から取り出したのかミステイシアは空瓶をミリシアに手渡した。


「さて、役立たずども、隣の部屋にいくぞ」


ゴミを見るような視線を”役立たずども”に向けるミステイシアとミリシア。

再び細い通路に出て、すぐ隣のフロアが見えてきた。

ここは厳重な扉が設置してあるようだ。


「私だ。開けろ」

「音声認識・・・”ミステイシア”を認識しました。

 ドアを開きます」


以前どこかから聞こえてきたシステムAIの声である。

ドアが左右に開き、フロアの中に入っていくミステイシアに続き、三人も中に入った。

全員が中に入ったところで、扉は自動的にしまった。


「ここが地下1階の拠点として使えるセーフティエリアだ。

 音声認証、指紋認証、顔認証など、登録さえすれば自由に出入りが出来る。

 逆に認証されていないものは入れない」


「なるほど、魔物の脅威もなくゆっくり休めるわけだな・・・

 の、割には・・・何もなくね?」


「あぁ、ぶっ壊しといた」

『は!?』


三人はハモった。


「直近で2名・・・お前たちより先に中に入った人間がいるんだが、

 そいつらが作った諸々・・・ぶっ壊しといたぞ!」


何故か誇らしげなミステイシア。


「お前はアホなの!?なんで折角作ったもの壊しちゃうの!?

 後の人が楽できていいでしょ!?」


「何を言うか!一から全てを作る・・・

 その楽しみをわざわざ用意してやったのだぞ!?

 なんで怒られにゃならんのだ!?むしろ褒めるところだろうが!?」


三人はガックシ肩を落とした。


「まぁ・・・ゆっくり休める場所が確保できてるって前向きに考えようよ。

 それにしても、やっぱ先客いたんだね。

 

 地下迷宮に入るなら、力を奪われて弱くなるから、

 先に入った人間と、そう差はつかないって楽観視してたけどさ、

 実際、外と中とじゃ時間の流れる速さが違うんじゃ

 結構先に進まれてるんじゃないのこれ・・・」


「ミリシアの言う通り、先に入った二人は、お前たちよりも

 確か1日くらい早く訪れてたから・・・

 ざっと30日の差がついてるわけだな」


「結構ヤバイんじゃないか?ラキット・・・」

「いや、ミステイシアの事だから、そいつらもゼロスタート・・・

 寝床やら必要なものは用意してなかったわけだろ?

 2人って話だし・・・人手も足りてないはず・・・

 そうなれば中々探索に本腰を入れられてないんじゃないか?」


「あぁ。ラキットの言う通り、まだ、そんなに深くは潜ってないと思うぞ。

 あの二人、別個で地下迷宮に入ってるし、顔合わせはしたものの、

 協力関係には無いようだからな。実質各自が単独行動しとる」


「2人はパーティではなかったんだな。じゃあ・・・ひとまずは放置でいいかもな。

 まずは自分たちに集中しよう・・・先当たっての問題等洗い出して

 今後の方針を決めようか」


「そうそう、紹介するのを忘れとったな!

 AI、そんな隅っこに隠れてないで出て来い!」


ミステイシアが声をかけると、奥の壁際で何かが動いた。

それは人型をしたロボットだった。


「!・・・ロボット・・・!?」

「そうそう。すごいだろう?古代人のテクノロジーというものは

 現代の文明レベル以上だったからなぁ。

 

 天界人ウーラネウスは、魔力で迷宮を生み出し、

 それに古代人の残した特殊な機械を用いて、

 ダンジョンをこのように一変させたわけだ。

 

 このロボットも、その機会で生み出されたようで、

 各層の拠点エリアに一体ずつ配置してある」


人型ロボットが、まったく違和感なく人と同じように歩いて近づいてきた。


「ラキット様・アーマス様・ミリシア様、宜しくお願い致します。

 この階層のシステムAIです」


「どうして俺たちの名前を・・・?」


「ここに来るまでのやり取りなど、モニターしておったからな。

 すでに個体名称と音声認識も済ませておる」


「私に出来る事であれば、何なりとお申し付けください」

「まぁ、こいつはこのセーフティエリアからは出られないから。

 この中で出来る程度の手伝いだけだ」


出られないというのは、ロボットが破壊される危険があるためである。


「具体的には何が出来るんだ?」

「『素材変換装置』・『階層テレポート装置』・『メディカルポッド』・

 『アイテム製造機』などを作る事ができるぞ。

 まぁ、それらは我がぶっ壊したから、素材等を集めて、

 また一から作ってもらうしかないけどな!」


「なんか一度に言われても把握できないけど、おいおい詳細を教えてくれ。

 よろしく頼むなAI」

「よろしくねエーアイくん!」

「世話になるぜ!」


「ちなみに我もお前たちに同行することを決めたぞ!

 気軽に『ミスティ』と呼ぶがいい!」


と、いきなりついてくると言い出したミステイシア。


「・・・それはいいけど、守り人としての役目はいいのかよ?」

「何をいっとる?思念体は常に入り口に待機しとる。

 本体の我は暇をもてあましとるんじゃ!」


「威張られても・・・」

「ただし、お前たちの手助けはしないから、そこら辺はよろしくな」


「なんだよ!お前さんが力を貸してくれれば楽出来ると思ったのに!」

「アーマス、そんな事じゃ、いつまでたっても弱いままだぞ?

 エンドレスブルーを手に入れるんだろう?だったら楽をしようなどと思うな!」


「ねぇねぇ!エーアイくんに『素材変換装置』って奴がどんなものか、

 教えてもらったんだけど、素材から水も交換できるみたい!

 さっきの『スライムの粘液』と・・・輝石・・・?

 なんか他の交換レシピも、この”輝石”ってのが必要みたいだなぁ・・・ブツブツ」


アーマスが説教を受けてる間に、ミリシアは、

すでに気になる情報をAIに聞いていたようだ。


「マジか!ただスライムの粘液ってのが、ちょっとあれだが・・・

 まぁ・・・これだけの科学技術だし、どうにかなるんだろうな・・・

 あ、でも・・・まずはその交換装置を作るための素材が必要なんだよな・・・」


機械を組み立てるのに必要な素材が、ここで手に入るのかと、

少し疑問に思うラキット。


「当面の水は持ってきてるがよ、早くその装置を作るか、

 別途、水源を見つける必要があるかもな」


「だね・・・てか、今思ったんだけど、この地下迷宮って、

 灯りも空調も完備されてるけど、逆に水源とか残ってるの・・・?」


ダンジョンには湧き水や地底湖など、意外と水を確保できる事は少なくない。

だが、それはあくまでも自然に近い形で構築されているものである。

ここのように床や壁を整地されているダンジョンに、果たしてそんな

自然の産物が残されているのかは、確かに疑問ではある。


「あ~・・・そこら辺は心配するな。

 奥に進んでいけば、これまで地下迷宮に入った奴らが水源を求めて

 せっかく整地した壁や床やら破壊して、湧き水が出てるところもある」


「なるほど・・・それは助かるな。

 ちなみに、ここの機材とは違って、破壊された壁や床は放置したまんまなんだな?

 てっきり全部埋め立てて嫌がらせしてると思ったが・・・」


「我も流石にそこまで鬼ではない。水は生物にとって必要不可欠だからな。

 そこだけは勘弁してやったのさ」


「そいつはどーも。

 んじゃま、今後について、作戦会議でもするか」


4人は円になって床に座り、今後についての方針を語り始めた。


次回に続く

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Bruise Claw<ブルーズクロー> しろん @siron2024

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