第10話
Bruise Claw<ブルーズクロー>第10話
【ギルド・牙の拠点】
「・・・エンド、奴らが『ウーラネウスの地下迷宮』の試練をクリアしたようだ。
興味深い情報も聞けた」
「ありがとうフウマ。お前の”シン”・・・相変わらず便利だな」
シン・・・<神力>による超常的な能力をいう。
神術・神通力、あるいは念動力・霊力・超能力など、東の国での呼称は様々であるが
一般的なオラクルのような天啓を受けず、自身の”こうなりたい”、”こうしたい”という
強い思いが天力に反応して能力を発現させるという。
東の国ニホンと、その周辺で生まれた者特有の能力である。
フウマのシン<もう一人の自分>は指定した人間の感覚をジャックできる。
以前、タマスの町の酒場でラキットとアーマスと会食をした際に、
ラキットに能力をかけていたようだ。
そこで聴覚を共有し、情報を得たというわけだ。
ちなみに、この能力は発展途上であるため、現状一つの感覚のみを共有という形で
実現しているが、五感すべてはおろか、自身と同じ姿形を生み出し、
別行動をさせるまでのポテンシャルも秘めている。
が、現状は一つの感覚を共有する程度が限界のようだ。
「セブンスダンジョン・・・やはり、ただお宝が眠ってるだけではないようだ」
「聞かせてくれフウマ」
フウマはラキットを通して知り得た情報を仲間たちに伝えた。
・・・・・
・・・
「なるほど・・・時間の流れが停止した世界か。
んでもって代償としてオラクルは含まれない・・・と。
これが解っただけで十分すぎる成果だ・・・よくやってくれたぜラキット」
「・・・」
無言でエンドを見つめるフウマ。
「もちろんお前にも感謝してるさフウマ」
「報酬さえ貰えればそれでいい。それじゃあ力は解除するぞ」
「OK、金は振り込んでおくさ。お疲れ様」
フウマは能力を解除した。
「それで、どうするのエンド?」
ゼルディアが質問する。
「あぁ。セブンスダンジョンの攻略に向かおうか。
手分けして攻略・・・と行きたい所だが、実際どんな感じか、
まず一つを皆で攻略してみて、その結果次第、どう動くか決めようか。
あ・・・ゼルディアとロッドは予定通り『ウーラネウスの地下迷宮』に行ってくれ」
「本当にラキットちゃんのお手伝いしても?」
「まぁ、あくまでも”当面の間は”・・・な」
「最終的にエンドレスブルーを奪えとおっしゃる・・・
相変わらず酷すぎますなエンド様は」
この老紳士はロッド・オーバー・・・
またの名を『オーバーキル』・・・いつもやり過ぎてしまう事から
このような二つ名で呼ばれている。
「人聞きの悪い事言うなよロッド。お前があいつと遊びたそうにしてるから、
そういう”てい”にしてやっただけだろ?」
「まぁ・・・そういう事にしておきましょうか。
とはいえ、ラキット坊ちゃんが、遊ぶにたる成長がなければ、
もしくは、自力でのエンドレスブルー入手に時間がかかるようであれば、
我々が先にエンドレスブルーをGETし、帰還致します」
「OK。それで頼む。
じゃあ準備が出来次第出発してくれ。その際にリーナ、二人の送迎よろしくな!」
「わ、わかりました・・・!」
・・・・・・
・・・
【ウーラネウスの地下迷宮】
「なんか・・・体が重くなった感じがするな・・・」
アーマスとミリシアは、そう語るラキット顔を見合わせて頷いた。
「本当になんか弱くなった感じがする・・・わかってた事とはいえ、
実感としてこんなに感じるものなんだね・・・」
「俺の肉体美が、なんか貧弱になってる・・・気がする・・・」
「さぁ、さっさと行きな。この扉の先だ」
片腕のミステイシアが、さっさと行けと言わんばかりに親指を立てて合図している。
「ミステイシア、いろいろと世話になったな」
「世話?そんなもんしたつもりはないが・・・とにかく頑張って来い。
力をつけ、無事にエンドレスブルーを手に入れられるといいな」
ミステイシアに別れを告げ、ラキットは扉をくぐった。
「力の制御、教えてくれて助かったぜ」
「いつでも平常心を忘れるなよ」
アーマスも続く。
「・・・ラキットは渡さないからね」
「ふ・・・せいぜい頑張る事だなミリシア」
何故か正妻の余裕を感じたミステイシアに苛立ちながら扉をくぐった。
「行ったな・・・」
フッ・・・とミステイシアは姿を消した。
・・・・・
・・・
「よっ!」
『はぁ!?』
扉の先に待っていたのは、今しがた別れたばかりのミステイシアだった。
腕が元通りくっついている。
「瞬間移動・・・?」
「いや、我が本体で、守り人は我の思念体。
出したり消えたり自由自在」
試練中、ミステイシアが煙のように消える瞬間が幾度もあったが、
あれはどうやら超スピードによるものではなく、物理的に消失していたようだ。
「よくよく考えれば、腕が斬れてもやけに出血しないなと思った・・・」
「コホン・・・まずは、ようこそウーラネウスの地下迷宮へ」
前の部屋に引き続き、部屋は明るく、暑くもなく寒くもなく快適・・・
だけど・・・ダンジョン特有の獣臭と、複数の気配を感じる・・・
魔物がウジャウジャいるって話も本当のようだな。
ここは入口であり出口のあるフロア・・・
敵はいないし、ものも何もない・・・30畳くらいか。
外壁は変わらず灰色・・・床は白で発光している・・・
「それじゃあ、ちょいと紹介しようか。
隣の部屋にいくぞ」
三人はフロアを出ると、細い廊下に出て、ほどなくして、
先ほどと同じくらいのフロアに出た。
ミリシアは几帳面にマッピングしている。
流石である。
「!・・・早速か・・・!」
ボトボトボト・・・
5mほどの高さの天井から前方に何かボトボトと落ちてきた・・・!!
大きさは1mほどだろうか・・・
「スライム・・・!!」
「普段なら、どうってことない相手だけどよ・・・今、武器がないんだよな・・・」
とにかくぶよぶよしているため、打撃が効きにくい。
「ここは私が・・・!ホーミングニードル!!」
・・・シーン
「げ、出ない・・・!?」
魔法力が底をついているのか、もしくは使用に必要分の魔法力がないのか・・・
おそらく後者か。
力を奪われた事によって、発動に必要なだけの魔法力が今のミリシアには無いのだ。
「無視も出来るが・・・そんな事してたら強くなれないか・・・
どうするよラキット・・・」
「とりあえず殴り続けるしかないだろ!」
ラキットは駆け出し、思い切り蹴りを入れる!!
が、やはり効果は薄いようで、足あとが付いた程度である。
「プッ!」
スライムがラキットめがけて粘液を飛ばしてきた!
「!く・・・」
これまでのラキットの素早さが嘘のように、まったく精彩を欠いた動き・・・!
スライムの粘液をかわしきれず、腹部に付着した!
「アチチ!!消化液か!?服が溶ける・・・!」
「くそったれが!!」
アーマスの渾身の下から突き上げるアッパーカット!!
スライムは吹っ飛ばされたが、やはりこれもダメージらしいダメージを感じない。
「だーっ!!俺のパワーでも全然効いちゃいねぇ!
やっぱ刃物がなきゃダメだこいつは」
「だな・・・ここは一旦退いて、武器になりそうなもの見つけるか・・・」
「おいおい、情けない男どもだな・・・ミリシアを見てみろ」
彼女は目を閉じ、集中している。
「魔法力を大きく消費する魔法は使えないなら、
ひとまず今の魔法力でどうにかできる方法を考える・・・!
刃があればいいんでしょ・・・!」
ミリシアの右手に魔力が集中している!
「刃のイメージ・・・刃のイメージ・・・!!
もっと鋭利で・・・切れ味抜群なイメージ・・・」
ミリシアの頭のイメージが魔力を刃にかたどっていく・・・
とはいえ、とても剣と呼べるものではなく、手の形にプラスして、
刃状の魔力がちょっと出てるだけだ。
「素手で殴るよりは効果あるでしょ、こんな付け焼刃でも・・・!!」
ミリシアは駆け出し、右手の刃をスライム目掛けて振り下ろした!
バシュッ!!
「・・・斬れた!」
「おぉ!ミリシアすげぇ!」
「そうか・・・俺は魔力操作は上手くないからミリシアみたいな事はできないけど
『気』ならどうだ・・・?ゼル姉に少しだけ気功術を学んでた事がある・・・」
とはいえ、結局ラキット、気の感知および、視る程度しか出来ず、
それ以上の訓練を怠っていた。
「集中・・・集中・・・」
ラキットは目を閉じ、集中を始めた。
次回に続く
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