03話 やっぱりなしで……はできますか?

 



 俺と親友は、一番上に到着した。

 親友は俺をそっと下ろす。

 一番上に、部屋は一部屋しかない。その一部屋はもちろん俺の引きこもり部屋だ。

 まだ中を見ることはできていない。

 親友がまだ、部屋の鍵を開けていないからだ。

 本当に早くしてほしい。極限まで眠くなっているから、あとは思いっきり新品の布団で眠りたい。

 ねえ、親友……。早くこの扉を開けてほしい。


「もちろんいいよ! もうこの城はレインディーのものだからね!」


 親友はどこからか、黒い紐についた金色でシンプルな鍵を取り出した。

 そして、部屋の鍵穴にその鍵を差し込む。

 ガチャっという気持ちのいい音が鳴って鍵が開いた。

 そのあと、鍵と一緒に、鍵についていた黒い紐を俺の首に下げさせる。シャランと金属と金属が当たる音がする。


 ねえ、親友……。

 あまり首につけるものが増えると困るんだけど。


「それぐらい平気だよ! 大丈夫だって。首が絞まって、最終的に体とさようならするわけじゃないんだから!」


 そうならないってだけで、首が絞まる可能性は十分にあるってことなんだよね。

 それは怖いんだけど……。


「そんなことは気にしなくていいよ? もしそうなっても、私がすぐに助けてあげるから」


 そっか。親友……、ありがとう。


 そう言ったら、親友が嬉しそうにクネクネと体をくねらせる。 

 笑顔だから、機嫌はいいと思うんだけど、そのクネクネした踊りはよくわからないな。嬉しいのはわかるんだけどね。


 ねえ、親友……。

 扉、開けてもいい?


「もちろん! だってもうこの城はレインディーのものだからね!」


 やった。よし、開けよう!


 俺は、焦茶色で金色のドアノブがついた扉を手で掴んで、外側にバッと開ける。という妄想をした。

 したくて、その妄想をしたわけじゃない。

 そう開くと思い込んでたんだから仕方がないじゃないか。


「ブフッ…………w!!」


 ねえ、親友……。

 笑わないでよ。

 ちょっと間違えた俺自身が恥ずかしくなった。

 だから今度はそんな妄想をせずに内側にバッと開ける。


 今度はちゃんと開いた。

 そして俺は、今までずっと見えていなかった俺の引きこもり部屋になる部屋の中を見た。


「…………!!」


 広い……!!部屋もだけど、何より布団が。

 それに布団が豪華になってる!

 大きいし、高さがあるし、枕の数も前の部屋の3倍だ。しかも床にはふわふわの布団が敷いてあって、硬いところはなくなっている。つまり高さのある布団から落ちたとしても体が痛くならない!

 明るさもすごくいい。部屋の3分の1くらいはガラスになっているけど、それも星空色のカーテンをつけることによって明るすぎない暗さになっている。


 俺は部屋の中に足を踏み入れる前に、親友に近づいて耳元に口を寄せる。


「ぁ……りが……とぅ……!!」


 ふふ……。

 親友の顔は一気に真っ赤になった。


 そのあと、俺は部屋の中に足を踏み入れる。

 一歩一歩進んでいくたびに、ふわふわな布団が俺の足を包み込む。

 ああ……、できることなら今すぐ布団に倒れ込んで眠りたい。だけど、今回だけはそれは我慢だ。

 俺は大きくて高さのある布団に行くまで絶対寝ない。


 一歩。また一歩と進んでいく。

 進むたびにフラッとなって倒れて眠りそうになる。

 その眠りたいという欲望を俺は抑え込む。

 ものすごく辛い。だけどそれは今だけ。今だけなんだ……。


 やっとのことで、高さのある大きな布団に辿り着く。

 たどり着いた瞬間、俺はフラーッと体を傾け、その布団に飛び込む。

 足だけにあった、包み込むような感覚が全身に広がっていく。


 はぁ……!!


「…………!!!!」

 

 俺は幸せでいっぱいになって、足を交互にパタパタと動かす。

 枕にバフッと抱きついて、毛布にくるまって、あっという間に俺は夢の中に吸い込まれていった。



 そのあと、この城の中で何が起こっていたのか、俺は知らない。



 ◆◆◆◆



「ぉ……ぅ…………す!」


 んん?だれ……?


「おは……ござ……す! 魔王様!」

 

 えっ。親友じゃない?……この声は、誰?

 それに、魔王……様?何それ……。


「おはようございます! 魔王様!」

「おはよう! 魔王レインディー!」


 あれ?今度は親友の声も聞こえた。

 でも……二つ、三つ……いや、もっとたくさんの声が重なっている。


 おかしいと思って、俺は目を開ける。

 そこには、親友と……あったことがない生き物たちがいた。


「魔王様が目を覚ましたぞ!!」

「「「「「「「「「わぁ!!!!」」」」」」」」」


 なんか、俺が起きたことを勝手に盛り上がっている集団がいる。

 というか、ねえ、親友……。

 なんでこんなに知らない人がいるの?


「それはね、レインディー。君がこの子達の王様。魔王様になるっていう契約をしたからだよ!」


 えっ……?

 俺、そんな契約してないんだけど。


「えっ? レインディーは誓ったよね? 魔王城の主、魔王になるって誓ったよね?」


 ねえ、親友……。

 俺、そんなこと誓ってないんだけど。


 戸惑っている俺に、親友は契約書を自分から取り出して、証拠を見せつけてくる。


「ほら、ここに書いてあるでよ?」


 えっ!……あれ、なんで。


「………………」


 親友が見せてきた紙には、確かに魔王城の主、魔王になる。と書いてあった。それ以外にも身に覚えのないものが書かれている。

 何これ……。


 心当たりがなさすぎて混乱する。


 ねえ、親友……。

 これって、やっぱりなしで……っていうのはできる?


「できるわけないじゃない! だってこの誓いの紙は神が作った最上級品だよ?」


 そう俺が親友に聞くと、親友は、口だけにっこりと笑ってそう返した。

 神が作った誓いの紙って、確か……小さめの家が一個買えるくらいの値段じゃ無かったっけ?


「えっ、豪邸が一個買える値段だけど?」


 えっ?高くない……。じゃあ、無かったことになんてことは……


「できるわけないよ? それに、レインディーが無かったことにしちゃったら、ここにいる魔王の配下になる予定の子達はどうなっちゃうの? レインディーはこの子達を追い出すの? こんなに可愛いのに?」


 う゛っ……。親友、ずるいよ……。

 情に訴えるなんて。

 俺が友達少なかったせいで、数少ない友達のお願いに弱いの知ってるくせに……。


 断りたいのに、断れない……。

 どうしよう……。





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引きこもりは魔王になった!! 語 おと @waonn_towa

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