第51話 世界を救う

「おぉ。ヤブ治癒士。会いたかったぞ!」


 王城へとやって来て、僕は言われるがままに謁見の間へとやってきたわけだけど。急に歓迎されているムードで驚いた。


 一体何があったんだろうか。


「はっ。この度は何の件でしょうか?」


「王に勝手に質問するのは許可されていないぞ!」


 横から家臣と思われる者に怒鳴り散らされる。

 やはり、この国の王は良い人だが、重鎮と言われる人達はなんだかおかしい。


 偉そうにしたいだけのようにさえ思えてくる。

 僕は怒鳴られたので黙っていると。


「ハンゲ大臣、そちが静まれ! 今、ワレはヤブ治癒士と話しておる!」


 さっき怒鳴り散らした者は身を小さくして後ろに下がって行った。一体何がしたかったのか。この国のそういうところは正す必要があるのではないだろうか。


「ヤブ治癒士よ。昨日の怪我人の治療、ご苦労だった。敵国の者も直して、側近が刺されたと聞いたぞい? 大丈夫かえ?」


「はっ。なんとか治療することができました」


 頭を下げながらも、自国の兵士に刺されたんだけどね。という言葉が頭をよぎった。


「メル大尉から報告は受けておる。刺した軍曹はもう居ない。安心せえ」


「はっ。有難う御座います」


 再び頭を下げる。

 どこに行ったのか、居ないとはどういう意味かとか。

 思ったけど、深入りしないことにした。


「それでな、呼んだのはな……」


 一瞬の沈黙。

 一体何だろう?

 何かしただろうか?


 敵国の人を助けたから打首とかそういう事じゃないだろうな?


「敵国から友好的な形で紛争を終わりにしたいと言い出してきた」


「それは、いい事ですよね?」


「あぁ。そうだ。ワレの力ではない。石化の薬を作り、敵国をも助けたというヤブ治癒士の力だ」


 僕の力とはどういう事だろうか?

 あまり意味がわからないが。


「私の……ですか?」


「さよう。石化の薬は敵国でも売られていた。もちろん、本国の三倍の値段だがな。だが、売れている」


 そんなに高く売りつけているのか?

 一体この国はどれだけの利益を得ているのやら。

 それに関しては、僕が口を出すところではないだろうけど。


「昨日の自国の兵士にまで歯向かって命を張り、敵国の兵士の命を助けた。それは、瞬く間に敵国にも広がったそうだ」


「なるほど。歯向かうと言いますか。兵士の方が命を粗末にする言動だったので……」


「そうだな。軍曹が命を軽んじていたのが原因だ。だから、罰を与えた。それは置いておいて。そのおかげでな、敵国が歩み寄ってきたのだ」


「終わりにしよう。そう言ってきたということですか?」


「そうだ。こっちもタダでという訳には行かん。こっちに人質のような形にはなるが、人を寄越せと言ったのだ」


 それは、殺してしまうのだろうか?

 命を粗末にするのなら、僕も黙っては居られないけど。


「まぁ、そう怪訝な顔をするでない」


 無意識の間に、眉間に皺を寄せてしまっていたみたいだ。


「すみません。ちょっと、隣の国の人を案じてしまって……」


「ハッハッハッ! 命に関しては修羅のようになるのだな。うむ。なおよし。別に隣国の者を取って食おうとしている訳では無い」


 であればなんでだろうか。

 思わず首を傾げてしまった。


「わからんか? 他国には人質と取れるようにしておいて、実際には本国に治癒士を招いてヤブ治癒士の元で学ばせようと思ってな」


 思わぬ提案に、目をパチパチと瞬きしてしまった。

 なぜ、僕の元なのだろうか?


「私の元で……ですか?」


「さよう。もうヤブ治癒士の知識は、世界を救う為にあると言っても過言では無い。治癒魔法が効かなくなってからというもの、医療は廃れていた」


 本当にそうだろう。

 この廃れ具合はどうにかしなければ、死人が増えていくだけだ。


「私も目の当たりにしましたが、あまりにも酷かったですね」


「そうだろう? だからな、世界に広めようと思うのだ。ヤブ治癒士の治療法を。本国から発信する」


 この国が発祥の医療が世界へ広まる。国としては相当な発展をすることだろう。なるほど、僕を利用したいということか。呼び出された意図がわかった。


「なるほど。そうするからには、私にもメリットがおありなんですよね?」


「ハッハッハッ! そういうところ、しっかりしておるな。そうだ。ヤブ治癒士の医療を広めることを、国の事業とすることにする」


「ということは、国の予算から私の元にも降りてくるということですね?」


「うむ。そういう事よ。必要なものは国が用意する。なんでも言うがいい」


「有難う御座います。私の知識の医療には、必要な道具が色々あります。それを用意して貰えますか?」


「担当をつける。そやつになんでも言うがいい」


「ありがたき幸せ」


 膝をつき、頭を下げる。

 それをみた国王は「頼んだぞ」と言うと僕は外へと連れ出された。


 何かしたとかじゃなくて良かった。

 安心したぁ。

 城を出た後に見上げた空には青が広がっていた。


「はぁぁ。なんか今日だけで色々あって……頭がキャパオーバーするなぁ」


 ダラダラと歩いているとユキノさんとメルさんが迎えに来てくれていた。


「あっ! ヤブせんせー! 大丈夫でしたー?」


「せんせぇ。なんでしたぁ? 国王の用事」


 何やら距離が縮まった気がするユキノさん。メルさんは気にかけないようにしている感じだった。


「なんか、隣国が終戦をお願いしてきたらしいんだ。それで、僕がその国の治癒士に、医療の知識を教えることになった」


「わぁ。よかったぁ。ヤブ先生のおかげですねぇ」


 その言葉に照れながら頭を搔く。


「いやー。そんな事ないよ。国の事業になるから、担当者に色々言ってだって」


「凄いですぅ。ようやくヤブ先生の凄さが、クソ脳みその硬いジジイ共に叩き込まれたみたいですねぇ。あの生意気な軍曹も始末されたみたいだし。よかったよかった」


 なんか聞かなかったことにしよう。


「先生、これから、世界を救うための準備ってことですね?」


「そうだね。一緒に頑張ってくれる?」


「はい。当たり前です!」


 ユキノさんとのこの世界を救う日々が始まるのだ。

 初めはどうなる事かと思っていた、僕のこの世界を救うという夢は実現していく。


 怒涛の日々から安定した日々へと移行し、ユキノさんとメルさんと主に世界へと地球の医療を広めていくことになる。


 僕とユキノさんの関係がどうなったかは、想像におまかせすることにしようかな。

 

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ヤブ医者、治癒魔法の耐性ができた世界で人々を救う ゆる弥 @yuruya

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