どんと・たっち・みー
間川 レイ
第1話
ちょき、ちょき、と。
ハサミの私の髪を切る音がこだまする。伸びすぎた髪をボブに戻す作業。私の頭の角度が悪かったのか、美容師さんがそっと私の頬に手を当て、少し力を籠める。頬に感じる固い手のひらの感触。大きくて、ごつくて、生暖かい。ああ、嫌だなあ。私は内心一人ごちる。私は他人に触られるのが嫌いだ。他人の熱を感じるのが嫌いだ。
何故か、と言われると答えるのは難しい。幼い頃、よくお父さんに殴られていたのが原因かもしれない。なぜこんなにも成績が悪い、お前はなんでもっと努力しないと髪をつかんで引きずり回されたことが原因かもしれない。髪の毛をつかんでがくがくと頭を揺さぶられるときのあの感覚。髪の毛がぷちぷちと千切れる感覚を思い出すから他人に触られるのが嫌いなのかもしれない。
でも、本質はもっと別の部分にある気もする。普段触れられることの無い私の身体。そこに他人の熱を感じることの抵抗感、というのはあるように思う。普段、私でも触らないような場所に感じる他人の熱というのは、たまらなく気持ちが悪い。
だから私は恋愛が嫌いだ。他人を好きになるのも好きになられるのも嫌いだ。恋愛というものに、他人の熱というのはつきものだから。スキンシップとしてだけではなく、気持ち的な部分においても。恋愛につきものの、じっとりとしたこちらに好意を向ける目線が気持ちが悪い。私だけを特別視するそのまなざしが気持ちの悪い。私ともっと親密になろうという、その下心の透けて見える視線にはうんざりする。キスをするのは気持ちが悪いし、ハグをして他人と身体を密着させるなんて耐えがたい。セックスなんてもってのほかだ。
多分、私は私の内側に誰も入れたくないんだと思う。私の身体は、私だけのもの。私の心も、私だけのもの。そこに余計な熱を持ち込みたくない。他人の熱を、感じたくない。普段触れられることの無い私の内側。そこを余計な熱で、汚されたくない。
再度、頬に感じる生暖かい手のひらの感触。ぬらりと撫でまわすような手つきに熱が染み入ってくるような心地がする。だから私は再度内心呟くのだ。ああ、気持ち悪いなあ、と。
どんと・たっち・みー 間川 レイ @tsuyomasu0418
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます