第22話 ダンジョン高専模擬戦大会

 舞祈禱師を増やせば強力な二重バフが掛けられるので、引き受けざるを得なかった。

 9月26日に関東代表の我が校と、北日本代表の仙台高専との戦いが、福島の5キロダンジョンの2キロエリアの草原で行われた。

 西本州代表と九州四国代表の勝者が、西日本代表として、東日本代表と戦う予定になっている。


 北海道は北日本代表戦で仙台に敗れた。

 キンクマさんに憧れて入ったシェイプシフターの巣だったので、ライカンスロープばかりの仙台に負けてしまった。 

 関東では不戦勝で八王子の代表が決まった。

 フュージョナーの多くが八王子関係者で、他校が人数が揃わなかった。


「で、どう言う順で出る。ガハラを大将にするのは決定だが」

「先鋒はあーしとハヅキで。後は何処でも勝つっしょ」

「そうなんだが、出来たら西日本戦までガハラを見せたくない」

「なんで」

「秘密兵器は最後まで見せない」


 相手のあることなので、姑息な策を弄しても無駄だろうとなって、忍者、遊撃手、遠、近の順になった。  

 直径50メートルの低い柵を設置して、明らかにそこから出たら負け。

 上を飛んでいるのは、逃げたのでなければ構わない。

 ライカンスロープは戦闘不能になって生身に戻ったら当然負け。

 シェイプシフターは生身の安全を考慮して、霊晶甲が剝がれるほど破損しても負けになる。


ー仙台sideー


「これは、どう見る。二年は兎も角、一年二人とは」

「フュージョン出来たのが少ないんだろう。関東は八王子の不戦勝だからな」

「三年4人で決めるつもりか」

「二年2人も侮らない方が良い。自分より強いのを連帯で倒すのが基本なんだから」

「気を付ける」

「よし、いけ」


「おい、なんだ、山猫羽根生えてるぞ。鳥はクマタカか、あの頭。本気で初戦取る気だ」

「捨て駒じゃないってことだ」


ー八王子sideー


「初撃はワタシにやらせて。ケーコが蹴ったら一撃で終わる」

「やっちまっていいぞ。二人掛かりでボコって、戦闘不能で出て来た生身をやったらやばいからな。その代わり決勝はあーしがやる」



 第一試合は葉月さんが、いきなり相手の狼頭を強打強蹴で蹴って、戦闘不能にしてしまった。

 生き物じゃないと言っても、頭蓋骨が飛び散るのは見ていて気持ちのいいものじゃなかった。


 二戦目、同じ狼頭とケイコ姉の上位互換の忍者の人の戦いは、もっと酷かった。

 前蹴り一発で頭が爆散してしまった。

 修復用に、入り口山羊の霊核を上げた。


「これ、7キロのじゃないだろ」

「遠慮するほどのものじゃない。夏休みに沢山獲った雑魚のだ」


 三戦目は鷲頭と遊撃手の人だったが、鷲とクマタカでも基礎能力の差はどうしょうもない。

 遠藤先輩は、山羊頭の角を持って場外に捨てた。戦闘としてはこの方が酷い扱いかも。


「これで、勝敗は付いたのですが、まだ戦いますか」


 引率の教務主任が相手方に確認をする。


「やらせて下さい。絶対に敵わない敵と戦っておくのも、経験だと思います」


 近藤先輩の豪突の掌底を腹に受けた山羊頭は、背中が破裂した。


「向こうがやるって言うから、しょうがないな。最弱の一年組を大将にして、強いのを先に出して勝つつもりに見えたのかも知れん。最後の一人くらいは勝つ気で来るだろう。死ぬ事がないから気楽に行け」

「はい。強いのとやりたいなら、やってあげます」


 つかさちゃんと二人で草原のリングに入る。

 全国放送で配信されるので、生身での全裸は禁止された。変身するし。

 相手の大将は、狼頭だった。

 試合前に中央で挨拶をする。


「一番強い人は、もう出てしまったんですか」

「いや、俺が一番だ」

「なら、遣り甲斐があります」

「そっちはお前が一番なのか」

「戦闘は、僕じゃないです。いや、獣身は僕の方が強いか」

「なら、それで戦ってくれ」

「そっちは9キロ物です。一対一だとキンクマさんでも勝てません。このフュージョンボディのベースも7キロのURですけど」

「なんだそれ」

「ネコミミズクです」

「洞爺湖のワシミミズクのURか。一年で格違いの獣身持ち。翼もない俺では奥の手を出すこともないか」

「始めて貰っていいかな」


 審判の人に促されて、開始位置に立つ。


 白い翼を広げたつかさちゃんの鈴腕輪から妙音が流れ、力が溢れて行く。

 向こうの大将は受けの姿勢で動かない。

 一気に相手の処まで飛び、後ろに回って抱き付いて持ち上げ、仰向けで飛んでバックドロップで場外に投げ捨てた。


 帰ろうとしたら引率の先生が、向こうの引率につかまっていた。


「負けた方が謙虚になると思ってやらせたんだが、これは酷いな。どうやったらこんなに強くなるんです」

「育てられたら、義賊を育てるといいです。スキルとフュージョンオーブを盗ってくれます」

「彼は義賊? 一年で?」

「怪盗ですよ」

「どうやったんです」

「今年これだけ融合者が増えた原因が彼の情報が元ですが、漆が原は特別です。彼の両親の死が切っ掛けで法律が変わりましたから」

「そんな人間ですか」


 決勝戦は関ヶ原の傍にしたかったらしいが、近所に適当なダンジョンがなく、渥美半島の高木町になった。

 仙台の大将に9キロの獣身持ちなのを言ってしまったので、西日本代表になった大阪に伝わって、6対1でやらせて欲しいと頼まれた。


 なら僕一人が行けばよさそうなものだが、模範試合として公開するので、演出として全員で行って変身して並び、僕一人が疎林に設置されたリングに入り、獣身に転身する。

 相手は狼頭二人、山羊頭二人、鷲頭二人。高能力のモンスターとの戦闘と見なして、全員完全武装している。

 9キロ右奥のモンスターにしては小さいので、強さをアピールするために、周囲の木を剛射で撃って吹き飛ばした。


「まだ見せるものがある」


 戦闘態勢に入った6人を制して、剛伸斬で木を斬り倒す。


「射程が長いだけでなく、ほぼリキャストタイムがない。左右交互なら連続して使えると思え。もう一つ、絶叫に近い射程と威力の咆哮がある。行くぞ!」


 衝撃波の咆哮を浴びせ、6人をばらけさせる。

 飛び上がった鷲を斬り伏せ、地上を撃つ。山羊に当り人間に戻った。

 もう1体の鷲も斬り落とし、リングを出るのを待つ。

 その間に山羊が撃ってきたが、空戦機動を見せるために躱し続けた。


 生身がいなくなってから、躱しながら山羊に近付いて斬り伏せた。

 左右から突っ込んで来た狼を、尻尾を振り回して叩き伏せ、人間に戻した。


「これが、9キロ奥のモンスターか」

「キンクマさん達は、こんなのと毎日戦ってる。他の駐屯部隊の上の人達も」

「先駆者への敬意を忘れた俺達が馬鹿だった」


 初期の討伐隊は、6キロの生体融合と7キロの獣身のシェイプシフターだ。

 ライカンスロープが7キロのモンスターを標準にしてからは、武器の使えない下位戦力と思われていた。

 キンクマさんのように8キロのモンスターを獲れる者が現れても、特異例扱いだった。


 ライカンスロープはフュージョナーの安全強化版だと推定されている。

 その後、8キロのモンスターを利用できるシェイプシフターが、造られたのではないかと言うことだ。

 6キロと8キロのモンスターを持つシェイプシフターが増え、この説が支持されるようになって、シェイプシフターとライカンスロープの確執はなくなった。

 




 ここまでです。やはり、主人公が最強になってしまうと話が続きません。

 もう少し早めに変身出来るようになって、対人戦をやりたかったのですが。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                



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最弱戦闘職のトレジャーハント生活 袴垂猫千代 @necochiyo

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