第21話 マンティコアならぬもの

 吉田さんを加えて、9キロ右に入る。

 デバフの実験は危険なので、二重バフで戦う。

 絶叫の一斉射撃で、食肉系の大型モンスターが怯む。

 お肉盗り放題。


 昨日は出なかった、霊銀の手琴やフルートも出た。

 打ち琴はもう少し奥に行かないと出ないだろうと、奥に連れて行かれた。

 豪伸斬を持っている巨大鷲がいるので、希望者全員分集めた。

 地上は恐竜をオリジナル怪獣に置き換えたジュラ紀。

 各種能力上昇の霊銀の装身具も出て、打ち琴も二組得られた。

 キンクマさんが最新情報を話す。


「霊歌師はないんだけど、霊楽師はちらほら応募があるのよ。やはり、吉田ちゃんと同じで、バックバンドじゃ生き甲斐を感じられないみたい。でも、ここまでの強化を出来るのはガハラ君だけなのよね」

「義賊は他にもいますよね。どうしてるんです」

「あなたほど戦闘力がないの。これからあなたの真似で育った義賊に期待してるわ」


 ダンジョン出現前に大人だった者が第一世代、子供だった僕等でまだ第二世代。

 ダンジョン出現後に生まれた子供の、更に子供くらいが10キロを踏破できればいいと国は考えているそうだ。 


「でも、行ける処までは行って見たい。ここの奥までくらいはね。春にはつかさちゃんも吉田ちゃんも、そこまで行けるくらいになってないかな」

「来年のことは判りませんが、10キロって、どんなとこです? 適性値が120ないと道にも入れないんですよね」


 9キロまでなら中央道だけなら民間人にも行けるのがいるが、10キロは物理的な障壁はないのに入れないらしい。


「入ったことないわ。日本では禁止されてる。他所で入って全滅してるの。何の記録も残さずにね」

「ドローンだけ入れられないんですか」

「入らないのよ。地球産の無生物が入れないみたい。中は霧が掛かってて道からは何にも見えない。中央道の向こうに出口はあるけど、出られるだけ」


 日に日にじりじりと奥に連れて行かれた。

 9月11日に、生命力感知に何かが掛かった。

「僕の2時方向に何か隠れています。獲ってみるので、危なかったら援護をお願いします」


 僕の単独討伐の方が何かがドロップし易い。

8時方向に10メートル以上離れてもらってから、強射を撃ち込んだ。


「ゴギャア!」


 黒っぽい何かが飛び出してくる。

 絶叫を浴びせ、強伸突で突くが、穂先に伸気斬が当たる。

 霊銀の穂先は弾かれはしたが斬れない。

 爪からの伸気が長い。顔は猫だ。背中には翼が生えている。


 大型のモンスターを見慣れてしまった所為で小さいと思ってしまったが、おそらく最大の虎よりでかい。

 もう一度顔に絶叫を吐くと爪で防いだので、その隙に横に回ろうとしたら、尻尾の先を向けて来た。


 黒曜石の槍のようだ。

 伸気突だろうと思って避けたが、地面に気が当たる。

 伸気が長いのかもしれないが、射撃と見た方が良い。

 格闘戦の機動は、ネコミミズクの怪盗の僕の方が上だ。

 戦闘力では、それ以外は上なものがないけど。


 撃たれないように接近して、尻尾を避けながら触る。

 強奪は失敗したが、獣身用モンスターなのが判った。

 後は、盗れる迄触るだけ。

 尻尾を振り回していれば僕を追い払えると思って、逃げなかったのが命取り。


 収納に入った黒曜石の珠を、手に取って融合する。

 特に弄ることはないが、全身黒猫なので、ヘッドオーブを虹彩と同じ明るい琥珀色にした。

 キンクマさん達と合流する。


「どう?」

「獣身でした」

「凄いわ。9キロのこの位置のは世界初よ」

「マンティコア、でしょうか」

「顔が違うな。人間だったはず」

「猫でしたね」

「ニャンティコア?」

「それだ」


 ちょっと待って。


「名前は最初に見つけた人に命名権があったはず」

「それでふざけた名前つけるのがいたから、現場の合議制になったの」

「ニャンティコアがいいと思う人」

「はーい」


 僕以外全員だった。数の暴力。悪い民主主義。

 しょうもない正式名称にされてしまったが、性能は高い。

 高速戦士系が欲しがって、模擬戦をやってみたが、獣身を決めかねていた強い少佐でも勝てない。


「中身がガハラ君だからじゃないか。モンスターは野獣」

「そう考えるのは危険。これは模擬戦だけど、向こうは殺しに来る」


 試しに僕が引付役になって、不意打ちから戦闘をしてみたが、倒し切れずに逃げられてしまった。

 9キロ奥のモンスターなので、小さ目でも防御力も持久力も高い。

14日で僕等は帰る。誕生日から半年過ぎて、ケイコ姉は忍者、ヨシエちゃんは狙撃手になった。


 怒涛の夏休みを終えて学校に戻った僕達を、三年の学年主任が待っていた。

 いつものように悪い顔で笑う。


「凄い成果だったようだね。凄いということしか伝わっていないが」

「で、お話はなんなんですか」


 何故か、一年生の僕が受付だ。


「まだ検証段階で正式に発表されてないのに、君のやり方が駄々洩れでね、この夏変身可能者が大量発生したんだ。秋に全国的な模擬戦をやらないかと言う話になった。誰か、自分の身内を自慢したい、悪い権力者がいたんだろうね」

「どうやるんです」

「高専各校が6人出して選抜戦だ。武器は使わないので、射撃系はなし。三年中心だけど、二年以下は二人一組で出られる」

「何をさせたいんですか」

「7キロのモンスター獲って、増長しているライカンスロープが何人かいる。鼻っ柱へし折って欲しい」


 ルールは6対6で先に4勝した方が勝ち。

 個人の能力を見るために、負けた方からの続行はあり。


「遠近パーティの4人で勝ちは決まってるが、義賊と舞祈祷師を増やすためにも、君等にも出て欲しい」


 人材不足に見せかけるために、もう一組はケイコ姉とカンフーマスターにすると言う。


「普通の三年のライカンスロープなら、須藤一人で倒せるが、ルールで二人一組なんだ」


 翼を得た後修練に励んでいたドゲザーフォーでも負けるとは思えないらしいが、やはり、僕が出た方がインパクトがある。

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