第二章◆玉藻さんと清瀧さん【side 早弥】

 玉藻さんはその後、十五分ぶっ続けで無駄話をしていました。


 はい、あやかしの常識なんて、僕、知ったこっちゃないんですよ。どんなにあやかしが当たり前のように怪奇現象を起こそうが、僕は動揺しちゃう。当たり前ですね。何せ僕、本当ならこの間まで、ただの人間だったんですから。


 せわしないお姉さんだなあと思いながら、話が終わるのをずっと待っていた。最初は正座していたけれど、足がしびれたら困るので、結構初っ端から足は崩したよ。


「はっ! ゴメンネ! 気づいたらクォンんな時間……!」


 気づくの遅すぎませんか? と言いそうになった。そしてお馴染み、「こ」は「クォン」。


 狐の鳴き声って「コンコン!」か「クォンクォン!」なのかな? ん? そもそも狐に鳴き声なんてあるの? ( ゚д゚)ポカーン ダレカオシエテ


 真菰くんは「クォン」にならないのにね。玉藻さんの口癖なのかな。


「お客の真ん前で、まあ姉さんはこんな能天気にべらぼうに話せますよね……」


 真菰くんは、感心を通り越して、呆れているっぽい。確かにこんな人がいたら僕も呆れる。多分、万人が。


 玉藻さんはあたふたあたふた。もうどうしたらいいか、わからなくなったみたい。話しすぎです、あなたは。


 すると、部屋の右側の襖が、バンッ! と勢いよく開いた。隣室から、別の人が入ってくる。


 赤みがかった短いくせ毛は、あらぬ方向に跳ねている。目元には傷があって、霊弥くんを上回りそうなツリ目。そんな無骨な顔貌とはかけ離れた、上質な礼服姿。


清瀧せいりゅうじゃん!」

「兄さん!」


 ほう、この人が真菰くんのお兄さん……確かに目とかは三人とも似ている気がする。まあ、僕と霊弥くんは一卵性双生児だから、似すぎているんだけどね!!


「兄さん、紹介しますね。この人は、私の許婚の、小鳥遊早弥さんです」

「初めまして……」


 背の高い清瀧さんは、そのツリ目で、僕を見下ろす。色々相まって、ものすごい威圧感が……。


 このままじゃ完全にチビショタだって舐められそうだから、無礼だとは知っているけれども、立ち上がってみた。


 あ、僕よりちっさかった。


「あなた〜、僕より身長低いと舐められますよ〜」


 はい、ご自慢のショタボイスと生意気な口調です。霊弥くんの威圧感と相まったら、勝てない敵はいません。イェイ。


「あ゙ァ!? ガキの小僧のくせに、俺のこと舐めてんのかオラァ!!」


 清瀧さんの拳はまっすぐ僕の額に向けられた。でも、超簡単にかわす。君こそ僕のこと舐めているのかなあ? テキトーな拳なんて、捨て身の雑魚攻撃と一緒なんだよ。


 ひょいっと体をそらしたあと、清瀧さんの隙まみれの鳩尾みぞおちに拳一発。もちろん清瀧さんのいい加減な拳とは大違いだ。


「うっ……」


 おっと、強すぎたかな。


 衝撃に押されて体勢を崩した清瀧さんの手首を掴んで引っ張る。とりあえず痛みは残ってるっぽいけど、立ててはいる。良かったね、立てて。


「テメェ……テメェ……」

「何かご用ですか〜?」


 イライラするのも仕方ない。だってこれだもん。声も顔も、幼子みたいだし。霊弥くんとは数十分しか歳の差がないけれども、見た目年齢は全然違う。


「……早弥さん、意外にケンカ強かったんですね……」

「満面の笑顔でボクォンってるからクォワいなぁ〜……」


 真菰くんと玉藻さんがボソッと何かを言っているのはわかったけれども、何を言っていたのかは聞こえなかった。


 ただ、また玉藻さんの「クォン」が炸裂したのは、何となく予想がついた。

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妖冥鬼神伝 〜とりあえず通りすがりの妖狐を助けて連れて行かれたのですが、結婚することになりました。おまけに妖狐は男の子なのですが!?〜【side 早弥】 月兎アリス @gj55gjmd

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