第一章◆結婚生活?【side 早弥】

「では、家のやつらに早弥さやさんのこと紹介するんで、おれについて来て下さい。途中でおれの声が変わっちゃいますが」


 真菰まこもくんに、言われるがままついて来た、僕、小鳥遊早弥。


 今の状況を簡潔に説明すると、要は、妖狐の男の子と結婚するのでご家族に挨拶に行きます、ってカンジ。


 ちなみに僕が真菰くんに恋愛感情を持っていたかというと、そうではない。さっき通りすがりに助けたらこうなりました。


 すごいことになっちゃったね。


 それこそ「〇〇しただけなのに」っていうやつなんだよ、今。ほら、あるでしょ? 「タバコを捨てただけなのに」みたいな。←そんなのあったっけ?


 真菰くんの家は、一階が洋風で二階が和風。一階には居間など団欒だんらんする部屋が多くて、二階は個々の部屋が並んでいる。


 そのため、ご家族とご対面するのは一階。ひゃー、とんでもない大金持ちだ〜!!


 部屋を出ると、真菰くんは白狐びゃっこの姿から人間の姿に変化へんげした。


 おお。


 濃い紫色の髪は膝裏まで伸ばされ、淡い水色や桃色、藤色や若草色の羽織は重ね着。うーん、詳しい言葉は知らないけれども、十二単みたいなやつかな。ちょっと軽そうだけれども。


 頭から生えた真っ白い狐耳は、どこかで音が鳴るたびに、ぴくりと動く。


 髪の毛の下からは、九つ、白い尻尾が生えている。へえ、真菰くんは九尾狐狸きゅうびこりなんだ。


 まずはお姉さんの部屋に行く、らしい。心の準備ができそうで良かった。にしても、いきなり一階には行かないんだね?


「姉さん、今日こんにちはお初にお目にかかります」


 はい、真菰くんは、超豪華な襖を当たり前のように開けました。


 部屋のつくりは真菰くんの部屋とたいそう変わらないけれども、こっちの方が生活感がある。


 中にいたのは女の子だった。


 くせ毛の金髪、濃いブラウンの瞳、暖色系を多く使った十二単みたいなやつ。頭から生えているのは、狐色の狐耳。あはは、失笑。


「あー、真菰? こんこんクォンクォン〜!! あらあ、年上……違うわね多分年下ね、男のクォン連れてきたのー? とうとう運命の人を見つけたのねー! 嬉しいわぁ!! クォーン!!」


 何この人。超早口だし「こ」って言うたび「クォン」って言うしなんか話し方面倒くさいし。ちょっと話しづらい。


「早弥さん、初っ端からこんな不躾ぶしつけな挨拶ですみません。彼女は、お……わ、私の姉の、栗栖野狐塚玉藻くりすのきつねづかたまも、通称〈玉藻前たまものまえ〉です」


 あー、ええっと、玉藻前って、聞いたことある気がする。なんだっけ、ああ、栃木の岩……殺生石に封じられちゃった、天性の悪女の狐か。そうそう、あやかし、あやかし。


 ん? でも、悪いことしているから、異星の定義的には〈妖怪〉に分類されるのかな? ん?


「よろしくねー! あたしのことは〈タマ〉って呼んで!!」

「声たっか……飼い猫みたいな名前……」


 三毛猫ですか? って疑いそうだよ。タマって。君は〈玉藻前〉でしょ、要はさあ……。


「さあさあ♪ 入って入って♪」


 早くその喋り方やめて下さい。

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