ジャンケン詩人

kuzi-chan

ジャンケン詩人 (完)

ベンチに置いて捨てられた…曲がってクシャった新聞に。

(自分の将来は明るくない。)

そう思う…そう感じる人が。この国には多いらしい。


と…書いてある。今は……夏。


街の…焼けたベンチに座って(こ1時間)。

わたしの。

黒い…魔法使いふうの洋服に帽子。そして…なにげにステッキ。

目立つんでしょうか?

カツカツ歩く…大や小の通行人たちが。

チラリと…ジロリと。時に…ギロリと。私を見ては右に左に歩いて散って…昼下がり。

夏の盛りの昼下がり…でした。


は…あ〜い?

私はジャンケン詩人よっ。

いつもお腹が…すいてる女。


……グゥ〜〜♪っと鳴ったらパーーッ。

……って。何十回かぞえたことでしょう。

来ましたっ‼︎

やっと目が合いましたっ。

中学生の少年ですっ。

でも。

下校には早すぎます……はて?


私が手まねきをしたら。

俺?…僕?…え〜っ?なにぃ?…みたいな顔してるし。

まあまあ…お近づき。

目が合ったんだから座りなさい?…と。

少年を。私のとなりに誘うと…少年Aは。

文化祭のハツ演劇のように。右手と右足が同時に出るような歩き方で…来ては。

失礼します…ペコッ。なあ〜んてねっ。

めったに使わない丁寧語で。微妙な距離感とって。ズンと座った…少年Aは。

アチッ…っと。ケツっ。

失礼。おケツ…失礼。お尻を(はね上げ)ました。

夏の焼けたベンチは。(アリとキリギリス)か?…(北風と太陽)か?

とにかくベンチが熱かった…って。


聞けば……。


いろいろ…あるみたいでした。

そりゃそうでしょう。生きてれば…誰だって色々あります。

あって当然…大岡越前ですっ‼︎

すみません。語呂がいいので…昭和っぽくやっちゃいました。

聞けば。家に帰るなりウルサイ。親がうるさい…と。まあ。うるさいものです…親は。

高校進学どーすんの?

高校ぐらい行かなくて…どーすんの?

大学。行きたくないの?…って。

大学なんかっ。行きたくねーーよっ‼︎

…って。反発して。

親が心配すんのは…わかるけど。

将来のことなんて…わかんねーよっ。

…って。


学校も。

たいして面白くないし。

勉強も。

ぜんぜんできないし。


あ〜〜あっ‼︎

って……仮病で早退しちゃったんだあ。

けど。ヒマだ〜〜っ‼︎

って……私の横に座ってる少年Aでした。


少年Aは。

私のことが気にいったのか。少し笑みを…くれたりしました。

それから。二つ…三つ…話しをしたら。なんか気がすんだみたいで。


少年Aは。帰るっ…って言って。バッグを肩にかけながら…立ち上がったの。

私は。ちょっと…YOU?と…声をかけ。まだ…行かないで?もう少し…いぃいっ?


……ねえ?

……私とジャンケンしましょ?


私が勝ったら…なんかおごってね?…って言ったら。

ええ?…って。

中学生におごれ…ってえ?

変な大人ああ?…って。

半分あきれた…半分わらった。私をね?変人が半周して…常人になった人のような。

そんな感じに見てる…少年Aの苦笑いでした。

彼は……。

ジャラジャラ男子ふうの長財布を出すと。

二千円しかない…って言って…私に中身を見せっ。


マックならおごれるよ?…って少年A。

いいわよっ…それで。…って私。


……じゃあ〜〜ん。けえ〜〜ん。

……ぽお〜〜〜っん。


出ました‼︎

私がパー。彼がチョキ。私の負けええ。

少年のAは。またまた…苦笑いしながら言うんだなあ。

お姉さん?…わざと負けたでしょ。違う?…って。

ま〜ね〜〜。

どっちにしろ。負けは負けっ…と言うことになって。


お姉さんは。なにしてる人…なの?


彼は。変な服装の私を…自由人の私を。楽しそうに…イジイジ見ながら聞いてきた。

わたし?

詩人なのっ。ジャンケン詩人。私が負けたらね?自由詩っ…聞かせてあげるの。

聞きたい?…って言ったら。

聞きたいっ…って言うので。

聞かせてあげました。空を見ながら……。


……見なさい空を。

……ゴーゴーと。重い金属がはるか上。

……不思議よ不思議。体感ない。

……空気の上を飛んでれらあ。

……爆音あとから。ついてくらあ。

……ゴーゴー。ゴーゴー。

……あのまま直線。飛んでってえ?

……大気の層。突っ切ってえ?

……地球の外。出ちゃったらあ?

……ばってん。なもなも。んだすけな?

……地球のコアから糸を張り。

……円周ぐるぐる重力バリア。

……見てごらん?

……消えたでしょ?

……ドドン。地球は丸いな…どこまでも。


以上です。

少年Aは空を見上げ。

なんか。とっても感動したみたいで。面白かったみたいで。

自由って…いいなあ。うらやましいなあ。

そんなことポツリと言っては…私に握手を求めてきました。

そうして。

なんか元気になって…帰ってゆきました。

私は…またひとつ。

……やってしまいました。

適当に。意味も無く言った自由詩で。人の大切な…心と時間を奪ってしまったのね?


……罪な女。


私は。しかたなく。

自分のお金で牛丼とサラダを食い。

そのへんで昼寝をしてから。

日が暮れた街をぶらつくと。

……偶然‼︎

遠くのほうに。昼にあった少年Aの家族が…回転寿司から出てきたのを見たので。

親心のつもりで。

そっと後をつけたのね?…おウチまで。


少年Aよ。


よかったわ。

安心。和気あいあい…普通っぽい。普通の幸せ…普通のだんらん。

いい家族だわあ。いい。よかった……。

灯りのついた窓の外から。そっと。犯罪の意図は無く…確認の意図で中をのぞきました。


いい感じねえ……。


そっと見守る。黒い魔法使いの服と帽子…なにげにステッキの私にも。

なんか笑顔がほころんで…きてさっ。

ああ。

家族っていいなあ……。

ああ。

今夜も。いい月ねえ……。

なあんて…さっ。

母と父と息子が。普通の人が普通にそこにいて…暮らしてる。

面白くない…つまんない。なんて思って。止まってた…少年Aよ。

じゃあね?

元気でね?

私は行くわっ。あなたの笑顔を見たから安心よっ。

もう…あなたと会うこともない。

さようなら。

お元気で。

ご両親…大切にしなさいね?


さあ。

また…歩こう。前へ前へ。別の出会いへ。

私は気ままな人。

近くも遠くも意のままに。

雨が落ちたら雨宿り。寒くなったら暖をとり。日照りが刺せば目を細め。

私は歩く…意のままに。

私は気ままなジャンケン詩人。


ねえ?

あなた?

私とジャンケンしましょ?

私が勝ったら……。

私に…何か。おごってくれますか?

わたし。いっつも…お腹がすいてるの。ね?……おごってくれますか?

私が負けたら……。

あなたに。私の感じた自由詩を捧げるわ。

私の詩が嫌だったら…そうねえ?

宮沢賢治の(雨ニモマケズ)を。あなたの耳元でささやいてあげる。


あら?

雨っ……。

傘がないわあ……。

いいの……いいのよっ……気にしない。

……小雨……。

濡れていきましょっ。夏だもん……平気。


私は歩く…意のままに。

私は気ままなジャンケン詩人。


<おわり>

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