第25話 多田くんは事情聴取の難しさを知る
遊園地での魔女との遭遇事件後。
紅林愛生を除く4人は警察に事情聴取をされた。
警察といっても人命救助異常警報部という部署が事情聴取を行った。
普通ならば人がケガを負ったり、人一人死んでいるのだから刑事事件なのだが、事件を起こしたのが魔人もとい魔女であるなら話は別だ。到底なんの特殊能力もない警察官が解決できることではない。
人命救助異常警報部は怪人や魔人、変異超人が現れたときに警報を鳴らしている部署である。
とはいってもこの部署にいるものたちがヒーローであるわけではない。どこからかヒーローたちとつながりを持つ特殊な人物なのだ。
日本において怪人や魔人が出現した場合の探知、そして警報を鳴らすシステムの構築。学校や商業施設のシェルター化への移行。
政治にも介入したのではないかと思うくらい、人命救助異常警報部というのは力を持ち世界を変えることに寄与したのだ。
そこには異常に鼻が高いというか長いと言うか、目が細く優しさの中に狡猾さや意地の悪い雰囲気を感じる山神鞍馬警部、メガネをかけて長い黒髪でいかにも秘書っぽい雰囲気で顔には猫の髭のようなものがうっすら見える気がする猫田警部が所長と副所長という形で部署に着任していて部下が数人いる。
「じゃあ急に紅林さんって子のポケットが赤く光だしたと思ったら、魔女に変身したと。山神さん魔女って知ってますか?」
「うーん。僕らはあちらさんの事情は知らないからね。聞いたことはなかったねぇ。魔法少女の二人はあまり警察に協力的じゃないから話したことなんてほとんどないし。魔人の上位の存在かぁ。まぁためんどくさいことになりそうだなぁ」
ちょっと長い鼻を掻きながら山神警部はため息をつく。
「オレらだって知りません。魔女と戦っていた魔法少女の二人が言っていたことなので。話聞いたってなんの解決にもならないんですから帰ってもいいですか」
風岡が敵意むき出しで応戦する。猫田警部はおろおろしているが、山神警部は意にも介さず、鼻を書き続けている。
「いやぁ僕らもね。こんなに遊園地がめちゃくちゃになってるわけじゃない。報告書を上げないわけにはいかないから、話聞かせてよぉ」
「それにしても魔法少女なら、いつもは壊れたものを元通りにしていくものだと思っていましたが、今回は違ったのですね」
魔女との戦いで妖精を名乗る羽のある黒猫ノアが首輪を残して消滅した。光の粒となって消えゆくノアを泣き叫びながら魔法少女の二人は首輪を握りしめてどこかへ消えていった。残されたコスモレンジャーもとい、炎魔、水連寺、風岡と多田くんは破壊されつくした遊園地をただ眺めることしかできなかった。
そうしているうちにこの警部二人が現れて、警察署に移動して事情聴取となったのだ。
「まぁそうですね。魔女でしたっけ、すごく強かったみたいであの二人はボロボロになりながら闘っていたので力が残っていなかったのかもしれません」
態度が悪い風岡と違って水連寺は警部たちとしっかり目を合わせ姿勢正しく座っている。すかさずフォローを入れるところはどんな状況でもかわらない。多田くんは炎魔に目を向けると浮かない表情をしているように見えた。目線は下をむき、手を組んでなにやら考えているかのような姿勢をとっている。
「そうでしたか。あなた・・・・・・多田さんだったかしら、君がみたことを教えてくれるかな。例えばどこに誰と立っていたとか、どういう状況だったとか」
突然話を振られて、多田くんは視線を猫田警部にむける。どういう感情なのか読み取ることはできない。答えられず、口をあわあわさせていると「そのまま話していいよ。秘密にする部分は守ってね」と隣の水連寺に小声で言われた。
「そうですね。僕は見ていただけなので・・・・・・」
「僕はってこの三人とは一緒じゃなかったの?」
「いや、この三人はこす・・・・・・」
ドスっ
警部二人から死角になってあるだろう角度からわきに向かって小突かれた。多田くんは想像以上に痛かったのか「うっ・・・・・・」と声を出してしまう。この場を切り抜けるために思考を巡らせる。
「多田さん大丈夫ですか」
「・・・・・・あっはい大丈夫です。えぇと、この三人も一緒にその場にいました。ただ僕とは違う場所にいたので。爆発が起きたあとは黒川さんっていう友達といていったん逃げたんです。そしてら、その黒川さんが観覧車に乗っているはずの4人が心配だから戻るって言って観覧車の方向に走っていきました。僕もそのあとを追って観覧車までたどり着くと魔女との戦いに巻き込まれたという感じです」
「4人ってことは魔女になっちゃった紅林さんって子と、炎魔くん、風岡くん、水連寺さんってことかな」
「いや、水連寺さんは一人で僕らを尾行・・・・・・」
ドスっ
「尾行? どういうこと?」
猫田警部が詰め寄ってくる。山神警部は何食わぬ顔でまた鼻をかいている。
「尾行じゃなくて、えぇーっと水連寺さんも後ろからついてきました」
隣からの視線が痛かったが多田くんは話し続ける。
「そう、ですか。その黒川さんて子はどこにいったのかしら」
「それは僕にもわか・・・・・・」
「黒川さんはやはり危険を感じて逃げたみたいです。さっき連絡したらそう返信が帰ってきました」
突然会話に入ってきた水連寺といつのまにそんなやりとりをしていたのかという驚きの表情で見つめる多田くん。そして全身から力が抜けたようにいすにもたれかかった。
「なるほどなるほど。あれどうしたのかな多田さん。急に力が抜けたような態勢になっているけれど」
「黒川さん探しにいったのに見つからなくて、そのまま戦いに巻き込まれたから結局どうなったかわからなくて、心配だったので、生きててよかったなって思ったら力が抜けちゃいました」
「そ、でもとりあえずみな生きててよかったわ。その紅林さんって子は残念だったけど。消滅しちゃったのよね」
「だから、そう言ってるんだろ。魔法少女の魔法で最後はエネルギーみたいなのをまき散らしてパって消えたんだ」
相変わらず態度の悪い風岡だった。
「まぁまぁ少しは話聞けたし、猫田くん帰るとしますか。
「わかりました。あなたたち4人はこれから来る部下に送らせるからもう少しまっててね。今日はありがとう。無事でよかったわ」
そう言い残し、二人の警部はいなくなった。
終始、無言だった炎魔。表情は暗いままだ。
次の更新予定
毎週 水曜日 07:30 予定は変更される可能性があります
ただの多田くん 僕はなにもできないからヒーローに助けてほしい 古希恵 @takajun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ただの多田くん 僕はなにもできないからヒーローに助けてほしいの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます