幕間 シロは魔女が誕生したことにほくそ笑む
魔人たちはどこともわからない空間に集まり、顔を向けあい話している。
魔人は自我を失うはずだが、まれに
自我を持った魔人はただ破壊の限りをつくすのではなく、自身の目的を叶えるため、自身をさらなる高みへ進むために魔女の誕生を望む。
魔女を生み出すために魔力が必要である。
人間たちのうちにある魔力、それぞれに魔力の貯蔵量に差はあるが、その魔力を集めることが魔人たちの一つの目的である。
「魔女が生まれたらしいな。おれたちが魔力を集めるだけじゃ生まれてこなかった魔女がこんなにあっさり生まれるものかね」
想像しうる悪魔のような羽とどす黒い皮膚をした魔人がつぶやく。禍々しい気をまき散らしているが自我があるのだ。この姿をみた人間は恐怖することが容易に想像がつく。傍らにいた額から角が二つ生えた魔人が答える。
「始まりの魔人、クロエ様でさえ、自我のある魔人を生み出すところで止まっていたのにこれはあのシロという黒魔法使いはこちら側として信用してもいいのかもしれないな。あぁでもクロエ様、クロエ様がいたころは・・・・・・」
「やめろ。もうクロエ様はいないのだ。まだ信用できない。クロエ様が消されてからどれくらいの月日が経ったか、それでもあいつは信用してはいけない」
「なにを根拠に?」
「魔人の勘だよ」
やれやれと角の生えた魔人が手をあげる。この空間にはほかにも魔人がいるが会話を始めれば距離が顔を向けあうくらいまで引き寄せられ、会話がとまれば魔人同士を認識できるくらいの、数メートル離れているのではないかと思う距離に引き剝がされる。なんとも不思議な空間だ。
「まぁ結局、魔女は倒されてしまったが・・・・・・」
その一言が空間に放たれると、魔人たちが各々嘆き始めた。
嘆きが静まらぬなか、不思議な空間に大きい黒い影が現れる。
「シロ・・・・・・様」
魔人たちがひざまずく。
魔人たちにシロと呼ばれる存在。
「このたび魔女が生まれた」
ざわついていた魔人たちが一点に集中する。
「我がこの黒魔術協会に君臨してから、いや黒魔術協会が存在を始めたころから初めてのことだ。魔人クロエのことをいまだに慕っている者もいるだろうが、クロエはこの黒魔術師シロが葬った。そして魔女を誕生させた」
ある魔人は震え始める。その黒い大きな存在を捉えることができない恐怖。
自分自身も魔人という恐怖の対象であるにもかかわらず、それをも凌駕する存在感と存在を捉えることができないという不安。震えている魔人には大きな異形の姿に見えているのかもしれない。
魔人たちは黒魔術師のシロは実体を捉えることができない。
魔人によって男に見えたり女の姿に見えたり、異形の姿に見えたりとそれぞれなのだ。
だから、シロの本当の姿を知る魔人はいない
始まりの魔人クロエが生み出してきた魔人たちを力による恐怖によっていつの間にかまとめていた。
始まりの魔人クロエはたしかに存在した。
クロエが新たな魔人を生み出し、生き残った魔人がまた魔人を生む。
魔人たちは始まりの魔人を恐れ、自我のある魔人は恐れの中に畏敬の念を抱く。
それがいつの間にか恐怖の対象はクロエが消されたいま、黒魔術師のシロに変わっていた。
魔人たちはシロが魔人なのかただの魔術師なのかはたまた魔術師を名乗る魔人なのかそれもわかっていない。
「魔女が生まれた」
再び告げる。
ここに集まっている魔人たちはみな自我を持ち合わせている。
魔人たちの目標は魔女を誕生させること。
すべてを凌駕する魔力を持ち、世界を支配する力を持つものを誕生させる。いや、自身がその高みへ登ること。
そのために人間を使い、実験しているのだ。
それがいま、魔女が生まれたのだ。歓喜の声が出てもおかしくはなかったが結果を知っている魔人たちは息を飲んでただ次の言葉を待つ。
「魔女は死んでいない。存在は消えたかもしれないがあの魔女はこの赤い魔石に秘められている。さあ魔女へと至る道は開けた」
魔人たちは歓喜する。
シロはその光景を眺めにやっと笑う。
「魔女が誕生したことにより我ら魔人たちは魔法少女に蹂躙されることなく自らの力を高め、世界を支配する!」
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