幽玄の霊姿

鈴ノ木 鈴ノ子

ゆうげんのたますがた

 一昨日からの長雨が終わりを告げたようだった。

 日の出の陽光が障子窓を金色に染め上げていた。あたり一面の眩しさが寝室として使っている和室を抱擁して、純白の布団で眠りについている2人を微睡より掬い上げた。

 腕枕で眠る女は若く艶やかな髪を湛えて、小柄な顔立ちが乙女のように可愛らしい、色白の肌は絹糸の肌触りであって、首筋や乳房などの所々に残る痕が薄い染みのように紅色の点となり、それは刻まれた印のようでもあった。

 男にも同じように刻印が刻まれており、ところどころに女の噛み痕が見て取れる。柔らかな甘噛みの痕であった。如何に心通じ情を育んだ末の逢瀬であったか容易に察することができるほどの2人の四肢、そして柔らかな布団の中で見つめ合うさまは、もうすぐ、夫婦になるであろうことが手に取るようでもある。

「おはよう、和沙」

 男が女の名を呼ぶ、女の頬に紅が浮かんだ。

「おはようございます、友則さん」

 柔らかな声が男の名を呼ぶ。問答のように互いを見つめ暫しの幸刻を過ごしたが、無粋な音が遮るように流れた。

「ごめん、アラームを切り忘れたみたいだ」

 空いている男の手が包み込むように置いていた女の身体より名残惜しそうに皮膚を撫でては去ってゆき、枕元に置かれた電話機の画面をトンと叩いて音を沈めた。

「いいのです、そろそろ、朝の支度をしないと」

 女は微笑んで頭を腕より胸元に寄せた。甘えるかのようにそっと近づけ、うっとりとしながら瞼を閉じた。再び男の手がその身を包む。

「もう少しだけ、一緒に」

「はい」

 2人は再び眠りについた。結びを得た絆は少しでも離れることを拒んでいるようでもあった。


 男の友則が女である和沙を初めて目にしたのは、小学校1年生の夏頃であった。2人が住処としている江戸時代の平屋建ての一軒家、かつてここは祖父母が住んでいた。かつては商売で栄えたこともあったが昭和恐慌で家業が傾き、それ以降は農業が家業となった。祖父母の長男はその稼業に馴染めることは無く、大学進学を気に上京しそのままその地で結婚して子を成した。それが友則である。だが、両親を事故で早くに亡くしてしまい、小学校の入学に合わせて祖父母の暮らすこの家へと引っ越してきたのだった。

「海が良く見えるだろ、この部屋を使うといい」

 駿河湾を一望できる高台にある家、その眺望が良く歴代の当主が使ってきた趣きのある和室を自室として与えて貰い、真新しいランドセルを背負いながら毎日小学校へと通学を始めた。

「とーくん!あそぼ!」

 生垣の合間から友達の呼び声が聞こえてくると、遊びに行くことを祖父母に伝えて飛び出していくさまは年齢相応であった。

 初めての夏休み、友達と遊んだり宿題をしたりと楽しみばかりの日々を過ごしていると、東京に用事で出かけていた祖父が妙に長い箱を持って帰ってきた。

「じーじ、それはなに?」

 上がりかまちに腰かけて靴を脱いでいる祖父に尋ねる。

「これはな、掛け軸だよ。ほら、床の間に掛かっているやつだ、だが、これは見ると涼しくなるぞ」

 古い家であるが故にエアコンもないが風が通る昔ながらの家は涼しい。扇風機で事足りるこの家で見るだけで涼しくなるとはどんなものか興味が沸いた。

「見てみたい」

 友則は目を輝かせる、だが、祖父の顔は一瞬何かを悟ったように曇りを見せた。

「そうか……、うん、だがなぁ、友則は怖い話は大丈夫か?」

「怖い話?」

「ああ、幽霊とかお化けとかそんなもんだ」

「大丈夫だよ」

 友則にとって幽霊とは怖いものではなかった。

 直接見ているわけではないが、夢の中に両親が出てくることもあったし、家の中で勉強したり遊んでいたりすると、時より傍に母親の懐かしい香りや頭を撫でてくれる感触がしたりして、生活の中にある種溶け込んでいる感じがしたのだ。

「そうか、じゃぁ、見てみるか」

「うん!」

 床の間のある応接間へと場を移し、そこに置かれている一枚板の大きな長机の上に祖父は掛け軸の入った木箱を置いた。塗りで蛍光灯の光を跳ね返して光り輝くそれは、まるで宝箱のようであった。

「さて、開くぞ」

「うん!」

 祖父が蓋に手を掛けてゆっくりと開いていく最中の事、友則はふっと漏れ出でる冷気を感じた。冷凍庫を開くときと似たような感覚、漏れ出でてくる白い靄が漂ってくるかのような冷たい空気が、蓋が上がるごとに強く漏れ出でてくる。祖父は気にならないようでそのままパカリと開いた。

『うぅぅぅううぅうぅ』

 若い女性が部屋で泣いたような気がした。だが、両親を失った時に自らの泣いたとは意味が違うようなそんな気がする声であった。

「これはな、幽霊の絵だ」

 祖父はそう言って掛け軸の紐を解いてゆく、そして卓上にコロコロと転がすかのようにゆっくりと掛け軸を広げてゆく。

「幽霊‥‥‥」

 現れてきたのは若く艶やかな髪を湛え小柄な顔立ちの色白の女性の立ち姿であった。

 テレビで見たような怖さはなく、少しだけ微笑を浮かべたその顔は驚くほどに綺麗で、祖父が自室に飾っている美人画のどの人たちよりも生き生きとしていて、唯一、足だけが薄い霧で隠されて幽霊であることを主張しているかのようである。

「怖くないね」

「そうか、それはよかった」

 本当に安堵したように頷いた祖父はそれを床の間へ吊るした。

 寝姿から立たされた掛け軸の女性の口元がほぅっと安堵したように動いたように思えたが、気のせいだろうと目を擦り、再び掛け軸をじっと見つめる。

「じーじ、これはなんて書いてあるの?」

 女性の右上に筆で書かれた達筆な文字があった。祖父は覗き込みゆっくりと考えていたが、やがて諦めたようにため息をつくと祖母の名を大声で何度か呼ぶ。

「聞こえていますよ、なんです‥‥‥、あら、まぁ、何とも可愛らしい幽霊さんだこと」

 祖母はそう言って幽霊画を二度三度と上から下までじっくりと眺めたのちに、祖父に示されるがままその文字をじっと見つめる。

「癖の強い崩し字ですこと…、和沙とでもお読みするのでしょう、きっとお名前かしらね」

 祖母の言葉にふと女性の視線が嬉しそうに騒いだように見えて、再び友則は目を擦った。

「和沙さん?」

 口に出して読んでみる、さすがに今度は見間違えることは無い、口角を上げてそして優しい視線が友則と交差した。だが、怖い、という感情より先に優しく大丈夫とでも言いたげであったことで取り乱すこともなく、何んとなしに、ああ、そう言ったものなのだろうと納得ができてしまったのだった。

「ええ、きっとそうね」

 3人に眺められた掛け軸はそれほど強い風は流れ込んでいないというのに、ばさりと揺れ動いたのであった。

 翌日も快晴の青空と光り輝く海のコントラストが美しい朝を迎えて、差し込む朝日で友則が目を覚ます。遠くから聞こえてくる波の音が心地よくて、珍しく朝早くから起きることにした。自室を出て古い家屋に似つかわしくない洗面所で顔と歯磨きを終えると、かまどのある土間へと向かう、途中、掛け軸の掛かる応接間を覗くと幽霊はおらず、素朴な景色の水墨画が吊るされていた。

「おばあちゃん、幽霊の掛け軸って…」

 祖母の姿は土間には見当たらなかったが、普段見慣れない違和感があった。

 土間には無理やりに据え付けられたシステムキッチンとタイル張りの竈の二つが混在する一種の異界と化していて、火災を恐れてあまり使われなくなった竈は置き棚のような扱いをされていたが、どういうことか、綺麗に磨かれた鍋や窯が据え置かれて、焚口から奥をみれば焔がチラチラと上がっている。

「お寝坊さんですね、友則さん」

 聞いたことない声に驚いて振り向く。

「ふふ、どうしました?」

 柔らかな風に揺れる風鈴の音色のような声に驚きを半減させられた。

「おお、早起きだねぇ、あ、和沙さん、御勝手をやってもらってしまって悪いね」

 農作着に黒長靴姿の祖母が丁度帰ってきて、さも当たり前のようにそう言って、洗い場のへと向かっていった。

「いえ、大丈夫ですよ、ちょうど友則さんも起きましたし、朝食にしましょう」

 目の前に立つ幽霊画の女性である和沙は口元に右手の人差し指を立てて、内緒とでも言いたげに微笑んでから、食卓のある囲炉裏部屋へと友則の背中をひんやりとした手で押したのだった。

 それ以降、和沙はこの家に住み続けている。

 友則の成長を見守るかのように、時に優しい母のように、時に厳しい姉のように、祖父母の甘やかしを正すかのような和沙の存在は、目障りな時もあったけれど、両親という家族を失った友則にとっては、欠かすことのできない存在になったことは確かであった。

 

 小学校の時には姉のように慕い。

 

 中学校の時には年上の女性として魅力を感じ。

 

 高校の時に初めて女性として意識した。


 高校1年生の夏休み、この頃には祖父の認知症が進んで自宅での介護が難しくなり、祖母は入学式の晴れ姿に喜んだ数日後に畑にて心臓発作で亡くなっている。

 だから、この古い家には友則と和沙の2人だけの生活となっていた。

 囲炉裏端でいつものように夕食を食べ終え自室の戻るのも億劫であった友則は、囲炉裏端で転がってスマホゲームに興じていた。土間の電気は落とされて暗闇となっているから、和沙はすでに自室かもしくは何かの用事をどこかでしているのだろうと考えていると、土間と囲炉裏部屋を隔てて奥へと続く廊下から足音が聞こえてきて、やがて、囲炉裏部屋の襖が開き和沙が姿を見せた。

「友則さん、御風呂先に頂きましたからね」

「あ、はい…」

 濡れた髪をタオルで拭いながら、湯上りの上気した白い肌に薄絹の浴衣を着た和沙の姿に、友則の感情の奥底から何かが沸き上がってくる。それは興じていたスマホゲームを忘れて魅入ってしまうほどの艶やかな美しさであった。

「どうしたの?」

 不思議そうな表情を浮かべた和沙の声に友則は我に返りすぐに視線を逸らす。

「なんでもない」

「そんなことは無いわよね、何か隠し事かしら?」

 心配そうに駆け寄ってきた和沙はやがて友則の視線と頬の上気に気がつく、慌てて離れて胸元を隠すように手で覆い足早にその場を去って行った。

「綺麗だった」

 素直な思いが口をついてしまうほどの魅惑的な姿を友則は思い出して、ゆっくりと唾を飲み込んだ。

 

 この翌日からある種の変化が自宅に起こった。


 2人の関係はいつも通りだったけれど、応接間の季節ごとに架け替えられていた掛け軸が、描かれた人物がいないものとなった。しばらくすると和沙はこれ見よがしに掛け軸から抜け出すさまを友則へと見せつけるようになった。最初は驚いていた友則だったが2年が過ぎて慣れてくると、物音立てずに帰宅し掛け軸に駆け寄って驚かせることを考えるまでとなっていた。

「馬鹿!」

 驚いたのちに怒りの声を上げた掛け軸の中の和沙が頬を膨らませて可愛らしく怒りを露にすると、やがて表情を消して本来の姿の幽霊画へと姿を戻した。いくら話しかけても一切動くことは無く、まるで反省を促すかのようであり、それは三日三晩続いた。やがて、4日目の朝、友則の生活能力の無さで家が荒れること、そして受け継いだ大切な畑が心配となった和沙が折れて、早朝にこっそりと抜け出して畑へと向かったがそこに友則の姿があった。

「何しているの」

「見てわからない?水やりだよ、和沙が大切に育てていることは知ってたから、暑くなってくるし早めにと思って」

「そ‥‥‥そう」

 朝日が昇る前の畑は虫の微かな鳴き声と水にぬれた葉の匂い、そして沸き上がるような土の匂いで満ちていて清々しい。やがて微かに見える水平線の先から明るさが増してゆく。

「意地悪してごめん」

「私こそ意固地になってごめんなさい」

 しっかりと頭を下げて友則が詫びたのを、じっと見つめた和沙もまた同じように頭を下げて詫びる。そしていつもの通りに笑い合ったのだった。

 普段通りの生活、掛け軸は掛けられたままだが、その中へと和沙が戻ることは無くなった。年の暮れには祖父もなくなり、いよいよ友則のみとなったが、和沙のお蔭で孤独も寂しさも感じることはなく過ごせている。遺産相続の手続き書類で一番驚いたことは、どうやったかは知らないが、和沙には戸籍があって生活するには何不自由することは無かったことだ。多分、祖父が何か手を廻したに違いないが、今となっては確認するすべはない。

 高校卒業と地元の大学へ進学した友則はそれもすんなりと卒業すると、そのまま農家と兼業できる仕事へと就いた。祖父の部屋を改装し仕事部屋として、朝の畑仕事を和沙とこなし朝食後は仕事部屋に籠る生活を1年ほど続けた頃のこと。

「友則さん、ちょっとお話したいのですけど」

「ん?」

 和沙が食後の膳をすべて片付け終え、囲炉裏部屋で寝転がって仕事関係の書籍を読んでいる友則に声を掛けた。改まったような言い回しに友則も居住まいを正して、囲炉裏で向かい合った。

「心配なことが一つあるのです」

「どういったこと?」

「単刀直入にお伺いします、好いている女性はいないのですか?このままずっと過ごしてしまうと家が絶えてしまいますよ」

 真剣な眼差しで和沙が聞いてくるのを、家が絶えるとは古風な言い回しだなと思いながら、彼女がそれくらいに描かれた人物であることをふと思い出して思わず笑みが零れてしまう。和沙の目尻が少しだけつり上がったことに恐怖し弛んだ口元を戻した友則は姿勢を正してから口を開いた。

「いるよ」

「そ、そうなのですね…」

 長年過ごしたからこそ分かる微妙な戸惑いを和沙が見せた。

「目の前にいる」

 間髪を入れずに真剣に心を込めて友則は伝える。嬉しそうに綻んでからやがて悲しそうに視線を逸らした和沙が正座している膝の上に置いた手をギュッと握った。

「お気持ちは嬉しいです…。ですけど、私はお判りでしょう」

「うん、十分過ぎるほど分かってる。逆にそれが考えるいい機会をくれたんだけどね」

 掛け軸に和沙が戻るようになってから、ときよりこの生活と和沙のことを考える機会が増えた。特に三日三晩は夜も眠れぬほどに色々なことを考えて、自らの気持ちを整理する良い機会となっていた。ただ、それが本当に良いことなのか、自分の中で自問自答をする時間と、万が一、口に出せば失ってしまうかもしれないという怖さから、口に出すことができずにこの生活に甘んじている。

 だが、一度としてその言葉を口にしてしまえば、じっくりと熟慮して年期を帯びた思いが口をつくのは造作もないことだ。

「和沙、君のすべてが大好きで、心から愛している、私と一緒になってくれないか」

 両手をついて深々と頭を下げる、掛け時計の時を刻むカチコチの音が静寂の満ちた室内に響いていたが、やがて衣擦れの音がして和沙が立ち上がった。

「一つ見て頂きたいものがあります、掛け軸の前に来ていただけますか?」

「うん」

 和沙の驚くほどの静かな物言いに友則は少し不安を覚えたものの口にしてしまった以上は覚悟を決めねばならないと、大人しく立ち上がりそのあとを追うように応接間へと向かった。

 応接間では掛け軸の横に背筋を伸ばして立っている和沙が、ゆっくりと右手を伸ばして掛け軸へと触れようとしているところであった。

「よく、見ていてください」

 そう言って掛け軸に手を触れる。

だが、その身が掛け軸の中へと入って行くことは無く、ただ触れた手が紙を揺らしては触れては離れてを繰り返していた。

「えっと…これって」

 何が起こったのか戸惑う友則に和沙は更に言葉を続けた。

「もう戻れなくなっているのです。私の身体が生身へと変化を遂げたせいかもしれません」

「それって‥‥‥」

「ここで暮らしていくしかなくなったのです、もし、友則さんに好いている方が居たら、早めに家を出ていこうと考えていたの……に‥‥‥」

 表情が歪んで崩れてゆく、やがてボロボロと大粒の涙を零しながら和沙が真剣な眼差しを向けたが、瞳は不安に揺れていることを友則は手に取るように理解できた。

「すべてをお話いたしますから、しっかりと聞いてください。私はお江戸の絵師でした。子供を失って途方に暮れた折りに自らの姿を幽霊画に仕上げて身を投げたのです。ですが、魂は天へと昇らずに掛け軸へと宿ってしまいました。それ以来、幽霊画として見世物のように転々として過ごしていたのですが、そんな折に私の姿に可哀そうにと言ってくださった方が居られました。それがお爺さんです。購入された帰りに私の入った箱を撫でながら、友則さんのことをお話してくださいました。私自らが子を失ったこと、そして親を失い頑張って生きている健気な子は掛け軸が掛けられても怖くないと言ってくださったことに安堵して、傍に居てあげたいと強く願ったのです。そうしたところ今の姿となり、それからの日々はとても素敵なものでした」

 やや早口に捲し立てた和沙は一呼吸おいてから更に口を開いた。

「でも、ある時にふと悪いことを考えてしまったのです、私の湯上りの姿を見て情に塗れた視線を向けられたときに、もし一緒になれるならそれも良いかもしれない。そうなれるなら本望なのかもしれないと……。慌てて打ち消してもずっとずっとそれは消えることなく…今日まで引きずってきていたのです。友則さんは思いやりもあり優しい方です。だからこそ、そろそろきちんとしなくてはと今日のお話をしようと心に決めた途端、掛け軸へと戻ることができなくなってしまいました…」

 そう言って両手で顔を覆って泣く和沙を引き寄せ胸元へと抱いた友則は、声が収まるのを待ってからゆっくりと口を開いた。

「もう不安にならなくていいよ。本望の通りに過ごして欲しい、ずっと家族だったんだからこの先もずっと家族だよ」

 その言葉に和沙の両手が背中へと回った。そして離さないように、きつく、きつく力を込めて友則を抱きしめてゆっくりと胸の中で頷いてくれて、それに友則は深く安堵したのであった。


 あれから1年が過ぎている。

 ようやく布団と友則の手から抜け出した和沙は身支度を整えて、朝の支度のために土間へと降りた。新聞紙を丸めて放り込むとマッチを擦り竈に火を起こす、ガスコンロや電子レンジなどの便利な器具はお婆さんに教えてもらったが、過去に長く使い慣れて親しんだものほど使いやすい。米は炊飯器だがそれ以外の惣菜などは竈で調理してゆく。

 ほぼ、人並みの生活ができるまでに変貌を遂げた身体は月ものも来るようになっており、和沙にとり一番に嬉しいことでもあった。少しだけ体温が人並みより低いがそれはある意味での名残なのかもしれない。


 不安を覚える和沙に友則はこう例えてくれた。


 気品があり優雅であって美しい霊の姿そのまま人へと成ったのだ。


 「幽玄の霊姿」なのだから、なにも不安に思うことはなにもないと。

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