第3話 最強の証明。

「す、凄いです!あんな巨大な魔獣を一撃で」


「これくらいならA級の冒険者でも狩れますよ。なにも難しいことはしていません」


一撃で大熊を沈めたフォルテだったが、彼は驕らず謙遜の姿勢を貫く。というより、彼は元来卑屈な性格なのだ。それが人脈の乏しさに直結している訳だが。


「貴方、所属ギルドはどちらに?」


「……無所属」


「無所属!?どうして、その実力があれば引く手数多ではないですか?」


「ギルドを追放されましたからね。新しい所属先を探すのも面倒だし、今はこうして1人で放浪しているんですよ」


王女の前だからと最初こそ緊張していたが、すぐに彼のいつもの気怠い口調が顔を出した。だがローズは嫌な顔ひとつせず、それどころか瞳をキラキラさせて興味津々という様子だ。


「では職を探しているということですね。ちょうど私も頼もしい護衛を探していたんです。悪い待遇にはしません、どうです?」


彼女はグイッと顔を近づけて、フォルテの両手を握り懇願した。この上目遣いを断れる男性は存在しない。フォルテは彼女の圧に押されて、首を縦に振ることになった。


(まさか王女に仕えることになるとは。ただ金には困らないだろう。しばらくは1人でいるつもりだったが、悪くない)


彼女は迎えを呼ぶと、魔導四輪の後部座席に乗り込んだ。フォルテも彼女の呼ぶままに隣に座ると、運転手が驚いた顔をして振り返った。


「お嬢様!そのお方は?」


「こちらは凄腕の調香師さんです。彼には今日から私の護衛として働いていただくつもりです」


「またそんな勝手なことをされては、皆様に叱られてしまいますよ」


「構いません。さぁ、早く車を出してください」


フォルテ達を乗せた車は王城へ辿り着いた。


ジャドール王国における国王の権威を、これでもかと示すような壮大な建物。

白と濃紺を基調としたいくつもの棟が集合したような外観になっており、最も高い場所では全長128mまで及ぶ。そして彫刻された柱と、半球状の屋根。

城の周りには一面の綺麗な芝生と池が広がっており、見ているだけで心が癒されるような景色だ。


運転手の黒服の男を先頭に、フォルテとローズは城の中へ。

すると、部外者の男の顔を認識した黒服達が騒ぎ始めた。フォルテからすれば予想通り。やれやれという感じで収拾がつくのを待っていたが、やがて騒ぎを聞きつけて1人の武装した男が奥から現れた。


「お嬢様。その男はいったい、誰です?」


「アラン、この方は先ほど出逢った冒険者さんです。無所属ということなので今日から私の護衛として働いてもらおうと思いまして」


「こんな弱そうな男がお嬢様の護衛を?冗談がお上手だ!お嬢様の護衛は、私1人で充分ですよ!」


アランと呼ばれた青年はフォルテを舐め回すように見回し、明らかに見下した表情で鼻で笑う。彼は王女の元で護衛として雇われているだけあって、強度も金額も高そうな装備を身に着け、青色のメッシュが前髪に流れる。


アランが機嫌を損ねたことで緊迫した空気が漂い、周りの使用人たちがソワソワし始めたのが、フォルテには手に取るように分かった。


(面倒だな……いきなり絡まれるか。まあなんといっても国王の娘だ、それは警戒されて当然か)


フォルテは心底面倒そうに頭を掻いていたが、ここでアランという男がなにかを取り出して投げた。ソレは真っ直ぐな軌道を描いてフォルテの元へ。反射的に受け取ったフォルテは、手に取り確認する。


「これは……『技能計』か。これはまた懐かしいモノを」


「初歩的だが、力量を測るには最適だぜ。さぁ、握れよ。この城に入る資格があるかどうか、俺が見極めてやる」


アランの言う通り、冒険者であれば避けては通れないのが技能計だ。

両手で握るハンドルレバーがついており、力を込めるとモニターの数値が上下する。

冒険者としての強さは、固有のスキルをいかに使いこなせるかだ。この技能計は、いわゆるスキルの練度を数値化することができる機器である。


一般的なA級冒険者の数値は500前後。1000を超えると、S級冒険者の素質があると言われている。


(あまり真剣にやっても悪目立ちするだけだな。適当に力を入れて……そうだな。ざっと1500も出せば文句はないだろう)


フォルテは涼しい顔でレバーを握った。

すると、メーターが凄まじい速度で上昇を始め、すぐに1000を超えた。周囲の人間が固唾を飲んで結果を見守る。やがて数値の変動が落ち着いてきたのは、3000を超えた頃だった。


「ぎ、技能値、『3808』だって!?」


「おい……S級冒険者の中でもかなり上澄みだろ。何者なんだ、あの男」


異次元の測定値に城内が湧いた。

有無を言わせぬ実力で、誰もが認めざるを得ない。

連れてきた張本人であるローズも誇らしげに胸を張っている。


「流石です!こんな数値、今まで見たことがありません!やはり私の見る目は間違っていなかったようですね」


「もうちょっと抑えるつもりだったんですけどね……」


称賛されるフォルテを見て、面白くないといった顔をしているのが1人。

アランだ。彼の技能値は調子の良い時で1500を超える程度。それを表情ひとつ変えずに、倍以上のスコアを軽々と叩き出した。

彼を絶望させたのはそれだけではない。


(奴は片手だった……片手で何食わぬ顔をして数秒握っただけで、この数値を出しやがったんだ!)


底無しの実力を察して戦慄したアラン。

周りがモニターの数値に釘付けになっている中、彼だけはその事実に気付いていたのだ。測定器の故障だと現実逃避することもできたが、本能で感じ取っていた。

目の前にいる男が、最強の冒険者だということを。




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最強すぎてギルドから追放されたが、スキル『調香師』を買われて王女に雇われたので万事解決です! オニイトマキエイ @manta_novels

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