R&E=@お題「おTなジュース」

まなたす

第1話

R&E=@お題「おTなジュース」




天に昇った太陽もそろそろその日の役目を終え、闇に帰る支度を始めた黄昏の時刻。


昼間に比べるともうだいぶ影が横に長くなってきている。


日中と本当に同じ太陽なのかと疑うほどその夕日は紅く、どこまでも美しい。


遠くの雲はその夕日のせいで赤や黄色に染まり、不思議な模様を見せてくれていた。


そして。

同じく夕日で紅く染まった、古びた街道を。


二人の若い女性の冒険者が歩いていた。


「ちぇ、今日はシケた稼ぎだったぜ…」


まるで男の様な口を聞く、そのうちの一人…比較的軽装の青いライトアーマーを着込んている戦士姿のエステルが、先ほどの仕事の愚痴をこぼしていた。


金色のショートヘアは夕日を浴び、なお鮮やかで深い金色に輝く。


緑色の大きな瞳はまんまるで。

瞳孔は眩しい夕日を浴び、縦に細く長くなる。


頭の上に獣のような、ふわふわした耳があり、更にお尻に尻尾もある。


猫と人間を融合させたような、この特徴。

ここの大陸ではあまり見かける事の無い比較的珍しいケモノ種族である。

一応なんちゃら、という正式な種族名があるのだが、周りからは猫、猫人(びと)、猫娘等、とりあえず猫が付いていればいいんじゃね?的な適当な呼ばれ方をしている。


まあ、とうの本人もその猫故の性格か、全く気にしてはいないようだが。




——ここは、王都より遠く離れた田舎の村。



そんな場所ではあるが、よくある魔物の討伐の依頼であった。


魔物に作物が荒らされる、夜道で旅人が襲われる、夜中に魔物が月に向かって咆哮して眠れない、など、など。



しかし。

いざ討伐に来てみると、魔物の住処と思われる場所は既にもぬけのからで、空振りといえばただの空振り。何も無し。誰もいなかった。


っとは言っても一応痕跡はあるのだが、奴らは生意気にも旅をしているようで、あらかた周りに迷惑をかけつつ、そのまま行ってしまったようだ。



「まあまあエステル。仕方がありませんよ、最近の世は色々と不景気(?)だと言いますし…。

それに。

そうだとしても、せっかくの依頼主さんの気持ちを踏みにじってはいけませんよ」


そんなエステルに、もう一人の女性…濃い緑色の、あちらこちらに装飾や魔法の術式、護符などを散りばめられた、しかしそれでもほぼ全て同色なのであまり派手なローブ姿ではない(はずの)魔道士姿のローテは、頭に掛かるフードをふわりと開け、エステルに優しく語る。

上げたフードと共に彼女の好きなラベンダーの香りが微かに香った。


輝く銀色の髪の毛は、エステルと同じく夕日を受けて紅く染り、真っ赤に見える。


彼女を見つめる瞳は濃い青色で、吸い込まれそうに美しく綺麗であった。


そして、彼女は見た目は普通の人間…に近いが、普通の人間より耳が長くとがっている。


(まぁ、エルフの一族とは遠い親戚みたいなものです)


と、彼女はよく口にするが、それ以外はあまり自分の生い立ちを話さないので、謎と言えば謎の女性だ。


「まぁ、しゃーねぇったらしゃーねぇけどさぁー…。こんな所まで来ておいて、この稼ぎじゃあなぁ……」


依頼の話はあくまでも討伐だ。

行ったけど居ませんでした、はいそうですか。と仕事が終わるわけでは無い。

当然魔物の討伐費なんて出ない。


しかし、せめて人件費が出たのはラッキーと言える。


言える。うん。


言える、が……


「はぁ…………」


ため息一つ。

エステルは頭の後ろに手を組み、口をとんがらせ、本人曰く毛並みは自慢(らしい)の尻尾は元気なく垂れ下がりながら、つまらなそうに街道を歩いている。


そんな彼女を見兼ねて、ローテはある一つの提案を出した。


……実はローテ。


この仕事を受けよう、と言い出しっぺという事もあり、多少なりとも責任を感じていたりする。



まあその前にちょっと……

ほんのちょっと色々とゴタゴタに2人は巻き込まれ、エステルの髪は焦げ(故にショートヘア)、某街は半壊し、修理だ何だとお金がかかり、2人の懐は実はかなりサムいのである……。



「……エステル。

この街にはとても肌に良いと言われる温泉が湧いているとの噂です。

確かにお仕事は大した額ではありませんでしたが、そこに宿を取るくらいにはなるでしょう。

いっその事、今回の仕事は

「温泉に来た」

という事にして、行ってみませんか?」


「あー? 温泉かぁ……。

まぁ、悪くは……無いが……んー」


せっかくのローテの提案に。

エステルは腕を組み、イマイチ乗る気じゃない返事を返す。


そもそも猫は水が好きではないのだ。

あの、どうも水に濡れる感触が苦手というか、まあ一部のオスに比べてけむくじゃらじゃない分、水に濡れてもその後の水切りは楽と言えば楽なのだが……。

何だろう、本能が語るのだ。


水はやめておけ、と。


しかし……。


いつだったか。

まだローテと知り合って間もない頃。


「エステル?……ちょっと匂うわよ?」


……普段色々な事にあまり興味を示さない彼女だったが、その言葉は流石に刺さった。


それ以来、出来る限り入浴をするように心がけてはいる。


確かに清潔になった感じはする。

確かに疲れが取れる感じはする。

確かに…気持ち良い感じはする。



………本能よ。水はやめておけ。


って。

……マジなのか?w



……と、前置きが長くなってしまったが。

言葉ではそう言っているが、実際はまんざらでも無い様子。


本人は気付いていないが、そんな彼女の考えが、無意識に尻尾の動きに出ていた。


腕よりちょっと長いくらいの、ライトアーマーのスキマから器用に出ている髪の毛と同色の金色の彼女の尻尾は、先っぽだけが少し上を向き、ヒョイヒョイと右に左に行ったり来たりしている。

それは、エステルが迷っている証拠でもあった。


(んーー、もうひと押しかしら?)


……ので。


「エステル。そこの宿はこの辺りじゃちょっと有名で、美味しい料理やお酒もあ」


(尻尾)ぴーん!


「よし行こう」


「はいー☆」


……ま、なんだかんだと言っても、戦闘職一直線なエステルに比べれば、どちらかというと物事を他方から見ることの出来る後衛職のローテの方が一枚上手だったようである。


それに、最近またちょっとね…。

私的には全然嫌いじゃないんですけど、なんていうか彼女独特の猫臭と言いますか…。

っていうか、どちらかと言わなくても全然大大大歓迎ウェルカムカム、イヤッイヤッ!なんですけど!!

ついくんくんクンカクンカすーはーすーはー…と彼女の頭や耳や尻尾に顔を埋めてしまいたい誘惑にかられてしまうので、早くお風呂に入って欲しいのです……!



……ローテの匂う、の意味は。


ちょっとだけ違う意味なのでありました。




そんなこんなで二人は温泉宿に向かった。




既にすっかり日も落ちて、辺りはそれなりに暗い。

魔法の光に灯された街灯がなければ、道に迷っていたかもしれない。


ちなみにエステルは種族の特性上夜目が効くのだが、何せここは知らない街である。

闇雲に歩いても結果は同じであろう。


「お、こっちの道じゃね?」


エステルが指差す方向に、街灯に照らされる宿屋を示す木でできた看板があった。

そこには簡単な地図も描いてあり、道なりに進んでみると…。

少々古ぼけていたものの、それなりに良い作りの宿屋が一軒、建っていた。


二人は旅の疲れもあり、宿屋の中に吸い込まれる様に早足で入って行く。


部屋がちゃんと取れるかと少し心配もしていたのだが、現在は少々時期(シーズン)ハズレな事もあり(どちらかというと暑くなる手前の季節)、すんなりと部屋を取ることが出来た。


温泉に入り、食堂で美味しい宿料理に舌鼓を打ち、銘酒と呼ばれるお酒を部屋で呑み…。


(言葉上では)あまり乗る気じゃなかったエステルも、そして元々乗る気のローテも。


「そうそう、あの戦士! ツェリとか言ったっけ? 楽しいヤツだったよな!」


「一緒にいたネッネという子も楽しかったですよね! あとメィさん!

凄く優秀な方でした!」


「あんなパーティは理想だな!」


二人は前の冒険談で盛り上がり、上機嫌で夜を明かした…。




次の日。


「…、ん…朝か…」


戦士の習慣で、元々深い眠りには陥らないエステルは、ローテより早く目覚めた。


…が、辺りはまだ薄暗い。


そして頭が痛い…。


「ローテは……。流石にまだ寝ているか。

っく。アタマいてぇ……。

ちぇ、飲み過ぎたか…」


ローテは魔道士なので、普段からより魔法を具現化する為に、常にアタマの中で魔法の形や効果、範囲威力等を思い描いている。

そして、その行為は精神力を大きく消費する。


これは一般人に比べると相当疲れるモノらしく、故に一度寝てしまうとぐっすりモード。

朝もあまり強くはないのだ。


ちなみにエステルも一般人以上には一応魔法が使えるのだが、ローテ程の能力では無い。


せいぜい小さめの火の玉魔法で弾幕を張って、そのスキに剣や拳で仕留めに行くのが彼女のスタイルだ。



ぼやけたアタマを少しでもスッキリさせたくて、彼女は朝の温泉に出向いた。


不思議だった。

あれだけ苦手だった水も、慣れてしまえば自分から行きたいな、と思うとは。

それにあれ以来言葉には出さないが、ローテのヤツ、ちょっと自分が風呂に入らないでいると、すぐ鼻をピクピクさせやがるんだよな……。


気付かないわけないだろ、全くw


少しだけ苦笑するエステルであった。


……………


「っあー!! 良い湯だった!」


まだ早朝なので、誰も居ない広い温泉に飛び込む様に彼女は浸かり、二日酔いも多少良くなって上機嫌。


脱衣場で下着姿に肩からタオルをかけただけの少々みっともない姿で、温泉に火照った自分の身体を冷やしていた。


ふと部屋の隅に。

氷の術で作られた容器の中に、なにやら赤い飲み物が汲んで置いてあるのに気付く。そこには


【冷たいトマトジュース、ご自由に。

火照った身体、二日酔い、そんなあなたに。美味しいですよ!】


っと書いてある。

昨日は無かった物だ。

きっと宿の女将が気を利かせて置いてくれたのだろうか。


ってか、まるで自分の事じゃんw


内心そんなツッコミを入れつつも、エステルは同じく隣に置いてあるグラスにトマトジュースを注ぐ。


そして一気に飲み干した。


「っかー! めっちゃおいしい!」


氷の術で良く冷えたそれは、思わず口がとんがって尻尾がビリビリしてしまう程に酸っぱいのに甘みもあり、更に絶妙な塩加減のテイストで、温泉で火照った身体に染み渡る、とても良い味がした。


そんなトマトジュース。

とても一杯では足りないと彼女に思わせた。


「おかわり、おかわり〜♪」


左右に尻尾を振りながら新たにグラスにトマトジュースを注ぎ、腰に手を当てて、まるでどこぞのオッサンの様なポーズで二杯目を煽り始めるエステル。


ごくっ…ごくっ…ご


ガタッ。


その時。


脱衣所に男が一人、入って来た。










……女湯に。




そして、お互いに目が合い、凍りつく。




え。


ちょっ、オトコ?


ち、ちょっと!私パンツしか履いて無い上はタオル首から下げておっぱいはタオルで辛うじて隠れてってここは女湯女湯男子禁制の女湯女湯おおおおおおおお


「ぶーーっ!?」


「うおっ!」


エステルは口に含んだトマトジュースを男めがけて思わず吹き出し、そしてほぼ同時に


「滅殺…」

シュン!

エステルが強く床を蹴り、風を切る!

幾重にも彼女の姿が霞んで見えて、それは男に収束する…!

「瞬間千撃!!」


っどごごごごごごごggggggぉっっ!!


「!?ぐああああああ」


あらゆる方向から身体中に打撃を受け、男の身体が宙に浮く!


「闘!!」


ドグァガァ!!


目にも止まらない速さで宙に浮いた男の鳩尾に、寸分の狂いも無く全力の掌底を決める!!


てか音!人体に当たった音してない!w


そのまま男は脱衣所の壁に吹き飛び、叩きつけられる!


「がっ……!」


そしてぺたり、と情けないポーズでへたり込み、そのまま動かなくなる。


knock out enemy!


〜 Ester win!〜


「ったく、女湯に入ってくるとは良い度胸だぜ! このボケがぁ!」


……だっだっだっ……


ガタタッ。


「な、何事ですか!?」


その時。

騒ぎの音に気付いたのか、ローテが駆け付けて来た。

いや、エステルの殺気に飛び起きたか。

いくら朝が弱いとはいえ、普段から魔道士として精神というものに深く関わるローテは、他人の殺気などの感情の変化には非常に敏感だ。


「おお、ローテか。お早う!」


「エステル! あなた、何をしているの?」


「ああ、朝風呂入ってたら、急にこいつが入って来てな…。思わず撃退しちまった、という訳さ」


顔の向きは変えず、目だけを倒れた男にエステルは向けた。


その倒れた男をローテは見るなり


「!!マ、マスター!?」


「…。…えっ、ま、マスター?

ローテのマスター!?」


をい。


おいコラちょっとまてや。

ローテのマスターが何故こんな所に!?


「何て事! こんなに血塗れで…マスター、マスター!!」


ガクガクと、(エステルが吹き出したトマトジュース塗れの)マスターと呼ばれる男を揺さぶるローテ。

本人はピクリとも動かない。


宙に浮かせてガードもままならない中、更にフルパワーのを鳩尾に決めたんだ。

壁まで吹き飛んだ時に(つーかよく壁が壊れなかったものだ。頑丈だな)背中にも衝撃が走っているだろうし、多分しばらく意識は戻らないだろう。


「え、あ、いや、あの…ローテ?

それ、血じゃなくてトマトジュ」


「あなたがやったのね?」


びくっ!


ローテの鋭い殺気に、エステルの耳がペタリと下を向く。


ヤバイ。ローテのヤツ、目がマジだ。


「あ、いや…たはははは!

だってコイツ、女湯に入って来たんだぜ!?」


思わず乾いた笑いで何となく言いわけを並べるエステル。だが……


「ここが女湯なのは、昨日の夜迄です。朝になったら切り替える、と、泊まる時に女将さんが言っていたじゃないですか。

そして、今は。

入り口の所の看板には、しっかり男湯と書いてありますが?」


「…………え、マジ?」


寝ぼけ眼で歩いて来たエステルは、入り口に掲げてあったカンバン(笑)なんて当然確認などしていない。

ただ、昨日と同じ場所に来ただけだ。


「えっ……?え…えーっ、と……」


「あなたは男湯と女湯を勝手に間違えて入った上に、本来の男湯のつもりで入って来た私の大切なマスターを……」


ゴクリ……


更に膨れ上がるローテの殺気。


目つきがギラリと変わる。



これはアカン!


ローテの力が…弾けようとしている……!?


ローテが話したがらない生い立ちの中に秘密がある事だが。

彼女は時折り自分の激しい感情の渦に飲まれてしまう事があった。

前にも何度かあって、その一回は街を…。

いや、今はそれどころではない!


「いや!オイちょっと待て!お前人の話を……」


「コ ロ シ タ ノ ネ ?」


その渦に飲まれてしまうと、ローテはもう人の声は届かなくなる。


急に彼女…ローテの瞳から光が消え失せる…!


「馬鹿やろう、殺してねぇし!!」


「オ前モ…死ヌガ…良イ…」


グゴゴゴゴゴゴォォォォ……!!


もはやローテは完全に内なる力が覚醒し、制御不能状態に……!!


脱衣所の中は、部屋の中のはずなのに、今や彼女の力の暴走で台風の様に風が荒狂って吹いている!


やべえ、こうなったら手が付けられない。

もう逃げるしかない!


そうと決まれば長居は無用!

エステルは持ち前の素早さを駆使し、ローテと脱衣所の壁の、ほんの少しのスキマを一瞬で駆け抜ける。


ガチャン。


その時、後ろで何かの割れる音がする。

見ればあのトマトジュースの入った氷の容器が風に煽られて壁にブチ当たり、砕ける音だった。


ばしゃああ!!


そしてそばにいたローテは、モロにそのトマトジュースを全身に浴びてしまう。


強風に煽られた髪の毛が逆立ち、全身にトマトジュースをかぶった彼女は、まるで何処ぞの伝説に出てくる

「血塗られし魔女」

そのものである。


ぞくぞくっ……!


(うわ、こわっ!

……ああ、でもトマトジュース!うまかったのに、勿体無い…)


「……ぷっ」


覚醒したローテに殺されそうだっていうのに、エステルはふとそんな事を考えてしまった自分に苦笑する。


これは余裕なのか、そうでは無いのか…。


本人にも分からない。


ま、取り敢えず今は逃げるが勝ち!


エステルはそう決め、身を翻し……




ふと、風が止む。


「…………?」


ん、どうした?


急に静かになる奇妙な感覚。まるで音だけがこの世からなくなってしまったような、突然の静けさ。


恐る恐るエステルは彼女に振り返る。


そこには、ローテが青い顔をしながら……


「と、トマトは……匂いがニガテ……です……」


ばたっ。


そのまま前のめりに倒れるローテ。




てか、お前……





トマト、ニガテだったのねwwwww





その後。


エステルはローテと、ローテのマスターを気付かせ、二人に事情を説明する。


(ちなみにローテは、意識を回復するなりトマトジュース塗れの服を青い顔をしながら着替えた)


「まぁ、エステルの朝の寝ぼけようと言ったら、いつものことですからね」


「オマエに言われたくないわ!

そしてまずな、ローテ!

オマエは人の話を聞くように心掛けろ!

…これで一体何度目だよっ!?」


「…てへっ☆」


ローテは下をチロッ出してウインクした。


「てめぇ…。かわいこぶっているんじゃねぇ!

だいたいそんなに苦手なのに、マスターがトマトジュース塗れの時には何でオマエは気付かなかったんだよ!?」


エステルは言いながら、尻尾の先の方が少し逆立つ。

こういう所は猫そのままだ。


「あの時はエステルがマスターを殺っちゃったかと思って必死だったんですよ!

それはそうとマスター?

何故、このような街にいらして居るんですか?」


エステルのツッコミを軽く受け流し、

(まだ何やらギャーギャー言っているが)ローテはマスターと呼ぶ男に話しかける。


「あ…あぁあぁそれはだな。

と、突然ここの風呂に入りたくなってだな。

転送の術ではるばる来たというわけだ」


何故か軽く赤面し、慌てて弁解を始めるマスター。


「あ、そうなんですか♪

いつもながら、それは凄い偶然ですね!」


「……んな訳あるかぁ、このストーカー野郎!」


「い いや、な、なんの事……かな?」


このマスター。


実は弟子であるローテが可愛くて可愛くて仕方が無いらしく、いつも何かと理由を付けては彼女達……もといローテの元に、いつでもどこでも現れる。


という、変態師匠なのである…!


グレーの髪の毛をかきあげ、ニッと笑う彼。

確かにイケメンのイイオトコ。ではる。


前に魔道士学校の教師(マスター)をしていたらしいが、その時はたいそうモテていたそうだ。


そしてローテと同じく魔道士のクセに、半裸で(てか毛皮のパンツ一丁的な)クソでかいクレイモア辺りを振り回していた方が似合いそうな程がっちりした筋肉隆々の体型をしているし。


これで、自分の弟子の追っかけなんでしてなければ、ごく普通のかっこいいおっさんなのに。


エステルから言わせると、ただひたすらに


「…………きっっしょ(猫ジト目)」


なのであるw


エステルはとうの昔から、このマスターの奇行に気付いていたが、ローテは普段からおっとりし(過ぎ)た性格が災いして、そんなマスターの気持ちに全くと言って良い程気が付いていないのだ。


「はぁ。

んじゃローテ!気を撮り直して」


バカ話も気分一転。


今日の冒険のスタート地点はここである。


「そうですねエステル。取り敢えず出発し」


「あの、お客様。脱衣所の壁などの修理代の件ですが…」


その時、ローテのセリフを遮って、宿屋の女将が突然現れた。


三人はそのまま示し合わせたように、流れるようなタイミングで、


「転送の術」

「沈黙の術」「転送の術」

「転s………。ぅっく!!?」


ただ一人、転送の術の発動に失敗したマスター。

女将に首根っこを掴まれる。


当然と言えば当然だが、ローテの力の暴走により、片方の脱衣所はボロボロ、置いてあった椅子や鏡もバラバラのバリバリで、とてもじゃないが使い物になる状況では無かった。


その後。


光に包まれて冒険に出掛けた(逃げた、とも言う)二人に変わって、脱衣所の弁償代を稼ぐ為に、しばらく泊り込みで宿屋のお仕事に勤しんだ、それはそれは優しい師匠なのでありました!


めでたし、めでたし。


完。
















「…ローテ。少しは師匠である私を尊敬しないか……!!」


パカーン!


「いっっ!!?

…… あ、女将さんっ…。 ふ、フライパンは武器じゃ無いですよ?」


マスターは、フライパンで殴られた頭を摩りながら、今まで数々の女性を虜にして来たと言う、自称必殺技の


『スーパー流し目&超イケメンクールスマイル!(!マークがポイントらしい)』


を女将さんに放つが、


「ふん…。言い訳する為に口じゃなくて、仕事の為に手を動かしてもらいましょ。逃げちゃった可愛い弟子の為なんだろ? 諦めて働きな!」


女将さんの抵抗値が高いのか、マスターの必殺技(スーパー流し目&超イケメンクールスマイル!(!マークが略))がショボいのか、効果は全く無かった…………


「ふえぇ……」


「女みたいな声だしてんじゃないよ!」



今度こそ完。


今回のお題

「トマトジュース」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

R&E=@お題「おTなジュース」 まなたす @manatas

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る