第8話 いつ持ち込みに行く?
「一旦休憩ぃ~」
ペンの練習を始めてからおよそ一時間半。
優香はネームがいいところまで進んだようで、一度休憩に入るようだ。
「お疲れ」
「うん、とりあえず15ページまではネーム出来た」
「もう15ページ?! 早くない?」
「一応、昨日から描いてたんだよね」
昨日から描いていたとはいえ、もうすでに15ページまで描きあがっているのはかなりの速さに感じる。俺自身がネームを描き上げた経験がないから詳しくは分からないが。
そういえば何ページ分のネームを作るつもりなのだろう。
週刊少年ラッシュの持ち込みには規定ページ数などはなかったと思うけど、何ページ以内で仕上げたいとか決めていたりするのだろうか。
「何ページ以内で仕上げる予定とかあったりするの?」
「一応、25ページの予定かな」
「25……?」
「うん、これ見てよ」
春香はスマホの画面を俺に見せた。
そこには『週刊少年ラッシュ新人漫画賞』と書かれていた。
週刊少年ラッシュが毎年開催しているまだデビューしていない人たち向けの賞である。
そういうことだったか。
たしか、その賞の規定ページ数が25ページ以内だった気がする。つまり、春香はその賞を狙っているということなのかもしれない。
「この賞を狙うってこと?」
「んー、少し違うかな。ラッシュに持ち込みに行って、もし良い評価を受けたら連載の方向にならなくても、その時に応募を受け付けている賞に出してくれることがあるらしいんだよね。だったら、その賞の規定に合わせたページ数で作っておいた方が良いんじゃないかと思っただけだよ」
「なるほど、そういうことだったんだ」
「そう。でも、その場で面白くないって言われてビリビリに破かれる可能性もあるけどね」
「そういう話、たまに聞くよね。目の前でシュレッダーに入れられた、とか」
「怖いけど、そういうことも覚悟しておかなきゃね」
春香はちゃんと考えて描いてくれているようだ。
それに、もし上手くいかなかった場合のことも覚悟している。とはいえ、もちろん上手くいった方が良いに決まっている。そのためには俺自身の実力も向上させることが絶対条件だな。
持ち込みに行けば何かしら意見をもらえるのは間違いない。
となると、出来る限り早く持ち込みに行って、何度も意見を聞いて自分たちの作品を良くしていけたら良いと思う。
だけど、これはあくまで俺の考えなので、春香も同じように思っているのかは分からないので、俺は直接聞いてみることにした。
「いつ持ち込みに行く?」
「できれば来月中には行きたいかも。奏太には少し負担が掛かっちゃうと思うから奏太がきつそうならもう少し遅らせても大丈夫だよ」
来月中か。
かなり大変かもしれない。ネームを持ち込むのではなく、完成原稿を持ち込まなくてはならないからな。
まだペンに慣れていない俺が来月中に完成原稿を作り上げることが出来るのかは現段階では分からない。それでも、挑戦すると決めたからには楽な道を選んでいてはだめだと思う。
原稿は、清書したネームをもとに、ちゃんとペン入れして、ベタ部分はしっかりと墨を塗り、トーンが必要な場合はトーンも貼ったりしなくてはならない。
かなり手間のかかる作業だ。
それを来月中に描き上げる。
簡単なものではないだろう。
それでも、俺はやり遂げてみせる。
「任せてくれ。必ず来月中に完成させてみせるよ」
「大変だと思うけど本当に良いの?」
「ああ、もちろん! アニメ化を目指すんだろ? このくらいできないとアニメ化なんて夢のまた夢だよ!」
「そうだね! それじゃあ、私も最高に面白い話に仕上げてみせるね!」
「二人で頑張ろうな!」
「うんっ!」
こうして俺たちは来月中に完成原稿を仕上げて週刊少年ラッシュに持ち込みに行くことに決めたのだった。
失恋した俺は漫画を描くことになった。超絶美少女と。 夜兎ましろ @rei_kimura
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