第2話、人間とバスケットボールと彼

『2028年に地球再開発会議(ケルマディック会議)において我が国は地上の再開発を提案し、多くの国が賛成しました。しかし、その達成までには様々な技術的、政治的困難があり、現在まで議論が続いています』


ね、ねむ・・・「(ノア、起きて!)」

黒板のチョーク音が、クリック音に聞こえて、、も、だ、!


「いっ!?」

「はい?」

「あ、はい、先生、あ、あの質問いいですか?」

「もちろんです」

「技術的なのはわかるのですが、なんで賛成したのに政治的困難があるんですか?」

「いい質問ですね、皆さん、なんでだと思いますか?隣の人と3分間、話し合ってみてください」。


あっぶない。よかったー。でも、前からメモと同時にデコピンが回ってくるなんて!痛い…。


「あの、どう思う?」

「え、あ」

「あとメモ、腕に付いてるよ」

「あ、ありがと」


少し笑いながら隣の男の子が話しかけてくる。ぐっすり寝てたからぼんやりしてよくわからない。


『27ページが宿題だって』

うー。政経は宿題がレポートだからメンドー。


「本当、レポートは調べ物が多いから困るよね」

「うん。でもレポートなかったら新聞とか読まないかも」

「新聞読むの?」

「うん。今、駅前の喫茶店でバイトしてるから新聞あるんだ」

「俺は新聞はネット」

「ネットの方が楽だよね。紙だと色々と書いてあるから知らないことがわかるのがいいよ」

「例えば?」

「稲荷木町のカフェの歴史とか」


「あら、それは私も知りたいですね?」

「いっ!」


「先生はどちらにお住まいですか?」

「私は鬼高ですよ」

「あ、先生のお家近いかも?」


どこだろ?うー「では、なんで賛成したのに進まないのか話しましたか?」

「あ!?」

「みんなでのんびりカフェしていたら、進むかもしれないって有野さんと話してました」


ナイスフォロー!!水谷くん、ありがとう。

賢そうなメガネがキランと光っている!


小さく「ありがとう」って両手を合わせてお辞儀をしたら、笑いながら右手を振ってくれた。ミツルくんには負けるけど、ちょっとかっこいいかも。


「え、じゃあ、ミツルくん推し止めるの?」

「違うし!ミツルくん推しって、そっちも違うし!」


「だってさー」


「え?」「え?」


え??ミツルくん、真後ろ。

そっか、ここ体育館への通路だった。


「ミツル推し、止めるって」

え、嘘。遠くでバスケットボールの音がしてる。


「ちょっと、やめなよ。ノア、困ってんじゃん」

「ミツルはノアちゃん推し辞めんの?」

「え、あ、ちょっと、何言ってんだよ!」


ど、どうし「あ、私、アルトホルン、教室に忘れたから取ってくる!!」


「アオハルだわ」「アルトホルン?サックスはいずこへ?」「ミツル、顔あけー」「うるせー!」「あら、これは両片思いというやつでは、さちこさん」「あら、これはラブコメというやつでは、あつこさん」


『♩〜♫〜♬〜♫〜♫〜♩』


「どしたん?ノアちゃん?」

「あー、もしもーし?とりあえず、練習せずに手が空いてるなら部の合奏曲、手伝ってほしいんだけど。文化祭に間に合わせないと」

「あ、はい!」

「アルトホルンでごめんね」

「代わりにバンドの独演会は捩じ込んだから。3人の即興、楽しみにしてる」


タクトに合わせてアルトホルンを吹けば、力強くしっかりした音色がみんなのメロディに合わさって、身体まで痺れるような圧力のある音楽になる。


うー!幸せ!


唸れ!アルトホルンは絶好調!

アルトサックスも頑張ります!


『文化祭まであと48日!ポスター募集中!明日のスターは君だ!!』


「じゃあ、今日もおねいさんは忙しかったんだね」


常連さんは砂糖2本とミルク2つを入れた水球コーヒーを美味しそうに飲んでいる。せっかくのエアロプレスコーヒーの味、わかってるのかな。ああ、ラテアートしたいなー。


「高校は楽しい?」「はい!」「そっか。じゃあ、今日はどんなことを新しく知ったんだい?」


ちょっと早口に捲し立てられて、話し始めると、あれ?今日あったことを話すと、なんだかちょっと、焦ってくる。もしかして、今日、何もしてないかも!?


「大丈夫。時間は平等で、本当はいっぱい色んなことしてるから」

「でも、昨日と変わってないかも!」

「アルペジオだっけ?出来たんだろ?不思議だよね。人は50年という設計図で生きる為に全てを捧げていた。陸からも、時間からも解放されてだいぶ経つのに、未だに若さしか持ち得ない情熱から解放されない」


くすくす笑っているけど、本当に高校生は時間がなーい!もっと練習したーい!


あ、コーヒーのお代わりです。どうぞ。


お家まで一駅。週3日、平日だけ17時30分から20時30分まで3時間、交通費支給。通学定期代もバカにならないし、ついでに廃棄予定の軽食無料!部活帰りに温め直したナポリタンが美味しい。


「ただいまー」「おかえり」


ご飯は食べてきたから、夕飯はパス。

アルトサックスを部屋に置いて、リビングに向かいながらも指が『Yesterday once more』に動いてしまう。うー、明日が待ち遠しい。


「ねえ、ママ、今日さ、朝からいいことあったの!だけど、全然、何も出来てないの!」

「とりあえず、それより、先にお風呂入って着替えなさい。お弁当も出しておいて」

「はーい。お弁当ありがとう。美味しかったです」

「はいはい。で、何があったの?」


温かいお風呂上がりに、ふかふかのクッションに座って、ラジオから好きな音楽が流れるのを待っている。


あのね、今日もいっぱい、いっぱい、いいことあったよ。ねえ、明日も、きっと、いいことあるかな?


ねえ、おやすみ。おやすみなさい。

また、明日。

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水の都、緑ヶ丘高校のノアは今日も元気です。 Coppélia @Coppelia_power_key

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