水の都、緑ヶ丘高校のノアは今日も元気です。

Coppélia

第1話、人魚とアルトサックスと私

今日は朝からいいことがありました。


朝練で大好きなミツルくんに会えたこと。

昨日まで出来なかったアルペジオが綺麗に吹けたこと。


演奏が終わって、ピアノのあっちゃんとヴァイオリンのなっちゃんを見れば会心の笑み。やったね!


『キーンコーンカーンコーン』


「じゃ、また放課後!」

「うん!」


「・・・であるから、我々人魚は、丘の上にいた人間の先祖と袂を分ち、海の中に住んでいましたが、丘の上が住めなくなってしまったため、今の人間達を海の中に受け入れて、現在も共存している訳です。」


校庭では2年生が体育の授業中。

来月にはインハイ予選、入学してもう3ヶ月。


散ってしまった桜を見て、ため息ついたら空気の泡が口から漏れてしまった。


「有野さん、では、我々と丘の人との違いはなんでしたか?」

「え、あ、はい。我々人魚は水中の酸素を肺で取り込んでいます。丘の上の人は空気中の酸素を肺で取り入れていました」

「はい、そうですね。あとは丘の上は抵抗が少ないため、彼らは我々よりも俊敏に動けたそうです。」


危ない。中間テストで赤点だと部活動参加禁止になっちゃう。


中学時代は帰宅部で、高校入ったら部活するぞ!って思ってたから、禁止なんて絶対いや!


ママは「いい高校入って、いい大学出ないとやりたい職業が見つかったときに、その職業が選べなくなるから、今はがんばれ!」って、パパが海面警備隊の任務で星に還ってから、ずっと言っていたから頑張った。


ここ、公立緑ヶ丘高校は水の都の中でも進学校!


もちろん上には上があるし、他の都市とか国外留学とかまで入れたら違うけど。


でも、この若草色のチェック柄のロングスカーフがかわいいし、制服はお気に入り。


机に下げたアルトサックスが私の相棒。アルトサックスの理由は憧れだった佐藤先輩が吹奏楽部でアルトサックスを吹いていたから。


高校で部活するなら吹奏楽部でアルトサックスがいいなーって、ぼんやり思ってた。


佐藤先輩は櫻川高校という、音楽の名門校に進学された為、お別れになってしまったけど、入部してから街で偶然再会したときに報告したら喜んでくれた。


私のこと、覚えていてくれて嬉しかった。

勇気出して、声かけてよかったー。


だから、部活見学はもちろん吹奏楽部からスタート。いろいろ見学したけど、初めて持ったアルトサックスは、本当にかっこいいし、部活動は吹奏楽って決めた。


でも、楽器代あるし、うち母子家庭だし、で、ママにおねだりしたら「赤点取ったら部活動禁止!」って条件でアルトサックスを買ってくれた。


だから、授業中は集中!メモメモ。

ママ、ありがとう。私、学校も部活も頑張ります!


緑ヶ丘高校に入って、部活であっちゃんとさっちゃんって友達もできた。あと、好きな人。


人間のミツルくん。ミツルくんは私達みたいに水かきないのに走るの早いし、バスケットゴールにシュートするときの本当に絵に描いたようなかっこよさ。


うー!かっっこいいー!!


一年生なのに、もう準レギュラー。中学違ったから知らなかったけど、中学時代からインハイ出てるプレイヤーでスポーツ推薦だって、噂好きのよっちゃんが休み時間に教えてくれた。


まだ、ミツルくんが好きとか言ってないし、にやにやされるの、恥ずかしいんだけど。


でも、今日も下駄箱で「おはよう」って言ってくれた。朝早いから、2人きりの下駄箱。


頑張る、部活。


昔は人間と人魚の恋とか、なんて言ってたらしいけど、別に今は普通だし。ミツルくんはどう思っているかな?


『お昼の校内放送を始めます』


もっといい音、楽しい演奏。

身体が自然と動いてしまうような即興演奏。


サブスクだと演奏違いとかないから、中古レコードショップ回りで放課後が終わってしまうのが悩み。


アルバイトしないと。


アルトサックスのリードも消耗品。コンクールの遠征費や部活動費にライブ演奏とか観たいし、もう、一日24時間じゃ全然足りない!!


「ノア?どした?」

「うー。一日24時間って誰が決めたんだー!」

「地球の自転から?」

「うー」

「部活とバイトと勉強。高校生は暇なしですなー」

「ほんとそれ!でも今日はいつもより上手く吹けたからさいこー」

「前向きなノアちゃんがかわいい」

「そう思うなら玉子焼き一切れください」

「ほれ」


甘い玉子焼きを口に突っ込まれた。

よし、午後も頑張ります。

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