第23話




試験官のA級探索者が刀を振るうと炎の線が訓練場を走る。いくら戦闘をするための頑丈な施設といえども壁や床はともかく天井はそこまで強くない。あの魔法の炎が何度も当たれば危ういだろう。


「あ~~っ。佐橋さん、やっぱり熱くなってる……」


私、佐藤麻衣はモニター越しに試験の様子を見て頭を抱える。


試験官としての資質に欠けるこの人でも対人で手加減ができて、協力的なのだからギルドは重宝している。その代わり、ある程度であれば自分のギルドにしつこく勧誘するのを目をつぶるわけだけど。

そんな佐橋さんがいつも以上に本気になってしまってるのが問題だ。


初受験だから多分レベルは40くらい、佐橋さんはレベル52。ステータス差を考えたらアーティファクトの『解放』をしなくても相手にならないはず。


確かに技量はさっきの盾の使い方は素人目から見てもすさまじい。まるで取り皿のような大きさの盾で刀の斬撃を捌くなんて信じられない。


「あの盾は自己修復能力を持つアーティファクトなようですね」


アーティファクトの能力は1つだけ、だから佐橋さんの攻撃はもう防げない。

普通ならばこの時点で勝負を諦めるはずが――――


「お互いにまだまだやる気なのはなぜでしょうか?」


名前は伸田くん……でしたね。少し驚いたもののすぐに表情を戻し、さっきと同じ構えを取りました。


『ぐぬっ』

「あっ!?」


炎と速い動きのせいか全く何が起こったのか分かりません。


驚くことに苦しそうにしているのは佐橋さん。一方の伸田くんは体も盾も無傷な様子。さらに佐橋さんを待つように下がる彼の様子から、狙って攻撃を当てたことが推測できます。


『なるほど刃に当てず、刀の腹を押せば多少魔法を纏っていても関係はないな。……お前、俺に格の違いでも見せつけてるつもりか? 今もいつでも俺を仕留めれると言いたげじゃあねえかっ!』

『…………』

「いけませんっ!」


どうやら戦闘狂のプライドに触れたようです。佐橋さんが試験なんて知ったことかとブチ切れていますっ。


すぐにスマホで応援を呼ぼうとするも、多分それは間に合わないでしょう。目の前では殺し合いが始まっています。


心配した通り、数秒後伸田くんは大きな傷を負いました。


しかし戦闘再開のその瞬間、信じられない言葉がスピーカーから聞こえてきました。


『やっと楽しくなってきた』




私たちが訓練場に突撃したとき、戦いはすでに終わっていました。


立っていたのは伸田くん。双方とも血だらけ、しかも勝ったはずの伸田くんのほうがやけどの分、重症に見えました。


「「「っ…………!!」」」


言葉に詰まるとはこのことでしょう。立つのもやっとのケガに見えるのに、息もほとんど切らさず、淡々と傷口にポーションを掛けていました。


治療が終わったのかポーションを掛けるのを止め、伸田くんの動きが止まり。私たちの時間も動き始めました。


「キミっ。大丈夫なのか……?」

「見た目はこんなのですけど、なんともありませんよ」


キズが綺麗に塞がっても、さっきの光景が目に焼き付いています。そのことは服が激しく焼け焦げていることからも間違いありません。


「ところで動きが早くてほとんど見えなかったんですけど、武器はどこですか?」

「使っていませんよ」

「「はぁっ!?」」


やはりこの子は異様なようです。ただの事務員の私じゃなく、応援で駆けつけてくれたA級とB級の探索者までもが驚くのです。それは確かでしょう。


「ならキミは丸腰で試験に臨んだというのか!?」

「丸腰じゃありません。このとおり、ちゃんと盾を持ってきていますよ」

「「「…………」」」


やっぱりその盾、取り皿の大きさしかないじゃないですか。

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ドMバーサクのノビタさん――――スライムに窒息させられてマゾに目覚めた最凶探索者はダンジョンの悪意すべて食らい尽くす みそカツぱん @takumaro123

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