第22話





「ようやく来たな」

「……どうもこんにちは」


とても試験を受けに来た人間に言うセリフじゃないんだよなぁ。


B級探索者試験を申し込んだボクは試験会場にやってきた。何年も級を意図的に上げなかっただけあって、流石に筆記試験は余裕で合格できる。


受験者はボク1人だけ。

そもそもC級探索者自体がそこまで多くない。筆記試験にはほとんどの人が合格するので実技試験は申し込み次第すぐに準備が行われるらしい。国の人材確保の必死さが伺われる。


問題は目の前の試験官。顔見知りというかストーカー的存在なサハシさんだ。


腕を組んで仁王立ちで、ボクを迎えるこの人はどう思っても戦闘モード。


「ところで試験って「もちろん俺とサシの勝負だっ!!」……ですよねー」


何度もボクへ試験を受けるよう言ってきたこの人は、同時に自分のクランに勧誘をしてきた。


そんな誘いを断って跳田大学に入ったボクに思うところがあるのは当然だろう。わざわざ試験官をやろうと手回しをする時点でその執着は相当なものだ。


だけどギルド側もバカじゃない、サハシさんのボクへの執着は承知なようだ。


「言っておきますけどサハシさん、試験の様子は記録されていますからね」

「おうっ。もちろんこいつを壊そうなんてしてねぇっ。ただどこまでできるか限界まで追い詰めるだけだっ!」

「はぁっ……。問題にならない程度にやってくださいね。いくら上級ポーションでも死人は生き返らないのですから」


ギルドの事務員の女性は案内のときからずっといた。サハシさんが存在感を放つこの部屋の中では影が薄い。

彼女は注意の言葉を残し、この訓練所から退室する。


「さぁ。俺に全力をぶつけてみろっ! そして俺の強さに惚れ込んでクランを移れっ!」

「うわぁ……。暑苦しいなぁ」


サハシさんはA級探索者。ボクはC級ダンジョンまでしか入ったことがない。

普通に考えればレベル差でまるで相手にならない。


。モンスターと素手で戦ってきたボクの相手にはならないだろう。


「いきます」


そんな言葉は胸にしまい、ゆっくりと歩いてサハシさんに近づく。彼は武器を抜いて待ち構える体勢だ。


サハシさんの武器は刀。しかし体で刃を隠すように構えているので間合いが掴めない、慎重な立ち回りが必要だ。


間合いをある程度詰めるとボクは歩き方、体勢を変える。そこからボクサーのように左腕を前に出した構えで腰を落とし、さらにすり足でじっくりと距離を詰める。


「ほう」


感心するようにサハシさんはそう声に出した。その声が消えるか消えないか、そんなタイミングで左から斬撃が飛んできた。


チュイン。


ボクは左手の甲に付けたで斬撃を逸らす。余裕があるのでついでに押し込み、体勢を崩そうと試みる。


しかし速いだけで腰が入った攻撃ではなかった。サハシさんはすぐに刀を返し、連撃に切り替える。それをボクは余裕を持って捌く。


「まるで神業だな」


ある程度攻撃をしたところでサハシさんの方から距離を取り、つぶやいた。


まだお互いに小手調べ。このくらいの技量なら想定内だと思うが顔が笑っているどうやらギアを上げて戦えることがうれしいらしい。

サハシさんの圧が強くなった。


更に攻撃を受けるも速さには慣れた。

さっきはけんに徹するためわざと斬撃のトップスピードのところを捌いたが本来は攻撃の出所を潰すのがボクの本来のスタイル。ボクは反応速度を上げ、どんどん間合いを潰す。


ボクの丸盾は盾としてはかなり小さいオーダーメイド品。直径15センチメートル。球を切り取ったような厚みのこの盾を傷つけるのはなかなかに骨が折れる。頑強さと軽さを重視してこの大きさになった。


しかし相手はA級探索者。このままでは終わらない。


「あっつっ!」

「……ふぅ。こんなに早く出し惜しみができなくなるとはな。さすが俺が惚れた才能だ」

「惚れたとか気持ち悪いのですが」


刀が炎を纏う。自慢の丸盾は大きな傷が入っていた。

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