第21話




「今駅を出たとこ、すぐにそっちにいくよ」


電話の相手はマユだ。友達とダンジョンに潜るから付き合ってくれと約束をしていた。


マユとは未だに連絡を取り合う仲だ。最近は学業に専念してあまりダンジョンに一緒に入ることは少なくなった。

だけどボクの進学先が決まったからダンジョンに潜ろうということになった。


「「ノビタく~ん」」

「待たせてごめんね」

「まったくだわ」


まぁ、遅れてはないんだけどね。


車で待ち合わせ場所に到着し、マユとその友達2人に挨拶をする。


車は6人乗ってもゆったりなバン。女の子たちにとっては100点の車だそうだ。普通の大学1年生なら自分のお金でこんな車は買えないだろう。


一方でマユはちょっと不機嫌そうだ。いつの間にかボクに対抗心を持っていて、先にB級探索者になろうと頑張っていた。


しかし合格には至らなかった。多分ボクの方が先に合格すると思う。


「そんなカリカリしてるんならノビタくんのこと取っちゃおうかなぁ~?」

「なんでマユはこんな幼馴染のイケメンをほっとくのだろうね?」

「好きにしたら?」


言葉とは逆にますます不機嫌になるマユ。友達のアスカとユアはこれ以上からかうのを止そうと思ったようで車中の話題は割と大人しめだった。


どうやらボクはイケメンらしい。

ボクが見た目をある程度整えることができたのはマユの友達のナノハさんのおかげ。素材はいいからといろいろと教え込まれた。


ちなみにボクは童貞だ。同級生と付き合ったことはあったけど彼女の勉強が忙しくて自然消滅。そんなことが2回。


童貞といえば怖いことがある。ステータスだ。


ステータスは意識的、反射的じゃないと作用しないと言われているけど、いざというときに事故が起きるのではないかということが頭によぎってしまう。

だから次に彼女にするのならある程度レベルを上げた人をと思っている。





『それで、さっきのアンナとスズの話、どう思ってるわけ?』


さっきのとは?


緩めのダンジョン探索が終わりマユと別れて2時間後、彼女から受け止めに困るメールが飛んできた。


「なんの話だろう? もしかしてイケメンとか彼氏にしたいとか言われたことだろうか」


それとあの2人にはダンジョンの中で何度か触れられて距離も必要以上に近いことがあった。ただし厚手の戦闘服の上からだからそこまで動揺もなかったのだけど。


『少しドキッとしたよ。でもせっかくダンジョンに潜るんだったらもうちょっと緊張感は持った方がいいね』


本心は一旦置いといて、隣に彼女らがいることが前提の内容を返信した。


マユはボクに色々な友達を紹介するくらいだ。きっとボクに恋愛感情は持っていない。しかし女子の心はなかなかに理解しがたい。雑に扱わないのが身のためだろう。


あれこれ考えているうちに次のメールが来た。


『ふーんドキドキしたんだ。気が緩んでたことについては今シメとくから。じゃあね』


「ちょっと機嫌直ったよね? でも機嫌が直った原因が分からないんだけど……」


そういえば今日会った2人の連絡先を知らない。何度かそういうタイミングがあったけど、これってもしかしてマユが牽制したから?


いよいよマユがどういうつもりなのか分からなくなった。


「まあいいや。考えても無駄なことなら、今考えても仕方がない」


今やるべきは引っ越しの準備。

自分で運ぶのは衣類とパソコンくらい。家具家電は入居日にネット通販で届くように手配してある。

あと足りないものは買い足せばいいだろう。


呼んでもいないのに入居日に突撃してくるピンキー先輩と玄関前で押し問答をするとはこの時のボクはまだ知らない。

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