おもんぱかる

ハナビシトモエ

おもんぱかる

 出来レースの一学期中間テストも終わった。新生活なんて飾りだけ、小学校からの勉強スクールカーストで上位にいた奴が増えただけだ。五教科五百点取ったやついるらしいぞ。なんて噂も回る。

 高校生の兄貴がいるから様子は聞いている。カースト的にはお調子者でやや上位。

かなで。二学期の中間からだ。それから変わって来る」

 勝負は二学期のまで猶予がある。一学期中間がだった僕もスクールカースト上位になれば、お金持ちのご令嬢、おっぱい大きい、めちゃくちゃ可愛いなどの香川さんと付き合える。いや、今の目標は友達になる。勉強をして、なんだかんだあって、兄貴に外出してもらうように頼む。

「兄貴、勉強教えてくれ」

「百点じゃ、正直頑張って二百点だぞ」

 そこから頑張って勉強した。朝のホームルームで単語テストに「ちゃんと起きてから来なさい」と書かれて、一時間目の国語での違いは分からず、二時間目の男女別の体育では華麗にスリーポイントシュートを六本決めて、三時間目で塩酸をこぼした。昼食は意識しすぎて香川さんを見すぎるとをされてしまう。僕はあくまで紳士として一度お話をしたいと思っているのだ。昼食は幼稚園からの幼馴染のひかりと屋上だ。

「奏。無理だよ、お前小学校の時から体育以外は無理だったじゃん」

「そこを頑張って、おっぱい。いやおしゃべりしたい」

「確かにスタイルはいい。でもな、お前がそう思っているのを香川さんは気づいているぞ」

 なにそれ、僕の恋心を分かって目が合ったら笑ってくれているとか。僕の事好きじゃん。

「今日の放課後に告白するからどうしたらいいか教えてくれ」

「都合のいいところで解釈するな。その前に勉強のやる気」

「あるよ」

 僕はピーナッツバターの入ったコッペパンをひざに叩きつけた。バターが少しはねていた。

「ツッコミどころはたくさんだが、まず聞こう」

「朝の単語テストはちゃんと予習をしている」

「予習をした後にスマブラ通信対戦して寝不足で爆睡」

「光のせいじゃん」

「自制出来ない奏が悪い」

「そんなの目の前にバナナがあったら食べるでしょう」

「人間は腹に余裕が無いと食わないの」

「僕はスマブラに命かけているから」

「香川さんはどうなった」

「香川さんならスマブラも許してくれるよ」

「優先度は?」

「難しい」

「お前は馬鹿なのか、友達甲斐があるのか」

「単語は完璧なのに、なぜいつも力を発揮出来ないのか。それにしても発揮ってどう書くの?」

「お前にはまだ難しい」

 光は僕を見て難しい顔をして、悩み、ため息をつく。予鈴が鳴って、光はお弁当を口に詰め込んだ。僕もパンをちまちまと食べた。

「いつも思うけど、なんで押し込めないの?」

「パンは少しずつ食べるようにしつけられた」

「育ちはいいけど馬鹿だよな」

「馬鹿じゃない!」

「早く食え」

 お腹いっぱいだから英語はいい睡眠音声になった。頭に紙で覚えているだけで二回は叩かれたと思う。数学はよく分からないけど香川さんが発言していたから、手を挙げた。

「珍しいな、青森。じゃ、この公式書いてみろ」

 公式? スマブラで聞いた気がするな。そういえば、マリオって中国でコピー品が作られて大変だって光が言っていたな。そりゃコピー品より公式の方がいいに決まっている。ああいうキャラクターには作り手の情熱が入っている。それを無下にされるのは許されない。

「数学にコピーがあるなら、許せませんよね」

 やや、空白が出来た。聞こえなかったか。

「コピー品は!」

「分かった。それは聞こえている。先生は数学の公式を答えろと言ったのだ。そうだな、教科書を見ろ」

 寝るときは兄貴直伝の教科書を立てているスタイルなのだが、今の僕はやる気に満ち溢れているので、教科書の上に頭があるが多い。もちろん教科書は汚さないように閉じておいている。もし寝てしまってよだれが教科書についてしまって香川さんに引かれたら困る。

 僕は教科書を開いて公式を探した。いっぱい数字が書いている。

「どれですか?」

 ここで少し笑いが起きる。見なくてもの人だ。

「ここだ、ここ」

 さされた場所の事もよく分からなかった。顔を上げるとの人も笑っている。でも香川さんだけは笑っていなかった。やば、絶対に僕の事好きじゃん。

 社会は得意なのだ。暗記は得意な方だ。光に怒られそうだな。社会は日本の事が分かって楽しい。歴史が面白い、年号を覚えるのが苦じゃない。積極的に発言したからか、社会の先生と放課後に他の科目を少しずつ勉強している。

「青森、お前はやる気がある。いつか体が追い付くよ。腐るなよ」

 毎日同じことを言われるから覚えてしまった。社会の先生は数学が苦手だった。一緒だなと笑う先生に「でも僕は社会以外も苦手です」と言ったら、先生は笑顔で「そのうち」と肩を叩いた。

「暗記が得意なら、教科書を覚えればいい」

「でも意味が分からなくて」

 公式というやつさえ覚えたら、テストで点が取れると聞いた。英語も教科書の文章を覚えたら点が上がるし、国語もテスト範囲全部覚えればいい。もう一学期中間は終わった。次は一学期の期末だ。もう時間がない。

 先生は僕にスマブラは深夜一時までにしようと提案してくれた。盛り上がるのは大体三時くらいなので少し嫌な顔をしたようで、それならやる日とやらない日を決めようと言ってくれた。

「担任の先生に前日の英語のプリントをもらっておくよ。そこでちゃんと覚えているかチェックだ」

 熱心な先生に僕は香川さんの、いや香川さんと仲良くなるのが理由で勉強をしているのを知られたくなかった。賢くなるやいい大人になる為に勉強をすると思っていたから、僕は今まで勉強をしなかった。でもあの時に香川さんが笑わなかったからチャンスはある。

 僕は自宅であとは寝るだけの時間に単語帳を開いた。

 すぐには結果は出なかった。スマブラの出来ないストレスに耐え切れない瞬間があった。コントローラーを持ってモニターの電源をつけようとした時に社会の先生と香川さんの顔が浮かんだ。

 朝のテストで「あの青馬鹿が満点取った」と、学年で言われ出してから光に「スマブラ来ないの気分やと思っていたわ」と言われた。

「丸暗記か?」

「まぁ、それしかないから」

 僕はさっさとパンを食べて、光の隣で教科書を読んだ。

「光、これなんて読むん?」

 分からない漢字は答えを見ないと分からない。でも答えは先生しか持っていない。

 なので、光に聞くしかない。

「これはあれや、や」

「どういう意味?」

「相手の事を考えるとか、気にするって意味。と間違えやすいから、大きい字でって書いとけ」

 隅っこにと書いた。香川さんに見せられないくらいに僕の教科書はしわくちゃになった。大切な言葉の気がして、誰も見ないように小さく書いた。

 期末の範囲が発表され、スマブラゲーム会も休みに入った。前回は隠れてしている私学の友達もいたが、お小遣いがかかるとなればゲームどころではないらしい。

 僕はテストの三日前には全部覚えてしまったので、放課後校舎をうろうろしていた。帰れと言うべき先生も期末は副教科にテスト問題作成がある。

 静かだ。

 何もない、ここには何もない。ただ、テストでいい点を取って、香川さんと仲良くなりたい僕しかいない。順位にのるかな、二十位くらいに入ったら遊びに行けるかな。僕遊びに行く用の服持ってない。兄貴に借りると思ってもサイズ違うしな。

 きっと難しい顔をしていたのだろう。

「青森君、何をそないに難しい顔して」と、言われた。

「何もないよ。ただ遊びに行く服着て、え?」

 制服の香川さん。制服の僕。恥ずかしっ、ここには何もないとか考えてた。どうしよ。

「コロコロ表情が変わって面白いね」

「なんでテスト前に香川さんが?」

「それは青森君も」

「僕は気分転換に」

「私も。どっち?」

 キスする方か、される方か?

「帰り、校門出て」

「み、右」

「一緒よね。途中まで帰ろ」

 いいんかな、テストでいい点取らずに気になっている女の子と、うわぁおっぱいでか。違う違う、おっぱいは関係ない。

「どうした、どうした?」

 甘く、少し幼い声。それでカーストの上にいて、男の子や女の子に人気があって、可愛くておっぱいが大きい。

「いやなんでもない」

「首曲がっているけど」

「寝違えて」

「さっき普通に見えたけど」

「今、寝違えたの思い出して」

「何それ変なの」

 校門まで普通に無言で歩いた。香川さんは何も話さなかった。僕も何も言えなかった。

「その青森君は何してたん?」

「えっと、勉強の息抜き」

「ほんま?」

「本当」

 無言、どこかで曲がってこの時間なんてすぐに終わるのに「なんで学校に残っていたの」が言えない。

「うちな、お盆の前に引っ越すねん」

「え、なんで?」

「北海道やって、嫌や。寒いの嫌。さっきも転校の件で親と先生と話してた。テストは受けてくださいって。もうここにおらんようになるのにテスト勉強したくないなって思ってん。それでブラブラしてたら青森君がおってん」

「そうしたら」

「知ってるよ。社会の先生と秘密の特訓」

 うわ、恥ずかし。こういうのは本当に隠れて意外性で落とすって兄貴が後輩から借りてきたゲームしながら言っていた。

「でも、そんな」

「ごめん、職員室で聞こえてん。あのやる気の無かった青森をどう鍛えなおしたかって、社会の先生に何人か詰め寄って、でもよく分からへんわ」

「何が?」

「ちゃんと覚悟を決めたんですよ。先生方も見たでしょ。ちゃんと男の子の顔になってきましたよって、覚悟ってどんなん?」

 バレてた。社会の先生みんな分かってた。何重にも恥ずかしいよ。どうやってこれから話そう。

「覚悟教えてよ」

 そう、これがあった。ここで告ったら恥ずかしい勘違い野郎になるよな。もう転校するって聞いたから、転校するならってノリで記念告白みたいなのは嫌。何も言わないまま転校されるのはもっと嫌。

「テストで二十位に入ったら言う」

「入らんかったら?」

 あれ、その時どうするんやろ。ここで香川さんとの時間は終わって、さよならで二度と話すことが出来なくて、お盆の前にこの町から香川さんが消えてしまう。

「入るよ。絶対に入る」

「じゃ、私はライバルとして自分が五位に入らんかったら、何でも言うこと聞いてあげる」

 なんでも。

 なんでも。

 なんでも。エッチなことでもいいんかな。青森奏、お前は何を考えている。これは一緒に遊びに行くとか、一緒にスタバ行くとかのなんでもであって、告白とかキスとかタッチとかではない。タッチ、そういえばおっぱいが見るな奏。今そういう話をしていない。

「あ、これ?」

 香川さんのおっぱいに夢中で胸元のペンダントに目がいっていなかった。

「お母さんの骨やって、愛が重いやろ?」

「そんなことは無いよ。香川さんにとって特別やったら重いとかじゃなくて、その。僕は大切にし続けるべきだと思う」

「ほんま? ありがとう。元々関西に住んでたから、言葉がこっちがほんまもんで普段はにせもん。うちこっちやから、言葉の事内緒やからね」

 共通の秘密か。

 それで二日ふよふよした。三日目、テスト当日。見直しをして、全ての教科を終えた。それから香川さんは学校に来なかった。

 週明け、テストの順位が張り出された。

 僕の名前は二十位になかった。そして三位に香川さんの名前があった。中間は一位だったのに何かあったのかなと話すクラスメイトもいた。返却の時によく頑張ったなと複数の先生に言われた。科目によったら順番が合っていれば満点だったみたいだ。なので、一科目で五位というのはあったが、約束はあくまで総合の話だ。

 兄貴にも光にも笑顔で頑張ったなと言われた。程なくして、一学期も終わりを迎え同時に香川さんが仕事の都合で転校したと伝えられた。

 放課後、静かだ。何もない、ここには何もない。二十位に入れなかった僕しかいない。結局、想いを口にすることすら無かった。覚悟もいまや恥ずかしい。

「誰もおらんって思ったわ。お父さんいきなり言うから荷物引き上げるのに説得してから来てん」

 顔を上げると君がいた。

「覚悟を言えず、何でも言うこと聞けなくても友達になれると思うけど、どう?」

 香川さんは携帯を差し出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おもんぱかる ハナビシトモエ @sikasann

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画